旅客機なら、乗客は自分の足などを用いて自力で乗降してくれる。貨物は、コンテナやパレットを単位とする積み卸しが多いが、旅客機の預け入れ荷物ではバラ積みして個別に人力で積んだり下ろしたりすることもある。では、軍用輸送機の場合にはどうか。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

  • 「大箱」で構成する軍用輸送機の機内には、スペースが許す範囲で、車両でもヘリコプターでも搭載できる 引用:Airbus

    「大箱」で構成する軍用輸送機の機内には、スペースが許す範囲で、車両でもヘリコプターでも搭載できる 引用:Airbus

人員輸送の場合

「多種多様な積荷を載せられる」のが軍用輸送機の特徴だが、それは貨物輸送にとっては好ましいことでも、人間にとって好ましいこととは限らない。軍用輸送機が人を乗せる場面といえば、「単なる人員輸送」に加えて、「空挺部隊の降下」「人道支援任務における救出」もある。

人員輸送や空挺降下であれば、貨物室の左右に設置しているトループシート(troop seat、すなわち兵員のための椅子)を展開して座るものだが、見た感じ、旅客機の腰掛みたいな快適性は期待しがたい。それでも座って移動できるだけマシではある。

大型の輸送機だと、左右だけでなく貨物室の中央にも、中心線から左右それぞれ外向きに座る形でトループシートを設置できるのが通例。ただしこれは機内に常備しておくわけには行かないから、必要なときだけ取り付けることとなろう。

  • C-130輸送機の機内に、米陸軍・第25歩兵師団の砲兵隊が乗り込んだときの機内。左右と中央にトループシートを設置している様子が分かる。ただ、パラシュートと装備に身を固めた兵士は、身動きがとれそうにない Photo : US Army

    C-130輸送機の機内に、米陸軍・第25歩兵師団の砲兵隊が乗り込んだときの機内。左右と中央にトループシートを設置している様子が分かる。ただ、パラシュートと装備に身を固めた兵士は、身動きがとれそうにない Photo : US Army

一方、2021年8月にエアバスA400Mがアフガニスタンからの避難民を満載して飛び立ったときの写真を見ると、床に座り込んだ避難者がすし詰め。冗談抜きで「床が見えない」情況だった。非常時だから、それでも載せられるだけマシである。

  • その「すし詰め空輸」の模様を撮影した写真。シートベルトなんて締めているはずもなさそうだが、機体が傾いたときに将棋倒しにならなかったのかと気になる 引用:Airbus

    その「すし詰め空輸」の模様を撮影した写真。シートベルトなんて締めているはずもなさそうだが、機体が傾いたときに将棋倒しにならなかったのかと気になる 引用:Airbus

普通の人員輸送なら、自分の足で歩いてもらうことになるが、それだけではないのが軍用輸送機の面白いところ。ときどき民間輸送機でも事例があるが、傷病者を乗せた担架を運んだり、戦死者の遺体が入った棺を本国に運んだりすることもある。

担架を乗せる場合には専用のラックを使って上下に並べることで、スペースを有効活用している。といっても、随伴する医療スタッフの手が届く範囲でなければ具合が悪いから、二段積みが限界と思われる。

棺はそんな真似はしないで、ひとつずつ床に安置して固定しているようだ。国のために命を捧げた戦死者は、丁寧に扱われてしかるべきである。

  • 戦死者の遺体が入った棺をC-17Aで運んできて、これから降ろすという場面 Photo : USAF

    戦死者の遺体が入った棺をC-17Aで運んできて、これから降ろすという場面 Photo : USAF

扉を開いて空挺降下

軍用輸送機の場合、人を下ろす作業は地上だけとは限らない。空挺部隊を敵地の上空で下ろすこともある。後部胴体の左右に設けた扉を開いて、そこから飛び降りるのが一般的なやり方だが、後部ランプを開いて、そこから飛び降りることもある。

空挺部隊を下ろす場合、頭上に自動開傘索(static line)と呼ばれるワイヤーを張っておいて、各々の兵士は自分のパラシュートに付けられている索(リップコード)を、それにひっかける。リップコードの一端が機内の自動開傘索につながっているから、機外に飛び出すとそれが引っ張られて、パラシュートが自動的に開傘する。

ということは、軍用輸送機の機内にはそういう仕掛けも用意しておかなければならないということである。また、側面の扉から飛び出すため、扉の前に収納可能な「風除け」を組み込んであるのも、軍用輸送機ならではの特徴。

  • C-17の側面、空挺降下用の扉の前に付いている風除け。使用するときだけ展開する(左が前方) 撮影:井上孝司

    C-17の側面、空挺降下用の扉の前に付いている風除け。使用するときだけ展開する(左が前方) 撮影:井上孝司

  • C-17Aの機内から、これから空挺降下しようという場面。パラシュートのリップコードが、頭上の自動開傘索につながっている様子が明瞭に分かる Photo : USAF

    C-17Aの機内から、これから空挺降下しようという場面。パラシュートのリップコードが、頭上の自動開傘索につながっている様子が明瞭に分かる Photo : USAF

  • 実際に飛び降りるとこうなる。機外に飛び出した直後に、もうパラシュートが開いている様子が分かる Photo : USAF

    実際に飛び降りるとこうなる。機外に飛び出した直後に、もうパラシュートが開いている様子が分かる Photo : USAF

HALOとHAHO

ただし、パラシュート降下中は脆弱な状況に置かれる上に、日中にやると目立ってしまう。すると、できるだけ低空で下ろす方が好ましいという考え方ができる。しかし、高度が低すぎると安全な速度まで減速する余裕がなくなってしまうから、それが対地高度の下限を制約する。基本的には300m程度、場合によっては150m程度。

降下地点(DZ)が国境線からそれほど遠くなくて、かつ、送り込む人数が少ない場合には、DZの上空まで飛んで領空に入り込む代わりに、国境線の手前から降下させる方法もある。この場合にはできるだけ高い高度から降下して、降りながらDZに向かう。ただ、降下の際に輸送機は扉を開かなければならないから、これが降下高度を制限すると思われる。扉を開ければ機内の与圧は維持できないからだ。

これには、高高度降下低高度開傘(HALO : High Altitude Low Opening)と、高高度降下高高度開傘(HAHO : High Altitude High Opening)の2種類がある。HALOでは開傘まで自由落下するので、その分だけ落下速度が速くなり、空中にとどまる時間を短縮できる。しかし、滑空距離を長くとりたければHAHOの方が向いている。

いずれにしても、風向・風速が問題になる。敵地が風上側だと、降下している間にどんどん風下に流されてしまうから、それではDZにたどり着けない。

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。