京都大学(京大)は6月5日、大分県宇佐市安心院(あじむ)地域の約350万年前の新第三紀鮮新世(約533万3000年前~約258万年前)の地層から発見された「オオサンショウウオ科」の化石を詳細に解析した結果、新属新種であることを突き止め、「Limnospondylus ajimuensis」(和名:アジムオオサンショウウオ)と命名したことを発表した。
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アジムオオサンショウウオの復元画。約350万年前、現在よりも温暖湿潤な環境だった安心院地域の湖沼に生息していたと推測されている。なお、現在の同地域には、現生種のオオサンショウウオ(Andrias japonicus)が生息している。(c) Kanon Tanaka(出所:京大プレスリリースPDF)
同成果は、京大 総合博物館の野田昌裕研究員、京大 人間・環境学研究科の松井正文名誉教授、京大 地球環境学堂の西川完途教授の共同研究チームによるもの。詳細は、ライフサイエンスから工学まで、広範な技術・自然科学分野を扱うオープンアクセスの総合論文誌「PeerJ」に掲載された。
日本での両生類の多様性なども明らかに
オオサンショウウオ科(Cryptobranchidae)は、世界最大の体サイズを誇る現生両生類のグループだ。約6600万年前に小惑星の衝突で恐竜などが絶滅し、中生代白亜紀が終了した後に始まった、新生代古第三紀暁新世(ぎょうしんせい:約6600万年前~約5600万年前)に登場し、現在まで約6000万年にわたり存続してきた。今日では、日本と中国に分布するオオサンショウウオ属(Andrias)と、北米のヘルベンダー属(Cryptobranchus)の2属7種が知られている。
しかし、その進化史には多くの謎が残されている。現生種の主要な分布域であるアジアでは、最も新しい古第三紀漸新世(ぜんしんせい:約3390万年~約2304万年前)の化石種から現生種に至るまで、2000万年以上の時間的な隔たりがあり、その間がほとんど解明されていないのが現状だ。
そうした中、1995年から1997年にかけて、大分県宇佐市安心院地域の約350万年前の上部鮮新統(せんしんとう:鮮新世の地層)津房川(つむぎがわ)層から、オオサンショウウオ科の椎骨化石3点(以下、安心院標本)が北林栄一氏によって発見された。
安心院標本は、2001年にオオサンショウウオ属の一種として報告されたが、当時は現生種・化石種を含めた比較標本や骨学的研究が乏しく、正確な部位の同定や分類学的位置の決定には至らなかった。そこで研究チームは今回、最新の知見に基づいて安心院標本を詳細に分析することで、この課題の解決を試みたという。
今回の研究ではまず、安心院標本とオオサンショウウオ科の現生種の全身骨格の比較が行われた。その結果、3つの椎骨化石はそれぞれ、「前方胴椎」、「中部胴椎」、「尾仙椎」に属することが突き止められた。続いて、既知の化石種および現生種との詳細な比較が行われた。その結果、中部胴椎において他のオオサンショウウオ科には見られない独自の形態的特徴の組み合わせを有することが判明。これにより、新属新種であると判断された。
学名は「Limnospondylus ajimuensis(リムノスポンディルス・アジムエンシス)」とされた。属名のLimnospondylusは、ギリシャ語で湖を意味する「limne」と、背骨を意味する「spondylos」に由来する。種小名のajimuensisは、新属新種の提唱に用いた化石が、安心院地域に分布する湖沼堆積物の地層から発見された脊椎骨であることから、その由来にちなんで命名したという。
中部胴椎の前関節突起表面に残された成長線の観察と、現生種の計測値に基づく全長推定の結果、アジムオオサンショウウオは18歳前後で、全長約1.1mに達していた可能性が示された。
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アジムオオサンショウウオのシルエット(中央)と安心院標本の三次元構成画像。同標本に属する3つの椎骨は、大きさや発見地点が異なるため別個体に由来すると考えられている(滋賀県立琵琶湖博物館所蔵)。前方胴椎(a~e)、中部胴椎(f~j)、尾仙椎(k~o)の背側(a、f、k)、側面(b、g、l)、腹側(c、h、m)、前面(d、i、n)、後面(e、j、o)。f'は、中部胴椎の前関節突起表面に観察される合計18本の成長線(左)とそのスケッチ(右)。i'は、マイクロCTによる中部胴椎の断面画像。中部胴椎には、(I)強く側方に伸長する前関節突起、(II)前後方向に短く背腹方向に高い椎体、(III)幅広く発達した前関節突起基部、(IV)横突起の下縁が直線状になるといった独自の形態的特徴の組み合わせが観察された。(出所:京大プレスリリースPDF)
今回の化石が発見された津房川層は、ピアセンジアン期(約360万年前~約258万年前)に含まれる約350万年前の湖沼環境で形成された地層であり、ゾウやワニなど、現在の日本には生息していない大型動物の化石も多く発見されている。当時の九州北部は、現在よりも温暖で湿潤な環境だったと考えられており、アジムオオサンショウウオもそのような湖や湿地が広がる環境に生息していたと推定される。また、その後の世界的な寒冷化に伴う生息環境の変化によって、同種は絶滅した可能性があるとした。
一方、日本固有のオオサンショウウオ科の現生種オオサンショウウオ(Andrias japonicus)は、現在も安心院地域を流れる河川に生息している。今回の研究は、過去の日本における両生類の多様性を明らかにすると共に、オオサンショウウオ科が現在よりも多様な環境に生息した可能性を示す重要な成果と位置づけられた。
またオオサンショウウオ科は、化石種と現生種を含めても、世界でもこれまでに5属しか知られておらず、今回の新属の発見は、その多様性を示す重要な成果となったという。同グループの化石は北半球の各地から発見されているものの、同定や分類の困難さから、その多くが暫定的にオオサンショウウオ属の一種として報告されてきた。しかし、今回の研究によってそうした化石の中には、多くの未記載種が含まれている可能性が示唆された形だ。
オオサンショウウオは、化石種から姿が大きく変わらないことから「生きた化石」とも呼ばれている。しかし、実際には従来考えられてきたような保守的なグループではなく、多様な形態や生態を有していた可能性もある。研究チームは今後も研究を進め、オオサンショウウオの進化史を紐解いていくとしている。
