東海大学、ふじのくに地球環境史ミュージアム、東京都立大学(都立大)、東京大学(東大)の4者は5月26日、これまで日本列島に生息していたナウマンゾウは約2万4000年前に絶滅したと考えられてきたが、より信頼性の高い手法で化石の放射性炭素年代測定を行った結果、絶滅年代は約3万5000~3万3000年前と、約1万年古く見直されたと共同で発表した。
また、この結果から、約3万9000~3万8000年前に日本列島に到達したホモ・サピエンス(現生人類)との共存期間が、従来の想定より大幅に短い約4000~6000年間だったと修正され、ナウマンゾウの絶滅の主因は現生人類の狩猟圧ではなく、気候変動による生息環境の変化だった可能性が示唆されたことも併せて発表した。
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今回の研究の概要図。(上段)各時期のナウマンゾウと旧石器時代の人類のイメージ。(中段)気候変動のイメージ。(下段)ナウマンゾウ化石と旧石器時代遺跡の放射性炭素年代値の確率分布。(出所:共同プレスリリースPDF)
同成果は、東海大学人文学部の日下宗一郎准教授、ふじのくに地球環境史ミュージアムの西岡佑一郎准教授、東海大 人文学部の木村淳教授、都立大 人文社会学部の岩瀬彬助教、東大大学院 人文社会系研究科の森先一貴准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系のオンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
高信頼性の手法でナウマンゾウの歴史を修正
ホモ・サピエンスは今から約30万~20万年前にアフリカ大陸に登場したと考えられており、その後世界に拡散していった。後期更新世(約12万9000年前~1万1700年前)には、いくつかの大型ほ乳類の絶滅が確認されているが、気候変動の影響によるものなのか、人類の狩猟活動によるものなのか、どちらが主因なのか未だに議論の決着を見ていないものも多く、ナウマンゾウもその議論の対象となっている種の1つだ。
ナウマンゾウは、氷河時代に日本列島に生息していたゾウの仲間で、従来は約2万4000年前に絶滅したと推定されていた。しかし、従来の研究で利用されていた年代測定方法の「ゼラチン化法」は、微量の新しい炭素による汚染を除去しきれず、後期更新世の化石年代を実際より若く見積もってしまう可能性があることが以前より指摘されてきた。
一方、日本列島へのホモ・サピエンスの到達時期は、約3万9000~3万8000年前と考えられている。そのため、ナウマンゾウの絶滅要因を考察するには、両者の正確な共存期間の把握が不可欠となる。そこで研究チームは今回、愛媛県今治市周辺の瀬戸内海から産出した海揚がりのナウマンゾウ化石について、新たな年代測定を実施したという。
今回用いられた放射性年代測定は、化石骨から長鎖コラーゲンのみを抽出して不純物を効果的に取り除く「限外ろ過法」を用いるものだ。その過程で、採用するコラーゲン抽出方法が年代値に大きく影響を与えることが明らかにされた。
一方、これまでに報告された日本列島内の化石の分析方法を確認したところ、従来のゼラチン化法が多く採用されていたことが判明した。そこで、本州・四国で報告された化石の年代についても、限外ろ過法を用いて再測定が行われることとなった。
加えて、国内約100か所の旧石器時代遺跡から得られた約500点の炭化物年代データを集成し、「合計確率分布法」により統計解析が行われた。その上で、ナウマンゾウの絶滅時期と現生人類の到達時期(旧石器時代の人口動態)を統計的に算定し、両者の共存期間の検討と絶滅プロセスの考察が行われた。
高確度な限外ろ過法を用いて化石を再測定した結果、ナウマンゾウの絶滅年代は約3万5000~3万3000年前と推定され、従来説よりも約1万年古いことが明らかにされた。これは、長鎖コラーゲンの抽出により、従来の測定法では除去しきれなかった微量の新しい炭素による汚染を効果的に排除できたためである。
この絶滅年代の修正により、日本列島へ到達した現生人類とナウマンゾウの共存期間は、想定より大幅に短い約4000~6000年間だったことが示された。この期間、人類の人口は増加傾向にあったが、遺跡の分布データを用いた解析では、人類の主な活動地域とナウマンゾウの生息域が、時間・空間的に重なっていない傾向が示されたという。
さらに、当時の主要な狩猟具である台形様石器は、大型ほ乳類の狩猟に不向きだった可能性も指摘されていた。これらの証拠から、ナウマンゾウ絶滅の主因は、人類による狩猟圧よりも、亜氷期と亜間氷期が繰り返された気候変動に伴う生息環境の変化だった可能性が示唆された。
今回の成果は、信頼性の高い年代データに基づいて、日本列島における大型ほ乳類の絶滅プロセスを科学的に書き換えたことから、重要な意義を持つとする。また、今回の後期更新世の化石の長鎖コラーゲンを用いた信頼性の高い放射性炭素年代測定の成果から、今後、他産地のナウマンゾウ化石に加え、ヤベオオツノジカなどの他種についても、年代の再測定を進める必要があるとした。
研究チームは今回の成果に対し、後期更新世の化石のコラーゲンを用いた放射性炭素年代測定に関して、適切なコラーゲン抽出法を選択すること、また分析結果を詳細に報告することの重要性を強調する。さらなる調査を通じて、ナウマンゾウの絶滅年代の推定をより詳細にし、現生人類の日本列島への到達時期の精査も含め、大型ほ乳類の絶滅プロセスの解明が進むことが期待されるとしている。


