アニコム先進医療研究所、麻布大学、アニコム パフェの3者は6月1日、英国スコットランド地方原産で、日本でも人気の高い猫種「スコティッシュ・フォールド」の特徴である「折れ耳」形質に関与する「TRPV4遺伝子 c.1024 G>T変異」を有する猫の一部において、成長に伴い、外見上は立ち耳様に変化する現象を遺伝学的に確認したと共同で発表した。
同成果は、アニコム先進医療研究所 研究開発部の松本悠貴上席研究員(麻布大 データサイエンスセンター 特任准教授兼任)らの共同研究チームによるもの。詳細は、国際家畜遺伝学会が刊行する、動物の遺伝学を扱う論文誌「Animal Genetics」に掲載された。
一部の猫で成長と共に立ち耳様に変化する現象を確認
スコティッシュ・フォールドの特徴的な“折れ耳”は、根本的な治療法がなく痛みを緩和する対症療法に限られる軟骨の奇形「遺伝性骨軟骨異形成症」に起因する。外見の愛らしさの一方で、耳だけでなく全身の軟骨や骨で変形が生じる可能性があり、場合によっては激痛や歩行困難などを伴うこともあり得る。1961年にスコットランドで発見された折れ耳の野良ネコに由来するとされ、その愛らしさからブリーダーによってスコティッシュ・フォールドという猫種が確立された。しかし近年は動物福祉の観点から、欧州ではスコティッシュ・フォールドの繁殖や登録を禁止・制限する動きも広がっている。
日本においては明確に繁殖を禁止する法律はないものの、スコティッシュ・フォールド同士の交配で生まれた個体はほぼ確実に変異遺伝子を受け継ぐため、幼猫期から遺伝性骨軟骨異形成症が重症化して、生涯にわたり激痛に悩まされるといったリスクが極めて高くなるとされる。そのため、業界団体ではスコティッシュ・フォールド同士の交配を禁止する自主規制を設けているほか、両親がスコティッシュ・フォールドである場合は血統書が発行されないなどの対応が取られている。
折れ耳に大きく関わるのが「TRPV4」遺伝子だ。同遺伝子は細胞内外のカルシウムの流れを調整することで、軟骨細胞が刺激に応答する仕組みに影響し、猫では耳や関節などにある軟骨の発達に関与している。具体的には、TRPV4遺伝子のコーディング領域1024番目の塩基であるグアニン(G)が、チミン(T)に置き換わってしまっていることが原因で折れ耳が生じることが明らかにされている。
ヒトを含む多くの動物は、両親から染色体を1組ずつ受け継ぐ二倍体生物である。変異のある遺伝子と正常な遺伝子の組み合わせを「ヘテロ接合体」という(変異を片方の親からのみ受け継いだ状態)。従来、折れ耳の変異に関しては、ヘテロ接合体では折れ耳、野生型(いずれも正常型)では立ち耳を示すと考えられてきた。しかし、ブリーダーや獣医療現場では、外見上は立ち耳に見えても、折れ耳に関連する遺伝的要因を有する個体の存在が経験的に指摘されていた。
そこで研究チームは今回、アニコム損害保険のペット保険契約者(飼い主)の協力を得て、保険契約時および更新時に蓄積された画像データとDNAサンプルを用いることで、この現象を科学的に検証したという。
今回の検証において、画像品質などの条件を満たした114頭を解析対象とした結果、TRPV4変異のヘテロ接合体55頭のうち7頭(12.7%)において、幼猫期には折れ耳だったにもかかわらず、成長に伴い外見上は立ち耳様に変化する現象が確認されたとする。これにより今回の研究対象では、外見上は立ち耳様に見える個体の中に、折れ耳関連変異を有する「隠れ折れ耳」の個体が含まれることが示されたとした。
さらに、正面画像が得られた14頭の解析では、隠れ折れ耳群の耳介サイズが、野生型の立ち耳群より有意に小さい結果が得られたとした。ただし、その差は大きくなく、画像データを用いた詳細な分析では区別できる一方で、外見のみで正確に判別することは難しいことが推測された。
スコティッシュ・フォールドの折れ耳変異を持つ個体同士の交配によってTRPV4変異の「ホモ接合体」(変異が2つ揃っている状態)が生じた場合、重度の骨軟骨異形成症を呈するリスクが高い。幼猫期から激痛を伴う生涯を送る可能性が極めて高いため、スコティッシュ・フォールド同士の不用意な交配は避けるべきだ。なお、ヘテロ接合体であっても臨床症状の有無・程度には個体差があり、研究チームは今回の研究成果に対し、特定の交配を推奨するものではないとする。
また今回の研究は、外見上は立ち耳に見えても、遺伝学的には折れ耳関連変異を有する個体が存在することが示された点で、遺伝性疾患リスクの把握・管理の観点から重要な知見とする。今後は、外見のみではなく、TRPV4遺伝子検査によって変異の有無を確認することで、スコティッシュ・フォールドの遺伝性疾患リスクの把握・管理や動物福祉の向上につながることが期待されるとしている。

