国立天文台(NAOJ)は5月1日、「冥王星以外で初めて、太陽系外縁天体に大気を発見」と題した研究成果のメディア説明会を実施し、エッジワース・カイパーベルト領域に属する小天体「(612533)2002 XV93」において、大気が観測されたことを発表した。
説明会には、研究の中心を担ったNAOJ 天文情報センター 石垣島天文台の有松亘講師/室長と、彗星研究の国際的な第一人者である京都産業大学 神山宇宙科学研究所の渡部潤一所長/特別客員教授(前・NAOJ 天文情報センター 特任教授)が出席した。なお今回の成果の詳細は、英科学誌「Nature」系の天文学術誌「Nature Astronomy」に掲載された。
-

太陽系外縁天体「2002 XV93」が、ぎょしゃ座の15等星を隠す様子(恒星掩蔽)を描いたイメージ。大気によって星の光が緩やかに暗くなり、また明るく回復する現象が捉えられた。(c)国立天文台(出所:NAOJプレス向け配付資料)
海王星の外側に広がる広大な「太陽系外縁」の世界
太陽系には8つの惑星が存在し、近年は「プラネット・ナイン」の存在が取り沙汰されているが、現時点で最も太陽から遠い軌道を巡っているのは海王星である。太陽からの距離は、太陽~地球間(約1億5000万km=1天文単位(au))の約30倍に及ぶ。
しかし、もちろん太陽系はそれで終わりではない。かつては惑星として分類されていた冥王星は、その軌道の9割以上が海王星の外側に位置し、遠日点は50au弱に達する。この約30~約50auまでに至るドーナツ状の領域は「エッジワース・カイパーベルト」と呼ばれ、第2の小惑星帯ともいうべきほど数多くの小型天体が存在し、冥王星は今ではこのカイパーベルト天体を代表する存在となっている。カイパーベルト天体は多かれ少なかれ海王星の重力の影響を受けており、例えば冥王星は、海王星が3回公転する間に2回公転する「3:2の共鳴軌道」の関係にある。重力的に束縛され、安定した軌道のカイパーベルト天体も多い。
一方、海王星の重力によって弾き飛ばされ、カイパーベルト領域を越えて遠方へと向かう不安定な軌道の「散乱円盤天体」も存在する。準惑星「エリス」がその代表で、近日点は約38auだが、遠日点は約98auに達する。これは、冥王星の遠日点の約2倍の距離に相当するという。
さらに遠方には、近日点ですら76auと海王星の重力圏外にあり、遠日点が1022auに及ぶ準惑星候補「セドナ」のような「極端太陽系外縁天体」も存在している。セドナの仲間の「セドノイド」には、近日点が約64au、遠日点が約2714auに達する「レレアークーホヌア」もある。このほか、近日点は約36auとカイパーベルト領域にあるために極端太陽系外縁天体ではないが、遠日点は約4977auという、極めて細長い軌道を持つ「2014 FE72」のようなとてつもない距離を移動する天体も存在している(これらのデータは、NASA JPL 小天体データベースによる2026年5月時点での情報に基づく)。こうした海王星の外側を回る天体たちが、「太陽系外縁天体」と総称されている。
余談ではあるが、太陽系にはさらに遠方の軌道に位置する「オールトの雲」と呼ばれる天体群が存在すると推測されている。約2000auから始まり、最外縁は約10万au(約1.6光年)になると見積もられている。オールトの雲は広義では太陽系外縁天体に含まれるが、その生い立ちや軌道などの特徴から狭義では区別されることが多い。太陽の重力が及ぶ範囲を太陽系とするのなら、海王星の先には果てしのない世界が広がっているのである。
-

オールトの雲のイメージ。上の拡大図がカイパーベルトまでの範囲を表しており、オレンジ色は海王星の重力的な影響をあまり受けていない古典的なカイパーベルト天体の軌道の例、黄色は冥王星の軌道。オールトの雲の領域がとてつもなく工大であることがわかる。(c)NASA(出所:NASA Webサイト)
太陽系外縁天体は静かな天体と思われてきた
太陽系外縁天体が位置する領域は、太陽から極めて遠く、届く熱もわずかである。そのため、冥王星付近では太陽光は地球の約1500~約1600分の1しかなく、表面温度は約-220~約-230℃まで低下する。さらに遠方のオールトの雲では、約-270~約-260℃に達すると見積もられている。そのため太陽系外縁天体の多くは、変化の乏しい凍り付いた「静かな世界」と考えられてきた。
-

太陽系外縁天体「セドナ」の地表から見る太陽のイメージ。太陽光の強さは約4000分の1しかなく、地表は-220℃を下回る極寒の世界と考えられている。(c)NASA, ESA and Adolf Schaller(出所:NASA Webサイト)
この極寒の環境では多くの物質が凍結するが、窒素、メタン、一酸化炭素といった「超揮発性物質」は条件次第で気体として存在し得る。しかし、これらの物質は天体表面から宇宙空間に逃げやすいことから、保持し続けるには十分な重力が必要だ。これまでに明確な大気が確認されているのは、太陽系外縁天体中で最大サイズを誇る冥王星(直径約2377km)のみであった。地球の約1万分の1~約10万分の1の気圧ではあるが、窒素を主成分とする大気が存在する。つまり、少なくとも冥王星程度の質量があれば、大気を維持できる可能性があるといえる。
-

NASAの探査機「ニューホライズンズ」が捉えた冥王星の大気。青いもやの層構造が確認できる。この青色は有機化合物「ソリン」微粒子による散乱に由来する。(c)NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Southwest Research Institute(出所:NASA Webサイト)
しかし、冥王星よりも質量が約27%大きい準惑星「エリス」であっても、明確な大気の証拠は得られておらず、準惑星の「ハウメア」や「マケマケ」、準惑星候補で環のある「クワオアー」なども動揺である。そのため、直径1000km以下のより小型の天体では、さらに重力が小さくなるため大気の存在は極めて困難と考えられてきた。一時的にであれば大気を持つ可能性も指摘されてはいたが、観測の難しさからその実態は不明だった。
-

太陽系外縁天体の大きさと大気検出の比較図。今回、冥王星の約5分の1の直径であるカイパーベルト天体2002 XV93で大気が確認された。制作:有松亘 (c)国立天文台(出所:NAOJプレス向け配付資料)
恒星掩蔽現象で太陽系外縁天体の大気を調査
そうした中、有松亘講師らの研究チームは、恒星掩蔽を利用して包括的に調べる連携観測キャンペーン「TABASCO(タバスコ)」(Trans-Neptunian Atmospheres and Belts Analysis through Stellar-occultation Coordinated Observations「恒星掩蔽観測を通じた太陽系外縁大気および帯状構造の解析」)の一環として、2024年1月10日(日本時間)、日本国内の複数箇所でカイパーベルト天体「2002 XV93」の観測を行ったという。
同天体は、太陽から約38auの距離にあり、直径は約500kmと見積もられる小型の天体だ。研究チームは詳細な軌道計算に基づき、同天体が、ぎょしゃ座の15等星を掩蔽する現象を予測し、観測が実施されることとなった。
-

カイパーベルト領域(緑帯)を含めた太陽系の軌道図。2002 XV93(黄色点は観測時の位置)は、冥王星に近似した軌道を巡っている。なお、火星より内側の内惑星は軌道が小さすぎるために割愛されている。制作:三上真世 (c)国立天文台(出所:NAOJプレス向け配付資料)
恒星掩蔽は、手前の天体が遠くの星の前を横切って、遠くの星を一時的に隠す天文現象である。星が隠れる時間から天体のサイズが、隠れる瞬間の光の変化から大気の有無が判別可能だ。大気がない場合、星の光は瞬時に遮られるが、大気がある場合は屈折によって明るさがなだらかに変化する。これにより、極めて希薄な大気でも検出できるのである。
-

恒星掩蔽観測により大気の有無を見分ける仕組み。(上)大気がない場合、星の光は瞬時に消え、また反対側では瞬時に現れる。(下)大気がある場合、屈折により星の明るさは緩やかに変化する。制作:有松亘 (c)国立天文台(出所:NAOJプレス向け配付資料)
観測は、日本国内の3地点(京都府京都市、長野県木曽郡木曽町、福島県田村郡三春町)で実施された。京都では有松講師が開発した、口径20cmの望遠鏡を用いた小型観測システム「SoCoSoCo PONCOTS」(ソコソコポンコツ、SOlving COmet and other SOlar-system COmplexity Planetary ObservatioN Camera for Optical Transient Surveys「彗星やその他の太陽系における複雑な現象を解明する、光学的過渡現象調査のための惑星観測カメラ」)が用いられた。2021年に有松講師が木星に小天体が衝突した際の巨大閃光現象を観測することに成功しているが(記事はこちら)、その際の観測システム「PONCOTS」が改良され、「SoCoSoCo PONCOTS」になったという。何ともユニークな観測システム名である。
そして長野では、東京大学 木曽観測所の口径1.05mのシュミット望遠鏡に搭載されたモザイクCMOSによる動画撮影用カメラ「Tomo-e Gozen(トモエゴゼン)」が用いられた。さらに福島では、市民天文学者の細井克昌氏が口径25cm望遠鏡を用いて観測を実施。3地点それぞれで観測データの取得に成功し、このうち2地点(京都・長野)では、同日22時12分~13分にかけて発生した2002 XV93による掩蔽観測が達成されたといい、京都では約18.0秒、長野では約16.5秒の継続時間を持つ観測が行われたとしている。
-

掩蔽の予測範囲と観測地点。赤線は掩蔽の中心、誤差のない掩蔽が観測可能な範囲が青実線の地域、誤差を含めた観測可能な範囲が青点線の間の地域。15等星は、市販望遠鏡で観測するには極めて暗い天体だったことから、当初、市民天文学者の参加は難しいと思われていたが、福島県田村郡三春町で細井氏が独自に観測を実施し、後にそのデータが有松講師らに提供され、3地点での観測を合わせることで、データの精度が大きく向上したという。(c)国立天文台(出所:NAOJ 記者説明会用プレゼンPDF)
また長野の観測では、掩蔽の開始と終了の双方で、約1.5秒の緩やかな光度変化が捉えられた。福島では、天体本体による掩蔽は観測されず、影の縁に近い位置での減光の兆候が観測された。これらは大気がない場合には説明不可能な現象だった。また、今回の観測から、2002 XV93の直径は440~514kmと推定された。
-

長野のTomo-e Gozenカメラで撮影された掩蔽の様子。画像中央の白丸に囲まれた天体が2002 XV93。(c)東京大学(出所:NAOJプレス向け配付資料)
-

観測3地点での光度曲線。京都と長野では本体による掩蔽が観測されたが、福島では大気によると考えられる減光のみが確認された。(c)国立天文台(出所:NAOJ 記者説明会用プレゼンPDF)
-

長野(上)と福島(下)の光度変化。誤差棒付きの点が実際の観測値で、大気がないと仮定した場合(上図点線)には説明不可能な、なだらかな恒星の光度変動が影の周縁で見られた。赤線の大気ありモデルがなだらかな変動をよく再現している。Arimatsu et al.(2026)より改変された図(出所:NAOJプレス向け配付資料)
-

恒星掩蔽時の明るさの変化に関する模式図。垂直に変化する「大気なし」に対し、実測値は斜めに変化する「大気あり」を示した。(c)国立天文台(出所:NAOJ 記者説明会用プレゼンPDF)
2002 XV93による恒星掩蔽前後の明るさの変化を模式的に表した公式動画「Conceptual video for Arimatsu et al. (2026)」。(c)国立天文台(出所:YouTube国立天文台公式チャンネル)
2002 XV93の大気は地球の500万~1000万分の1
研究チームは、回折や恒星の見かけの大きさだけでは説明できないことを示した上で、冥王星型天体の温度構造を仮定した大気モデルを用いて詳細な解析を行ったとする。その結果、主成分を窒素、メタン、一酸化炭素のいずれと仮定しても、表面圧力100~200ナノバール程度の薄い大気を想定すると、すべての観測地点で得られた観測データを非常によく再現できることが判明したという。これは、地球の500万~1000万分の1、冥王星の50~100分の1という極めて希薄な大気である。
この発見は、「明確な大気は大型の天体のみに限られる」という従来の常識を覆すものである。直径わずか500km級の小天体でも、条件次第では大気を持ち得ることが実証されたのだ。
しかし、2002 XV93は重力が弱いため、ガスが供給され続けない限りは1000年程度で宇宙空間へ散逸してしまうと考えられている。そのため大気の起源として「低温火山活動による内部からのガス放出」と、「比較的最近に起きた100~数百m級の氷天体の衝突による一時的な大気生成」の2つの可能性が提示された。どちらの場合であっても、太陽系外縁天体に対する「活動性や変化のほとんどない世界」という従来の見方を大きく見直すことになる。
-

2002 XV93の大気の起源として、「低温火山活動による内部からのガス放出」と「比較的最近に起きた100~数百m球の氷天体の衝突による一時的な大気生成」の2つの可能性が考えられるとした。(出所:NAOJ 記者説明会用プレゼンPDF)
もし衝突起源であれば、今後数年のうちに大気圧が単調に低下していくことが予想される。またこれに付随し、太陽系外縁部は天体同士の衝突の発生確率は低いと見積もられていたが、その知見が更新される可能性がある。一方で、大気圧に単調な低下が見られないか、季節的な変化が見つかれば、内部供給の可能性が高まる。今後は、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による赤外線分光観測などが、大気の正体に迫る鍵を握るとする。
さらに今回の成果は、国内の中小望遠鏡ネットワークと市民天文学者、そして研究者の垣根を超えた連携が、最先端の研究に迫れることが示された点も重要とのこと。大規模望遠鏡・観測装置だけに依存せず、機動的な多地点観測網を構築することで、太陽系外縁で起きる希少な現象を捉えることが可能であることを実証したからだ。こうした連携観測は今後、巨大望遠鏡や宇宙望遠鏡による観測を補完しつつ、観測天文学の新しい柱になっていくことが期待されるとしている。
