大阪公立大学(大阪公大)は5月18日、公園へのアクセス経路の環境が、住民の日常的な歩行にどのような影響を与えるのかについて、84人を対象として複数年にわたり調査した結果、経路沿いに街路灯が多いほど、より多く歩く人が増える傾向が見られたと発表した。
同成果は、大阪公大大学院 生活科学研究科の松下大輔教授らの研究チームによるもの。詳細は、交通科学とその周辺領域を横断的に扱うオープンアクセスジャーナル「Transportation Research Interdisciplinary Perspectives」に掲載された。
AI画像認識と歩数データから見えた新事実
歩行が健康維持に寄与することは、よく知られた事実である。どの年代においても歩行は健康増進につながるが、特に高齢者は加齢と共に運動量が低下しやすいため、日常生活の中で意識的に歩く習慣を持つことが重要とされる。
しかし、目的地なしに漫然と歩行することを苦手とする人は少なくない。そこで重要となるのが目的地の存在であり、近隣の公園は散歩やウォーキングなどの目的地として設定しやすい好例といえる。公園が近隣に存在することは住民の日常的な歩行量を増加させる要因となるが、単に存在するだけでは不十分であり、自宅から公園に至るアクセス経路、つまり街路環境の質も重要な要素であることが指摘されてきた。
街路環境には、街路灯や緑地、植栽、交通標識、塀、歩道、空など、多種多様な要素が含まれる。これら「アイレベル(歩行者目線)」の景観要素は、人々の歩行意欲に大きな影響を与えることが知られているものの、公園までのルート沿いにある環境要素が、日常的な歩行量とどのように関連しているのかについては、これまで十分な研究がなされてこなかった。そこで研究チームは今回、大阪府富田林市で実施された歩行習慣推進活動の参加者84人を対象に、複数年にわたる追跡調査を行ったという。
今回の調査において、参加者は活動量計を常時携帯し、日々の歩数が記録された。同時に、参加者ごとに自宅から最寄りの公園までの最短経路を特定し、その経路沿いにある街路景観要素をAI画像認識技術によって計測する試みが進められた。
このAI画像認識技術とは、コンピュータが画像から自動的に特定の物体や特徴を自動抽出する技術であり、今回は「Google Street View」の街路景観画像から街路灯、看板、植栽などの要素を自動認識し、数量などを算出するために用いられた。これにより、人間が目視で行うには膨大な時間を要する大量の画像データの効率的な分析が実現された。
その後、得られた街路景観要素のデータと参加者の日常的な歩数との感冷静についての統計的な分析が行われた。さらに、結果の正確性と信頼性を確認するため、異なる条件を適用する感度分析や、「ブートストラップ法」と呼ばれる統計的検証の一種が実施された。これらの多角的なアプローチにより、限られたサンプル数であっても信頼性の高い結果が得られることが担保された。
研究の結果、公園までの経路沿いに街路灯が多いほど、十分な歩行量を維持する住民が増える傾向にあることが明らかにされた。具体的には、景観内に占める街路灯の割合が0.25%増加すると、目標歩数を達成する確率が約2.17倍に高まることが導き出された。これは、夜間も含めた道路の明るさが安全性と快適性を担保し、人々の歩行意欲を直接的に誘発している可能性を示唆する成果とした。
一方、交通標識が多い経路では、逆に歩数が不十分になる確率が高まることも判明した。具体的には、交通標識要素が0.07%増加すると、十分な歩数を達成する確率が約0.23倍にまで低下することが示された。これは、交通標識が密集する地域ほど車両の交通量が多く、歩行者にとって危険かつ不快な環境であることを反映していると推測された。また高齢層においては、経路沿いに植栽が多いほど歩数が少なくなる傾向も観察された。過度な植栽は死角を生み出し、犯罪への不安や肉眼的な見た目的な危険性と結びつくため、歩行ルートとして忌避される可能性が示唆された。
今回の研究により、単に公園というインフラを新設するだけでなく、そこに至るアクセス経路の街路環境を適切に整備・デザインすることが、住民の日常的な歩行量を底上げする有効なアプローチに成り得ることが明らかにされた。今後の展開として、より大規模なサンプルや異なる地域特性を持つ自治体での検証、さらには複数の公園への経路を包括的に扱う複合的な分析が必要であると考えられるとした。加えて、特定の環境改善介入を自裁に施した地域を対象に、歩数変化との直接的な因果関係を解明する分析も重要視されるとしている。
