筑波大学とREJECTの両者は6月5日、日本のeスポーツ選手を対象とした調査により、プロ・アマチュア問わず43.3%の選手が「睡眠の質が不良」であり、特に午前3時から8時59分の時間帯にプレーする選手に睡眠不良が多いことが示されたと共同で発表した。
また、プロ選手は就寝や起床時刻の後ろ倒しが、アマチュア選手は睡眠時間の短さが問題となっていることがわかったことも併せて発表した。
同成果は、筑波大 体育系の松井崇准教授、同・門間貴史准教授、REJECTの甲山翔也代表取締役らの共同研究チームによるもの。詳細は、人文科学・社会科学など、文系に特化したオープンアクセスの総合論文誌「Sage Open」に掲載された。
90名のeスポーツ選手に調査 - 見えた課題とは
eスポーツは、MOBA(マルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ)やFPS(1人称視点シューティング)、対戦格闘、レースゲームといったさまざまなタイプのビデオゲームを題材に、チームや個人で行う競技だ。世界的にプレーヤー人口や市場規模が拡大しており、日本でも強豪国に比べると数は少ないものの、現在は多くのプロゲーマーが活動している。
eスポーツで高い競技パフォーマンスを実践するには、注意力、ワーキングメモリ(情報を一時的に記憶する能力)、実行機能などの認知機能が重要とされ、長時間にわたるトレーニングも少なくない。認知機能とは、ヒトが内外の情報を選択的に取り込み、統合・解釈し、必要に応じて保持・更新しながら、目的に沿った判断と行動を可能にする脳内情報処理過程の総称だ。
eスポーツでは、高密度な視覚入力下での選択、持続注意、視空間ワーキングメモリの更新、抑制、切り替えを含む実行機能を統合し、迅速な意思決定と運動出力に結びつける能力がパフォーマンスを支える。先行研究では、熟練者の注意力や空間認知力が高いことや、注意力、情報処理力、課題切り替え能力などがeスポーツの競技成績と関連することが報告されている。
一般に「ゲーマーは睡眠が不規則・不十分」といった印象があるが、eスポーツ選手に焦点を当て、睡眠の質不良の割合や、eスポーツレベル(プロ、アマチュア)の差、属性やプレーの実態との関連まで検討した研究は限られていた。そこで研究チームは今回、日本のプロおよびアマチュアのeスポーツ選手を対象に、主観的な睡眠の質の実態と関連要因を解明することを目的とした調査を行ったという。
今回の研究では、国内のプロ1チーム、アマチュア5チームの協力を得て、90名(平均年齢22.4歳、プロ選手35名、アマチュア選手55名)のeスポーツ選手を対象にWeb調査が行われた。調査では、国際的に広く用いられている、主観的な睡眠の質を総合的に評価する質問尺度「ピッツバーグ睡眠質問票」(PSQI)が用いられた。それと同時に、対象者には、普段のeスポーツの活動状況などに対する質問も行われた。
なおPSQIは、「睡眠の質」、「入眠時間」、「睡眠時間」、「睡眠効率」、「睡眠困難」、「眠剤の使用」、「日中覚醒困難」の7因子18項目で構成され、算出された合計得点が高いほど睡眠状態が不良であることを示す。今回の研究では不眠症の目安である5.5点を基準に、5.5点未満を「良好」、5.5点以上を「不良」と判定することにしたとする。
分析の結果、睡眠の質が不良と判定された選手は全体の43.3%に上り、睡眠の質に課題を抱えるeスポーツ選手が比較的多いことが示された。次に、プロ選手とアマチュア選手の比較が行われた。すると、睡眠の質不良の割合やPSQIの総合得点には統計学的な差は認められなかったものの、睡眠パターンには明確な違いが確認された。具体的には、プロ選手はアマチュア選手と比べて就床時刻および起床時刻が有意に遅い(睡眠相の後退)一方で、睡眠時間はアマチュア選手の方がプロ選手よりも有意に短いことが示された。
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プロ選手、アマチュア選手の就寝時刻、起床時刻、睡眠時間についての分布を示す箱ひげ図。箱(四角)の中央線は中央値を示し、箱の大きさは全体の50%が含まれる範囲を、線(ひげ)は外れ値を除いた最小値から最大値までの範囲を示す。分析の結果、就寝時刻および起床時刻はプロ選手の方がアマチュア選手よりも遅いこと、睡眠時間はアマチュア選手の方がプロ選手よりも短いことが明らかにされた。(出所:筑波大プレスリリースPDF)
さらに、eスポーツ活動と睡眠の質との関連を検討するため、年齢、性別、居住形態、eスポーツレベルを調整変数として組み込んだ修正ポアソン回帰分析(リスク評価)が行われた。その結果、午前3時から5時59分、ならびに午前6時から8時59分の時間帯にプレーする選手は、睡眠の質が不良である割合が高いことが示された。これらの時間帯は本来の睡眠時間帯と重なっており、深夜から早朝までのプレーが睡眠の質に悪影響を及ぼしている可能性が考えられるとした。
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主観的な睡眠の質をアウトカムとし、修正ポアソン回帰分析を用いて算出された有病割合比(PR)。PRは、ある要因を有する群が、有さない群と比べ、どの程度高い/低い割合でアウトカムを示すかを表す指標。図中の○は、それぞれの要因におけるPR値を、横線はその95%信頼区間を示す。年齢、性別、居住形態、eスポーツレベルを調整した解析において、午前3時~午前5時59分における週1日以上の活動のPRは2.16、午前6時から午前8時59分における週1日以上の活動のPRは2.81となった。これは、その時間帯で週1日以上活動している群では、活動していない群に比べ、睡眠の質不良の割合がそれぞれ2.16倍、2.81倍であることを意味する。(出所:筑波大プレスリリースPDF)
今回の研究により、eスポーツ選手において主観的睡眠の質不良が比較的高い割合で認められること、また、プロ選手とアマチュア選手では睡眠パターンの特徴が異なることが明らかにされた。さらに、深夜から早朝にかけてのプレーが、睡眠の質不良と関連する可能性が示唆された。
これらの知見は、eスポーツ選手の健康管理やコンディショニングを考える上で、睡眠が重要な要素であることを示す。チームや組織レベルで、睡眠衛生に関する教育プログラムの導入や、健康的なプレー時間帯に関する啓発、特に早朝時間帯のプレーを控えることへの注意喚起などの睡眠マネジメントに取り組むことが求められるという。
研究チームは今後、睡眠環境や光曝露、生活習慣、ストレス・周囲のサポートといった心理社会的要因など、睡眠の質に関連する要因を多面的に評価していく予定とする。これらを通じ、eスポーツ選手のパフォーマンス向上と健康維持を両立させるための対策立案を進めていくとしている。