筑波大学は6月8日、福島第一原発事故で放出された、不溶性で放射性セシウムを多く含む直径数マイクロメートルのガラス状粒子「高濃度放射性セシウム含有微粒子」(CsMP)について、福島県内100地点の土壌試料を詳細に解析した結果、その存在量は地域ごと大きく異なり、場所によっては土壌中放射能の60%以上がCsMPに由来することが明らかにされたと発表した。
同成果は、筑波大 数理物質系の山﨑信哉准教授、台湾・国立臺灣大學 地質科學系の宇都宮聡教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、環境汚染物質や有害物質のリスクと処理技術を扱う専門論文誌「Journal of Hazardous Materials」に掲載された。
CsMPは水に溶けにくく、通常の汚染土壌と比べて単位質量当たりの放射能が、最大で1gあたり1000億ベクレルと非常に高いため、吸入時の健康影響や環境中での移動・分布が懸念されていた。しかし、CsMPが事故時にいつ、どのように放出され、福島県内をどのように広がったのかは十分に解明されていなかった。
そこで研究チームは、CsMPの広域分布や初期の拡散過程を解明するため、2011年7月までに福島県内100地点で土壌試料を採取。独自に開発したCsMP定量法である「QCP法」を用い、放射性粒子1個ごとの放射能を測定してCsMPの量を評価したという。
解析の結果、CsMPの存在量は地点ごとに大きく異なり、最大で土壌1g当たり52個に達することが確認された。また、場所によっては土壌中放射能の最大60%がCsMP由来であることも判明。福島第一原発を起点として北西方向と南東方向でCsMPが多く検出されたが、総放射能に対する寄与は南東方向で特に高いことが突き止められた。
-

2011年夏までに採取された福島県内100地点の表層土壌におけるCsMPの定量結果。(左)表層土壌1g当たりに含まれるCsMPの個数(円の大きさ)と、全セシウム放射能に占めるCsMP由来放射能の割合(円の色)。(右)プルーム中1立方m当たりのCsMP個数の分布(赤い円の大きさ)。2011年3月15日の代表的な時刻におけるプルーム分布図と重ねて表示されている。(出所:筑波大プレスリリースPDF)
続いて、得られたCsMPの分布図を、原子力事故時の大気拡散シミュレーションシステム「WSPEEDI」による予測結果と比較することで、事故時の放出過程が検証された。その結果、CsMPは2011年3月15日未明に大量に生成され、その後、同日深夜まで放出が続いていたことが明らかにされた。
また、放射性物質を含む空気の流れ(プルーム)が、福島第一原発を起点として南から南西、続けて北西方向へと連続的に風向きを変えて通過したことで、福島県内の広範囲へCsMPが運ばれたことも判明した。一方、3月16日午前0時以降に放出された放射性プルームにはCsMPがほとんど含まれておらず、水溶性のセシウムのみが含まれていたことも確認された。加えて、CsMPの分布は総セシウム量の分布とは一致せず、降雨やプルーム中のCsMP数に強く影響されることも明らかになったとした。
今回の研究は、原子力事故で放出される放射性微粒子の環境中での挙動を理解する上で重要な成果とする。将来、万が一世界のどこかで原子力災害が発生した際の環境リスク評価に貢献するものと期待される。さらに今回は、総セシウム量の分布とは異なるという、従来は考慮されていなかったCsMPの広域分布図が得られた。これは、福島周辺の汚染環境中における放射能の強さとCsMPの量が必ずしも一致しないことを示唆しており、予想外の地域に多くのCsMPが存在する可能性もあるという。
研究チームは今後、より詳細な分布を調べると同時に、現在も残る異常高線量スポットとCsMPの関係性にも注目して研究を進め、将来の環境影響評価や除染計画の高度化につなげるとのこと。また、CsMPの生体への影響を実験的に解明することも目指していくとしている。