PwC Japanグループは6月10日、「生成AIに関する実態調査2026 春 6カ国比較」を発表した。調査対象は、日本、米国、英国、中国、ドイツ、韓国の6カ国。日本では売上高500億円以上の企業・組織に勤務し、生成AI導入に何らかの関与がある課長職以上932人を対象に調査を実施した。

登壇したPwCコンサルティング 執行役員 パートナーの三善心平氏は、生成AIをめぐる潮流について、単なる業務効率化のツールから、AIエージェントが業務や顧客接点を担う段階へ移行しつつあると説明した。

日本企業の生成AI活用は87%に拡大

日本企業における生成AIの「活用中・推進中」の割合は87%に達した。前回調査から11ポイント上昇し、未着手・断念は4%まで減少した。

6カ国比較で見ても、日本の活用・推進度87%は、米国90%、英国89%、中国91%、ドイツ89%、韓国93%と大きな差はなく、生成AIを業務に取り入れるという点では、日本企業も海外企業に大きく見劣りしない水準まで到達していることがわかった。

  • 自社の生成AI活用の推進度合いでは「活用中・推進中」が87%(出典:生成AIに関する実態調査2026 春 6カ国比較)

    自社の生成AI活用の推進度合いでは「活用中・推進中」が87%(出典:生成AIに関する実態調査2026 春 6カ国比較)

一方で、活用中・推進中の企業のうち、生成AI活用の効果について「期待を大きく上回っている」と回答した日本企業は9%にとどまった。米国の38%、英国の32%と比べると大きな差がある。

また、日本では「まだ効果を評価できていない」とする割合も13%と相対的に高いことから、生成AIを使い始めてはいるものの、効果を測定し、改善につなげる仕組みが十分に整っていない企業が少なくないことが分かる。

  • 効果が期待を大きく上回った企業は他国に比べ少ない(出典:生成AIに関する実態調査2026 春 6カ国比較)

    効果が期待を大きく上回った企業は他国に比べ少ない(出典:生成AIに関する実態調査2026 春 6カ国比較)

「危機感」は強まるが、変革機会として捉えきれていない

また、生成AIに対する意識にも変化が見られた。日本企業では、生成AIを「業界構造を根本から変革するチャンス」と捉える割合が30%となり、前回調査から上昇した一方で、「ビジネスの存在意義が失われる脅威」と捉える割合も24%へ上昇した。

  • 日本は生成AIによるビジネス消失の危機感を強めている(出典:生成AIに関する実態調査2026 春 6カ国比較)

    日本は生成AIによるビジネス消失の危機感を強めている(出典:生成AIに関する実態調査2026 春 6カ国比較)

三善氏は「海外では生成AIを起点に事業モデル、人材・雇用、業務プロセス、顧客接点の変革が始まっている」と指摘した。一方で、日本はビジネス消失への危機感が強まっているにも関わらず、具体的な事業変革へつなげる動きはまだ限定的だ。

「危機感を持つこと自体は悪いことではありません。しかし今後は、それを事業や業務、顧客接点の見直しへつなげられるかどうかが重要になってきます」(三善氏)

  • 日本の生成AI活用の現在地を説明する三善氏

    日本の生成AI活用の現在地を説明する三善氏

財務的還元につなげられない日本企業

今回の調査で大きな論点となったのが「生成AIで得た効果をどのように還元しているか」だ。

生成AI活用で得た効果を、従業員への利益還元や顧客への価格還元といった財務的還元につなげている日本企業の割合は40%だった。これは6カ国で最も低い水準であり、米国の75%、英国の74%と比べると大きな差がある。

また、日本では「還元していない」と回答した割合が19%と、6カ国の中で最も高い結果となった。

  • 生成AIで得た効果を従業員・顧客への財務的還元に繋げる割合は、日本が最も低い(出典:生成AIに関する実態調査2026 春 6カ国比較)

    生成AIで得た効果を従業員・顧客への財務的還元に繋げる割合は、日本が最も低い(出典:生成AIに関する実態調査2026 春 6カ国比較)

PwCは、日本企業が「活用から効果創出へ進む壁」と「効果創出から成果還元へ進む壁」の双方に直面していると分析する。生成AIによる業務効率化の成果を、従業員の待遇改善や顧客への価格還元、新規投資、事業成長へ結び付けられていないことが、その一因だという。

三善氏は、現場でよく見られる課題として、「理論上の効果」にとどまっているケースを挙げた。例えば、「従業員が生成AIを使うことで1人あたり30分削減できた」といった試算はあっても、それが実際に財務インパクトや顧客価値に結びついているかまでは設計されていないケースがあると指摘した。

一方、期待を大きく上回る効果を創出している企業には共通点も見られた。PwCによると、「AI Readiness」「Evaluation」「Activation」の3つがその要素だという。

  • 「AI Readiness」「Evaluation」「Activation」が重要(出典:生成AIに関する実態調査2026 春 6カ国比較)

    「AI Readiness」「Evaluation」「Activation」が重要(出典:生成AIに関する実態調査2026 春 6カ国比較)

金融・情報通信などで生成AIの活用が進む

日本国内の業界別動向では、金融・情報通信・製造などの業界を中心に生成AI活用が進んでいるという。特に金融業界では、リスク管理、顧客対応、商品開発、業務効率化など、生成AIの活用余地が広い。

日本企業に必要なのは「導入」ではなく「変革サイクル」

PwCは、生成AI活用を企業価値向上につなげるには、「活用」「効果創出」「成果還元」を一連のサイクルとして設計することが重要だとしている。日本企業では生成AIの活用は進んでいるものの、効果創出や成果還元の段階に課題が残ると分析する。

三善氏は「生成AI変革は、選択肢ではなく生存条件になりつつある」と述べた。