国立成育医療研究センター(NCCHD)は5月11日、クルミおよびカシューナッツアレルギーの子どもを対象に、「超低用量・緩徐増量法」を用いた家庭での経口免疫療法の有効性と安全性についての調査を行った結果、解析対象者全員が重篤な副反応を起こすことなく、日常生活で加工食品やコンタミネーション(微量混入)を気にせず生活できる「実用的な耐性」を獲得したことを確認したと発表した。

  • 今回の研究成果の概要

    今回の研究成果の概要。(出所:NCCHD Webサイト)

ただし、食物アレルギーを発症している子どもがいる家庭では、自己判断で開始せず、必ず医師の指導の下で行うよう、NCCHDでは今回の研究結果に対する注意喚起を行っている。

同成果は、NCCHD アレルギーセンターの萩野鉱平臨床研究員(高知大学 医学部 小児思春期医学講座 医員(病院助教)兼任)、同・濱口冴香医師、同・山本貴和子行動機能評価支援室室長(総合アレルギー科併任/エコチル調査研究部 チームリーダー兼任)、同・福家辰樹センター長らの研究チームによるもの。詳細は、英国アレルギー・臨床免疫学会が刊行する旗艦学術誌「The Clinical & Experimental Allergy」に掲載された。

日常生活を安全に過ごすための新戦略の開発を目指して

近年、クルミやカシューナッツなどの木の実類による食物アレルギーが増加している。これを受けて、国内では2023年、食品表示法に基づく「特定原材料」として、従来の7品目(乳、卵、小麦、そば、落花生、えび、かに)に加えて、「クルミ」の義務化を行った。さらに2026年4月1日からは、9品目目として「カシューナッツ」も同枠に追加するなど、社会的な対策が強化されている。

消費者庁は3年に1度、アレルギー表示の妥当性や改正の必要性を検討するため、「即時型食物アレルギーによる健康被害に関する全国実態調査」を実施している。2024年9月に発表された最新版によると、即時型食物アレルギーの原因食物の内訳では、木の実類が24.6%で鶏卵に続いての第2位となっており、品目別でも鶏卵に続いてクルミが15.2%で第2位、カシューナッツが4.6%で第7位となっている。木の実類の中では、この2品目だけで8割以上を占めており、注意すべき食物となっている。

年齢別原因食物(初発例)では、1・2歳では鶏卵に次いでクルミが19.6%で第2位、カシューナッツが6.5%で第5位となっている。さらに、3~6歳ではクルミが34.5%で第1位、カシューナッツが9.2%で第4位だ。7~17歳でもクルミが18.7%で第1位、カシューナッツが6.3%で第4位と高い割合を示している。ショック症例に関しても、鶏卵、牛乳に次いでクルミが14.7%で第3位、カシューナッツも6.3%で第5位となっており、消費者庁なども木の実類アレルギーの増加傾向には注意深い観察が必要としている。

クルミやカシューナッツの食物アレルギーは、微量でも重篤な症状を引き起こすリスクが高く、かつ自然治癒が極めて稀であるという特徴を持つ。そのため、これまでは“一生にわたって厳格に除去し続ける”ことが標準的な考え方とされてきた。また、微量でもアナフィラキシーが起こるリスクがあり、WHO(世界保健機関)の指標によれば、5%のクルミアレルギー患者に症状が出るタンパク質量は1.2mg(クルミそのもののなら約0.008g)とされる。

しかし、この“一生治らない”という概念は、患者とその家族に多大な心理的・社会的負担を強いてきた。そこで研究チームは今回、こうした“治らない”という従来のコンセプトを、「安全に、確実に、日常生活で困らない状態にまで直す」という前向きな目標へと転換することを目的として、経口免疫療法の開発を目指したという。

今回の研究では、2021年から2024年の間にNCCHD アレルギーセンターで治療を受けた4~18歳のクルミおよびカシューナッツアレルギーの子ども33名(クルミ27名、カシューナッツ6名、うちアナフィラキシー経験15名)を対象に調査が実施された。

具体的な手法としては、ナッツタンパク質0.45mgという極微量からスタートし、同センター独自の負荷試験で症状が出ないと確認された量を超えない範囲で、蒸しパンなどの治療用食品を用いて家庭摂取が継続された。その結果、800日を超える長期治療においても、中等症以上の症状誘発や緊急受診などの重篤な副反応は1例も確認されなかったとした。加えて血液検査においても、原因成分である「Jugr1」や「Anao3」へのIgE抗体価が低下していることが示され、免疫学的に裏付けられたという。

今回の成果により、“ナッツアレルギーは一生治らない”という悲観的な見通しは過去のものになりつつある。今後は、「どのような食品、どのような重症度であっても、検査や治療においてアレルギー症状を出さない」という同センターのアレルギー治療方針に従い、食べることへの恐怖心(心理的負担)を植え付けることなく、「楽しく食べて治していく」という、安全性を最優先したアプローチをさらに蓄積し、より多くの施設で安心して実施できる治療モデルの構築を目指すとしている。