兵庫医科大学、関西学院大学(関学)、生理学研究所(生理研)の3者は5月12日、テストの回答速度が内容の記憶時における呼吸のタイミングに左右されることを明らかにし、記憶と回答の双方が呼息(息を吐く)後半のタイミングで揃っている場合に回答速度が最高になることを明らかにしたと共同で発表した。

  • 今回の研究の概要

    回答速度が最速となったのは、記憶時と回答時の双方が、呼息後半の場合であった。(出所:兵庫医科大プレスリリースPDF)

同成果は、兵庫医科大 医学部 生理学生体機能部門の中村望助教、関学 生命環境学部の吉野公三教授、生理研の福永雅喜特任教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系のオンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

学習と呼吸の関係を科学的視点で明らかに

記憶は「覚えるステージ」「定着させるステージ」「思い出すステージ」の3段階で構成される。テストで好成績を収めるには記憶の仕方も重要だが、記憶した内容を想起するまでの所用時間(反応速度)も、効率性の観点から成績に大きな影響を及ぼす。

研究チームはこれまで、「覚えるステージ」における呼吸の効果に注目。その際の呼吸が記憶力を直接強化また減退させることを、遺伝子改変マウスと光遺伝学を用いた脳研究より解明してきた。そして今回の研究では、対象をヒトに拡大。「覚えるステージ」を中心に、呼吸が記憶課題における正答率や反応速度、注意力に及ぼす影響を調べたという。 実験では、30名の健常被験者を対象に、鼻からの気流を計測する「鼻カニューレ」で呼吸を測定しながら「見本合わせ再認記憶課題」が実施された。被験者は40枚のオブジェクト画像を1秒間隔で記憶する「サンプルブロック」を行い、約20秒後に、ランダムに提示される計80枚(既知40枚、新規40枚)の画像に対し、イエス・ノーのボタンを押して回答する「テストブロック」課題に挑んだ。被験者1人につき計10回の試行が行われた結果、正答率は平均90点だった。

  • 見本合わせ再認記憶課題の概要とサンプルブロックでの鼻カニューレによる呼吸波形の変化

    (a)見本合わせ再認記憶課題の概要。(b)サンプルブロックでの鼻カニューレによる呼吸波形の変化。(出所:兵庫医科大プレスリリースPDF)

呼吸位相ごとの反応時間および正答率を算出し、自己回帰移動平均モデルの残差の並べ替え検定などを用いて解析を実施。その結果、回答時の呼吸が息を吐く呼息の後半だった場合、回答速度が最速になることが確認された。ただし、回答時が呼息の後半であっても、記憶時の呼吸が息を吸う吸息時や呼息前半だった場合は、回答速度が著しく低下することも明らかにされた。つまり、記憶時と回答時の双方が呼息後半のタイミングである時に、情報処理の効率が最大化されることが示された。

  • 呼吸周期に応じた反応時間の変化と解析結果

    呼吸周期に応じた反応時間の変化と解析結果。記憶時の呼吸位相を4分割し(緑ライン:In1s、In2s、Ex1s、Ex2s)、回答時の反応時間を呼吸位相に沿って示したもの(a~d)。呼息期後半での反応時間は、記憶時が吸息前半の時に長くなり(a・e)、記憶時が呼息期後半の時に短くなった(d・f)。(e・f)は、自己回帰移動平均モデルの残差の変化と解析結果。1回の呼吸を360度とし、赤線は吸息開始、黄線は呼息開始を示す。(出所:兵庫医科大プレスリリースPDF)

今回の課題では、平均正答率が高かったこともあり、正答率自体に有意な変化は見られなかったという。しかし今回の結果により、記憶時の呼吸のタイミングが「記憶形成に関連する足場」として機能し、後の想起速度に影響を与える可能性が示唆された。例えば、音読しながら英単語や詩を覚える行為は、必然的に呼息後半に記憶することになるため、学習効果の向上において理に適った手法といえるとする。

また、呼吸のタイミングが記憶プロセスにおける「内的なコンテクスト(文脈)成分」としての役割を果たす可能性も考えられるとした。内的なコンテクスト成分とは、内臓反応など、生体内環境の活動に基づく状況や文脈を指し、今回のではそれらが時間情報として扱われていることが推測されるとした。

今回の成果は、筆記テストのみならず、リスニング対策や日常生活の物忘れ防止、スポーツのパフォーマンス、ダンスの振り付け、運転技術の向上など、さまざまな分野への応用が期待される。今後は、呼吸と認知機能に関わる脳内メカニズムをさらに究明すると共に、学習における呼吸タイミングの効果的な活用方法の開発など、パフォーマンス向上への応用も目指していくとしている。