アストロスケールは、2027年に打ち上げ予定の実証ミッション「ISSA-J1」に関する事業説明会を4月6日に開催した。「宇宙のロードサービス」ともいうべき軌道上サービスの実現に向け、同ミッションは機能停止した衛星やデブリなどに接近して状態把握を行う「観測サービス」の技術実証を目的として実施する。

  • 退役衛星の観測を行うISSA-J1ミッションの軌道上イメージ。手前の衛星ISSA-J1が、奥の観測対象である退役衛星「だいち」に接近する様子が描かれている (出所:アストロスケールプレス向け配付資料)

    退役衛星の観測を行うISSA-J1ミッションの軌道上イメージ。手前の衛星ISSA-J1が、奥の観測対象である退役衛星「だいち」に接近する様子が描かれている (出所:アストロスケールプレス向け配付資料)

  • アストロスケールの代表取締役社長の岡田光信氏。宇宙環境と同社の掲げる「軌道上サービス」のビジョン、および「ADRAS-J」によるデブリの近距離撮影成功などのハイライトについて語った

    アストロスケールの代表取締役社長の岡田光信氏。宇宙環境と同社の掲げる「軌道上サービス」のビジョン、および「ADRAS-J」によるデブリの近距離撮影成功などのハイライトについて語った

  • アストロスケール上級副社長の伊藤美樹氏。ISSA-J1ミッションの意義と計画について解説した

    アストロスケール上級副社長の伊藤美樹氏。ISSA-J1ミッションの意義と計画について解説した

  • アストロスケールのISSA-J1プロジェクトマネージャーの瀧花洋一氏。観測対象の退役衛星「みどりII」の模型を手に、非対称形状の衛星が回転している際の視認性や、コンピュータビジョンによる認識の難しさを実演してみせた

    アストロスケールのISSA-J1プロジェクトマネージャーの瀧花洋一氏。観測対象の退役衛星「みどりII」の模型を手に、非対称形状の衛星が回転している際の視認性や、コンピュータビジョンによる認識の難しさを実演してみせた

スペースデブリの増加を抑えるには?

2020年代に入ってから、スペースデブリが急増している。現状、デブリを除去する技術が確立されていないため、自然に大気圏再突入するのを待つしかなく、増え続ける一方となっている。その結果、特にこの数年は衛星とデブリのニアミスが急激に増加しており、デブリによる被害も増えつつあるのが実情だ。

  • (左)地球周回軌道上の物体数の推移。赤線がデブリの総数を示す。(右)低軌道における人工衛星と他物体の1km以内のニアミス回数。デブリ問題の深刻化がわかる (出所:アストロスケールプレゼン資料)

    (左)地球周回軌道上の物体数の推移。赤線がデブリの総数を示す。(右)低軌道における人工衛星と他物体の1km以内のニアミス回数。デブリ問題の深刻化がわかる (出所:アストロスケールプレゼン資料)

このままだと、デブリに地球が囲まれてしまい、人類が宇宙に出ることが不可能となる「ケスラー・シンドローム」が、現実の話になってしまう危険性すら出てきている。それを防ぐためには、少しでもデブリの発生を抑制する必要がある。その手段のひとつが、すでに機能を停止して大型デブリと化している人工衛星を大気圏へと再突入させるなどして除去するというものだ。

また、燃料が切れただけで機能的にはまだ正常に動作できる場合は、燃料を補給することで衛星として復活させるのも有効だ。ほかのデブリが接近した場合に回避できるようになるため、それだけ新たなデブリを生み出すリスクを減らすことができるというわけだ。

容易ではない「デブリの捕獲」

「宇宙は無重力だからデブリは宇宙空間に静止してプカプカと浮いているだけで、容易に捕獲できるのでは?」と思うかもしれない。しかし、現実はそう甘くはない。衛星軌道に存在するということは、秒速何kmもの猛烈な速度で地球を回っていることを意味する。

現実にはあり得ないが、地球に大気がなく全球が真っ平らと仮定して、地表スレスレの高度0mで地球を円軌道で周回するには、秒速約7.9kmが必要だ。これは、地球の中心方向への重力加速度と釣り合う遠心力を発生させるために必要な速度だ。時速に換算すれば約28,440km、マッハなら23.2以上であり、「第一宇宙速度」と呼ばれる。

地表から離れるほど地球の重力が弱くなり、必要とされる遠心力は小さくて済むようになるため、第一宇宙速度は遅くなっていく。例えば国際宇宙ステーション(ISS)が位置する高度約400kmでは秒速約7.7kmであり、気象衛星「ひまわり」などが位置する高度約36,000kmの静止軌道になると秒速約3kmとなる。ただし遅くなるとはいえ、弾丸よりも遥かに速いのは変わらないため、デブリがいかに危険な物体かということがわかる。

これだけの速度で移動するデブリには、接近するだけでもひと苦労だ。稼働中の衛星であれば、詳細な位置情報を教えてもらうといった協力的な体制を敷ける。しかし、デブリはそれらが一切ないため、「非協力物体」と呼ばれる。大型のデブリであれば、地上からレーダーで捕捉されているものの、宇宙空間で実際に確認するには、カメラやLiDARなどのセンサを使って探し出す必要があり、そして正確に距離を計測しながら慎重に接近する必要がある。

  • 非協力物体への接近・捕獲技術における5つのフェーズ。(1)対象物体の軌道同定、サービサー衛星の打ち上げタイミングの決定、(2)絶対航法による接近、(3)相対航法による接近、(4)対象物体の運動を推定して回転を合わせる、(5)対象物体を捕獲してその姿勢を安定化させる。これを習得することで、軌道上サービスの提供が実現できるようになる (出所:アストロスケールプレゼン資料)

    非協力物体への接近・捕獲技術における5つのフェーズ。(1)対象物体の軌道同定、サービサー衛星の打ち上げタイミングの決定、(2)絶対航法による接近、(3)相対航法による接近、(4)対象物体の運動を推定して回転を合わせる、(5)対象物体を捕獲してその姿勢を安定化させる。これを習得することで、軌道上サービスの提供が実現できるようになる (出所:アストロスケールプレゼン資料)

さらに、デブリはすでに3軸での姿勢制御が行われていないため、太陽光圧や重力勾配などのわずかな外乱が時間と共に積み重なって、自転を始めてしまう可能性がある。シンプルな1軸だけでの自転で済めばいいが、多軸で回転する複雑な運動の場合は、回転方向が突然ひっくり返るようなこともあり、カオス状態できわめて危険な場合もあり得る。

複雑な自転をしているデブリが、仮に片持ちの長い太陽電池パドルを持つ退役衛星だったらどうだろうか。もはや、打撃武器を振りまわしているようなものだ。どこを軸にしてどのような速度で回転しているのかを確実に見極め、慎重に接近しないと叩かれる危険性がある。これは、デブリの観測や捕獲を目的とした衛星が、新たなデブリになってしまうリスクがあるということだ。このように、デブリへの接近はきわめて難易度が高いため、現時点で実質的な成功例は存在しない。

協力的な衛星へのドッキング、すでに複数の成功例

衛星のような協力的な物体へのドッキングは、アストロスケールでも2021年に成功させている。「ELSA-d」ミッションにおいて、協力的な状態の衛星を模した子機をELSA-d衛星本体から放出し、ドッキングプレートと磁石捕獲機構を用いて捕獲することに成功した。ちなみに、この時、子機をデブリに見立てての捕獲も行う計画だったが、機器の不具合により残念ながら中止となった。

また、海外では米国と中国が、活動中の衛星へのドッキングを行い、燃料補給やスラスター代行による軌道修正などが実現している。これも決して容易なことではないが、協力的なターゲットのため、姿勢も制御されており、詳細な位置情報も伝えてくるなど、デブリへのドッキングに比べると難易度は低い。そのため、現状では米国や中国などでも、デブリへのドッキングは実現されていない。

その後、アストロスケールは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「商業デブリ除去実証(CRD2)フェーズI」のパートナー企業として、2024年の「ADRAS-J」ミッションに参加。「非協力物体への接近・捕獲」(RPO)技術獲得の一環として、H-IIロケット上段(全長約11m・直径約4m・重量約3t)に対し、最終的に15mまで接近し、その周囲を巡って撮影することに成功した。これが、実際のデブリ捕獲技術開発の最前線であり、同社はデブリ捕獲の世界で先頭を走っているとのことだ。

  • ADRAS-Jミッションでは、非協力物体であるH-IIロケット上段に15mまで接近。実物のデブリに、これほどの至近距離まで接近したのは世界初の快挙だ (出所:アストロスケールプレゼン資料)

    ADRAS-Jミッションでは、非協力物体であるH-IIロケット上段に15mまで接近。実物のデブリに、これほどの至近距離まで接近したのは世界初の快挙だ (出所:アストロスケールプレゼン資料)

アストロスケールがめざす“宇宙のロードサービス”

アストロスケールは、RPO技術を開発し、段階的なステップアップを経て、2035年までに「軌道上サービスのインフラ化」をめざしている。同社は、「ADRAS-J」によるデブリ観測技術実証、また「ELSA-d」によるデブリ除去技術実証に成功し、第2段階が達成されたところだ。現在は、2030年までを目標とした第3段階「軌道上サービスの普及」の途上にある。つまり同社は、2035年までに“宇宙版JAF”ともいうべき宇宙のロードサービスの実現をめざしているのだ。

  • RPO技術を核とした軌道上サービスのグローバル展開ロードマップ。現在は2030年までの「普及期」に位置づけられている (出所:アストロスケールプレゼン資料)

    RPO技術を核とした軌道上サービスのグローバル展開ロードマップ。現在は2030年までの「普及期」に位置づけられている (出所:アストロスケールプレゼン資料)

  • アストロスケールが展開を計画している軌道上サービスの種類。対象物体の観測や点検、衛星の寿命延長・燃料補給および修理・回収、そして運用終了後の衛星および既存デブリの除去など、多岐にわたるサービスが含まれる (出所:アストロスケールプレゼン資料)

    アストロスケールが展開を計画している軌道上サービスの種類。対象物体の観測や点検、衛星の寿命延長・燃料補給および修理・回収、そして運用終了後の衛星および既存デブリの除去など、多岐にわたるサービスが含まれる (出所:アストロスケールプレゼン資料)

アストロスケールは現在、国内ではJAXAや科学技術振興機構、防衛省などから、海外ではNASAや欧州宇宙機関(ESA)、英DSITなどの宇宙機関や政府機関、米空軍研究所などの国防機関、米Cambrian Worksや英Xona Space Systemsといった民間企業と契約を締結している。これらは、宇宙観測や衛星点検、燃料補給やドッキングしての軌道位置制御などによる寿命延長、衛星の修理・回収、そして運用終了後の衛星や既存デブリの除去という、アストロスケールが考える軌道上サービスのすべてが含まれる。

この目標を実現するため、同社は今後、2027年に世界初のデブリ除去をめざす「ADRAS-J2」、2029年頃の予定で低軌道衛星への化学燃料補給をめざす「REFLEX-J」の打ち上げが計画されている。

そして今回発表されたのが、2027年の打ち上げをめざす、高度の異なる非対象形状を持つ退役した衛星デブリ2基への接近と観測を行う「In-situ Space Situational Awareness - Japan 1」、略して「ISSA-J1」(イッサジェイワン)ミッションだ。

ISSA-J1は、インドのサティシュ・ダワン宇宙センターからの打ち上げを予定しており、NSIL(インドの宇宙機関ISROの商業部門)の極軌道打ち上げロケット「Polar Satellite Launch Vehicle」を利用する計画だ。

  • 現在、アストロスケールは、日本、米国、英国、フランス、イスラエルに拠点を置く。日本のアストロスケールが計画している2020年代後半のミッションが、ISSA-J1、ADRAS-J2、REFLEX-Jの3つだ (出所:アストロスケールプレゼン資料)

    現在、アストロスケールは、日本、米国、英国、フランス、イスラエルに拠点を置く。日本のアストロスケールが計画している2020年代後半のミッションが、ISSA-J1、ADRAS-J2、REFLEX-Jの3つだ (出所:アストロスケールプレゼン資料)

  • ISSA-J1のミッションパッチ。ISSA-J1の背後に、シルエットで退役衛星「だいち」と「みどり」も描かれており、ミッション内容がデザインされている (出所:アストロスケールプレス向け配付資料)

    ISSA-J1のミッションパッチ。ISSA-J1の背後に、シルエットで退役衛星「だいち」と「みどり」も描かれており、ミッション内容がデザインされている (出所:アストロスケールプレス向け配付資料)

ISSA-J1衛星のサイズは、1.3×1.6×2.2m。左右2枚の太陽発電パドルを展開した際は1.3×10×2.2mになる。質量は燃料を含めて約650kgだ。スラスタは化学推進10本と電気推進2本の計12本。このうち、電気推進が軌道遷移に利用される。また、1基で2基の衛星デブリの観測を行うことの狙いは、コスト削減と効率化にある。

  • ISSA-J1のスケールモデル。本体のサイズは1.3×1.6×2.2mで、太陽電池パドルを展開すると横幅は10mに達する (出所:アストロスケールプレゼン資料)

    ISSA-J1のスケールモデル。本体のサイズは1.3×1.6×2.2mで、太陽電池パドルを展開すると横幅は10mに達する (出所:アストロスケールプレゼン資料)

非対称形状で高度も違う、2基の退役衛星に近づく方法

ISSA-J1がターゲットとする衛星は2基ある。

ひとつは、2006年1月に打ち上げられて2011年5月に運用を終了したJAXAの陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)。そしてもうひとつが、2002年12月に打ち上げられて2003年10月にトラブル発生で運用終了となったJAXAの環境観測技術衛星「みどりII」(ADEOS-II)だ。

「だいち」は約6×3.5×4.5m、重量約4t。一方の「みどりII」も約5×4×4m、重量約3.7tと、どちらも大型でヘビー級だ。「だいち」は高度約691kmの軌道に、「みどりII」は高度約803〜820kmに投入されたが、現在はそれぞれ約660kmと約790kmまで下がってきている。

  • 陸域観測技術衛星「だいち」。ISSA-J1の最初の観測対象だ (C)JAXA (出所:アストロスケールプレゼン資料)

    陸域観測技術衛星「だいち」。ISSA-J1の最初の観測対象だ (C)JAXA (出所:アストロスケールプレゼン資料)

  • 環境観測技術衛星「みどりII」。ISSA-J1の2番目の観測対象 (C)JAXA (出所:アストロスケールプレゼン資料)

    環境観測技術衛星「みどりII」。ISSA-J1の2番目の観測対象 (C)JAXA (出所:アストロスケールプレゼン資料)

特徴は、どちらの衛星も片持ち式の太陽発電パドルを採用している点だ。非対称形状の衛星は少なくないし、デブリとなった衛星は元々は対称だったとしても、破損などにより非対称になっている可能性もある。そのため、非対称の衛星への接近技術を確立できれば、接近可能な衛星やデブリの数が大幅に拡大することになる。だが、当然ながら非対称形状の対象物への接近は容易ではない。

デブリは自転している可能性があるが、どのように自転しているのかを見極めるのは容易なことではない。衛星ごとに自転軸となりやすい箇所は異なるため、実際の回転の状況を見てみないと不明だからだ。つまり、「だいち」も「みどりII」も幅3mかつ長さ20m以上の片持ち式太陽電池パドルを、「どの角度からどのタイミングで襲ってくるかわからない打撃武器」としてぶんぶん振りまわしている可能性もある、ということだ。

このようなデブリの場合、太陽電池パドルが振りまわされない死角から接近する必要がある。その把握をミスれば、太陽電池パドルの殴打を受けることになる。今回は観測であるため、太陽電池パドルに叩かれる範囲内には入らないわけだが、詳細に観測するには可能な限り接近する必要があり、油断は禁物だ。

また非対称形状である点は、観測の難易度を高くする要因でもある。非対称形状の場合は、どの向きから撮影するかで、コンピュータビジョン的には大きく見え方が異なってくる。捕獲を行うには、まず詳細な状況把握ができなければならないので、今回のISSA-J1ミッションはきわめて重要となる。

「だいち」と「みどりII」を観測する14カ月のミッション

今回のミッション期間は14カ月で、観測は低い軌道の「だいち」から行われる。ISSA-J1は軌道に投入された後、「だいち」の現在の高度である約660kmへ向けて徐々に高度を上げていく。そこまでは絶対航法で、高度を合わせた後の最終アプローチは「だいち」を対象とした相対航法となり、それは1km手前から始まる。接触しない安全な半径で楕円形の螺旋軌道を描きながら接近し、撮影が行われる。この螺旋軌道は、軌道が相手の衛星よりも低いと速くなる、高いと遅くなるというケプラーの法則を利用して相対距離を調節するためのものだ。

  • ISSA-J1ミッション全体の軌道遷移イメージ。異なる軌道にある2基の衛星を、高度の低い方から順次訪れる計画だ (出所:アストロスケールプレゼン資料)

    ISSA-J1ミッション全体の軌道遷移イメージ。異なる軌道にある2基の衛星を、高度の低い方から順次訪れる計画だ (出所:アストロスケールプレゼン資料)

  • 「だいち」へのアプローチ軌道のイメージ。「みどりII」も高度が異なるだけで、ほぼ同じようにしてアプローチする (出所:アストロスケールプレゼン資料)

    「だいち」へのアプローチ軌道のイメージ。「みどりII」も高度が異なるだけで、ほぼ同じようにしてアプローチする (出所:アストロスケールプレゼン資料)

  • 相対航法へ切り換えた後のアプローチ軌道のイメージ。「だいち」よりも低い軌道と高い軌道を交互に取り、少しずつ距離を詰めていく。これは「みどりII」への接近時も同様だ (出所:アストロスケールプレゼン資料)

    相対航法へ切り換えた後のアプローチ軌道のイメージ。「だいち」よりも低い軌道と高い軌道を交互に取り、少しずつ距離を詰めていく。これは「みどりII」への接近時も同様だ (出所:アストロスケールプレゼン資料)

「だいち」の観測を終えた後は、そのまま高度を上げて直接「みどりII」へとは向かうのではなく、一度低い軌道に降り、ISSA-J1と「みどりII」の軌道面を一致させることが行われる。これは燃料消費量が非常に多いため、できるだけ消費量が少なくて済む低軌道で行うのが望ましい。そして副次的に、低い軌道の方が速度が上なので「みどりII」に接近できるというメリットもある。この後は、「だいち」の時のように段階を踏んで軌道を上げ、最終的に螺旋軌道で接近しつつ撮影を行う。そして、「みどりII」の観測が終了したら、ISSA-J1は大気圏に再突入してミッションは終了となる。

なお、なぜISSA-J1は「だいち」や「みどりII」と同一軌道に入ってそのまま接近しないのかというと、実は同一軌道の場合、速度も同一となるため、接近は不可能だからだ。では加速すればいいのかというと、それも間違いだ。加速すると、加速を完了した場所を近地点とし、その加速した速度で届く最も高い高度を遠地点とする楕円軌道になってしまうため、遠地点付近ではISSA-J1の速度が落ち、「だいち」や「みどりII」より遅くなるので追いつけなくなってしまう。

では前方にいる対象物に追いつくにはどうするのかというと、低い軌道に入る必要がある。要は、加速するのではなく逆に「減速して」、現在地を遠地点、目標の低い軌道を近地点とする楕円軌道に遷移する。降下していく間に位置エネルギーが運動エネルギーに変換されて増速するので、最も速度が出る近地点で、その軌道の円軌道速度に合わせて減速すると円軌道化し、その低い軌道に移れるというわけである。要は、速度を上げたい時は、アクセルを踏むのではなく、ブレーキを踏む必要があるのだ。

燃料補給、修理、そして運用を終了した衛星やデブリの除去など、軌道上でのロードサービスを実現するには、対象物体に接近しての詳細な状況の把握が欠かせない。今回のISSA-J1ミッションは、その接近しての観測技術を磨くための挑戦となる。打ち上げられてから20年以上になる運用が終了した2基の衛星が、どのような状況にあるのか。アストロスケールの技術は、「宇宙の安全パトロール」の技術を確立できるのか。非対称衛星の観測に挑むISSA-J1の成果に期待しよう。