京都産業大学(京産大)と国立天文台(NAOJ)は4月13日、「恒星間空間からきた彗星の太陽接近前後の変化を捉えた!~すばる望遠鏡がとらえた3I/ATLASのCO2/H2O比~」と題し、3番目の恒星間天体「アトラス彗星(3I/ATLAS)」の成分に関する記者説明会を共同で実施した。説明会には、論文筆頭著者の京産大 神山宇宙科学研究所/研究機構の新中善晴専門員が登壇し、解説を行った。
また、京産大 理学部教授兼神山宇宙科学研究所の河北秀世副所長、同研究所の渡部潤一所長・特別客員教授(前・国立天文台 副台長)ら彗星研究の第一人者も登壇した。なお、今回の研究成果の詳細は、米国天文学会が刊行する学術誌「The Astronomical Journal」に4月22日(世界標準時)に掲載予定だ。
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ハワイ現地時間2025年12月13日、すばる望遠鏡の微光天体分光撮像装置「FOCAS」で撮影されたアトラス彗星。Vバンド(中心波長550nm)、Rバンド(同660nm)、Iバンド(同805nm)の各画像を青・緑・赤に割り当てて合成されている。(c)国立天文台(出所:国立天文台プレス向け配付資料)
恒星間天体とは?
恒星間天体とは、天の川銀河において、特定の恒星の重力に束縛されず、恒星間空間を移動している天体のことだ。太陽系以外の星系で形成された後、何らかの過程でその系外へと放出された小天体であり、どこかの星系に属していれば彗星や小惑星などに分類されるものだ。
恒星間天体の存在は75年以上前に「オールトの雲」の提唱者として知られるオランダの天文学者ヤン・ヘンドリック・オールトによって予想されていた。しかし、2017年10月19日に第1号「オウムアムア(1I/'Oumuamua)」が発見されるまで、長らく実際に確認されていなかった。
オウムアムアの発見を受けて2018年には、天の川銀河内に存在する恒星間天体は、推定値として最大で約1026(10兆の10兆倍)個という説も発表されている。もしこの見積もりが正しいのであれば、これほど膨大な数が存在するにも関わらず発見が遅れたのは、小天体ゆえの暗さに加え、観測技術や観測頻度の不足が要因と考えられる。
近年は観測技術が向上し、より暗い天体の検出が可能になった。また、特定の点ではなく、面で空を捉える「サーベイ(掃天)観測」が数多く行われるようになったことで、発見の可能性は格段に高くなった。実際、今回の研究対象である第3の恒星間天体「アトラス彗星」も、ハワイ大学が運用する「小惑星地球衝突最終警報システム」が発見した天体だ。同システムは略称「ATLAS」と呼ばれ、本来はプラネタリー・ディフェンスが目的のロボット掃天観測および早期警告システムである。
さらに、軌道計算の自動化が進んだことも大きい。天体の軌道形状を示す「離心率」が1を大きく超える「双曲線軌道」を持つ天体が検出されると、即座に研究者へアラートが飛ぶ仕組みが整っているのだ。
これまでのところ、恒星間天体はオウムアムア、2019年8月30日(初観測は2018年12月31日)の「ボリソフ彗星(2I/Borisov)」、そして2025年7月1日の「アトラス彗星」と約8年の間に3天体に留まっている。ただし、軌道が確定していないために発見扱いになっていないが、未確定の候補自体はより多く見つかっているとされる。太陽系は広大であり、人類の現在の技術で捉えられる範囲には限界があるため、実際にはより頻繁に恒星間天体が太陽系内を通過している可能性がある。
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2019年10月12日にハッブル宇宙望遠鏡が捉えたボリソフ彗星。核の周囲を覆う塵が明瞭に映し出されている。(c)NASA, ESA and D. Jewitt (UCLA)(出所:NASA Webサイト)
恒星間天体はどうやって生まれる?
恒星間天体の多くは、惑星系の形成初期に系外へ弾き飛ばされることで誕生すると考えられている。惑星が形成されて間もない時期は、無数の微惑星が散乱している。これらが木星や土星のような巨大ガス惑星の強大な重力によって加速され、星系の外へと放り出されるのだ。
その際、中心星の重力を完全には振り切れず、遠方に留まったものがオールトの雲を形成する天体となる。太陽系の場合、オールトの雲は大まかに二層からなり、内側は太陽から約2000~2万天文単位、外側は約2万~約10万天文単位の距離にあると考えられている。海王星外縁のカイパーベルトが30~50天文単位であることを踏まえれば、その遠大さが理解できるだろう。
現在の観測技術ではカイパーベルト以遠の小天体を直接捉えることは難しく、オールトの雲の天体が直接観測された例はない。しかし、長周期彗星の極端に細長い軌道などから、その実在は確実視されている。
最外縁の10万天文単位は約1.5光年に相当する。これほどの距離になると太陽の重力は極めて弱まり、近傍を通過する他の恒星や銀河潮汐力の影響を強く受ける。その結果、天体は太陽の赤道面から外れ、球状に太陽系を取り囲むよう配置されると考えられている。さらに、太陽の束縛を振り切り、系外へと逃れてしまうことも少なくないと推測されている。つまり、太陽系は天の川銀河を公転する過程で、常に恒星間天体を放出し続けている可能性があるのである。
このように、オールトの雲は恒星間天体と密接な関係にあり、天体の入れ替わりも激しいと見られている。太陽系のオールトの雲にある天体のうち、約半数は他星から捕捉した“外来種”であるという説もあり、オールトの雲はいわば恒星間天体の“待機場所”ともいえるのだ。
恒星間天体は出身地の違いで性質が異なる
恒星間天体は、想像以上に太陽系を通過している可能性があるが、現時点で観測されたのは上述した3天体のみだ。これらは出身が異なると思われ、形成環境も千差万別である。それを裏付けるように、3天体はいずれも際立った個性を備えている。
ボリソフ彗星とアトラス彗星は、明確な彗星活動が確認された。これらはどこかの星系においてオールトの雲に属していた天体である可能性がある。しかし、ボリソフ彗星の組成が比較的太陽系の彗星に近いものであったのに対し、アトラス彗星からは太陽系の彗星とは異なる化学組成が検出された。同じ彗星であっても、その中身には明確な違いがあることが判明したのだ。
一方、第1号のオウムアムアは、極端に細長い棒状、あるいは薄い円盤状という特異な形状で注目を集めた。ガスの放出が検出されなかったため彗星とはみなされなかったが、重力以外の要因による加速が確認されたことで、一時は地球外文明の宇宙船説まで飛び出す事態となった。近年は、目に見える尾を持たないものの内部に揮発性物質を保持し、それが少しずつ噴出することで推進力を得ているとする「ダークコメット」説が有力視されている。
アトラス彗星は、2025年7月1日、木星軌道の近く、4.52天文単位のところで発見された。同年10月29日には火星軌道と地球軌道の間、1.36天文単位の近日点を秒速60kmの速度で通過している。現在は木星軌道を越え、6天文単位以上となっている。銀河系の内側の方向からやって来たと考えられている。
2025年8月、太陽から3.2天文単位の距離にあったアトラス彗星を観測した先行研究では、太陽系の平均的な彗星と比較して高いCO2(二酸化炭素)/H2O(水)比を持つことが報告された。真空の宇宙空間において、これらが固化するには極低温が必要であり、特にCO2の固化には絶対温度約80K(約-190℃)以下の環境が求められる。つまり、CO2に富むアトラス彗星は、極めて低温で揮発性物質に富む環境で形成されたことを示唆している。ただし、その後の熱進化や表層の変質が組成に影響を与えている可能性も考慮する必要がある。
酸素禁制線を用いる手法でアトラス彗星のCO2/H2O比を推定
CO2/H2O比の測定をするには、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡など、宇宙空間からの直接観測が有効だが、観測例が限られる点が課題だ。そこで新中専門員らの研究チームは、地上望遠鏡でも実施可能な「酸素禁制線」を用いた推定手法を用いたという。
この手法は、彗星のコマ内での光解離により、H2OおよびCO2から生成される酸素原子の「分岐比」の違いを利用するものだ。H2Oから生成される場合、低いエネルギー準位(1D)の酸素が約93%を占め、よりエネルギーの高い準位(1S)は約7%にとどまる。1Sから1Dへ遷移する際には緑色の光、1Dから基底準位へ遷移する際には赤色の光が放たれる。つまり、成分が水のみであれば、放出される光の大部分は赤色となる。
一方、CO2から光解離が生じる場合、1Sの酸素原子が生成される割合は約38%まで増加する。すなわち、緑色の光の強度が強ければ、それだけCO2が多く存在することの証左となる。この緑色と赤色の強度比(G/R比)を精密に測定することで、コマ内のCO2/H2O存在量比を導き出すことが可能だ。
新中専門員らは2026年1月7日、すばる望遠鏡の可視光高分散分光器「HDS」を用い、太陽から2.87天文単位の距離にあるアトラス彗星を観測。その結果、3本の酸素禁制線の検出に成功した。
得られたG/R比は0.339±0.027であり、先行研究と同様、太陽系の彗星よりも顕著にCO2に富むことが裏付けられた。この数値から推定されるCO2/H2O比は0.31~2.39に達する。これは、CO2がH2Oの3割以上、最大で約2.4倍も存在していることを意味する。なお今回の研究では、ボリソフ彗星も太陽系の彗星よりは高いCO2/H2O比を示すことが明らかにされた。
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アトラス彗星の酸素禁制線によるG/R比の太陽系彗星との比較。アトラス彗星は太陽系の彗星よりもCO2に富むことがわかった。最終的にCO2はH2Oの31%から239%の範囲内で存在すると算出された。(出所:京産大プレゼン資料PDF)
近日点通過でアトラス彗星のCO2/H2O比が変化
さらに今回の研究では、近日点通過を境にCO2/H2O比が変化したことも確認された。これは、恒星間空間を移動する長い年月の間に、天体表面から深さ15~30m程度までの範囲が「銀河宇宙線」の照射を受け、化学的に変質していたことが原因と考えられる。太陽に接近した際、変質した表面が蒸発して失われ、内部の未変質な層が露出したというわけだ。
宇宙線の照射を受けると、表層部分は、一酸化炭素(CO)がCO2へと変換され、CO2の割合が増加する。また、彗星内の有機物の継続的な崩壊によりCOは残存し続ける。有機物に富むため、スペクトルは赤みを帯びる傾向にある。加えて、熱伝導率の低い「アモルファス氷」の状態であることも推測された。対して内部は、表層がシールドとなるため形成当時の組成が維持されていると考えられるが、その具体的な構造については今後の解明が待たれる。
ルービン天文台の本格稼働で恒星間天体が増加か?
2025年にファーストライトを迎えたベラ・C・ルービン天文台による、大口径サーベイ観測「LSST」が開始されることで、恒星間天体の発見数の増加が期待されている。年に数個というハイペースで新たな発見が相次ぐ可能性すらあり得るとされる。恒星間天体はまさに一期一会の存在であり、発見直後からの継続観測が欠かせない。サンプル数が増加すれば、他星系における惑星形成やその後の進化を統計的に論じることが可能になる。その物理量を正しく解釈するための「物差し」として、太陽系彗星の観測も今後もさらに重要度が増すとしている。









