国立天文台と東京大学(東大)の両者は5月26日、すばる望遠鏡が発見した約126億年前の宇宙にある大規模な「原始銀河団」を、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)で詳細に調べた結果、銀河が密集した場所では、そうでない場所の銀河よりも星の広がりが大きいことが判明し、宇宙誕生から12億年後の時点で、すでに銀河は周辺環境の違いによって成長の仕方が異なっていたことを明らかにしたと共同で発表した。

  • ロクタク原始銀河団領域の疑似カラー画像

    ハッブル宇宙望遠鏡(可視光)とJWST(赤外線)の観測データを合成した、ロクタク原始銀河団領域の疑似カラー画像。白い点は、すばる望遠鏡が発見した銀河、オレンジ色の領域は銀河の密集域を示す。色付き等高線は銀河の数密度を示し、同時代の宇宙平均に対して、2倍(ピンク)、5倍(緑)、8倍(青)、10倍(黒)の密度に相当する。白い破線は、ロクタク原始銀河団全体の広がりを示す。赤枠と青枠の拡大画像はそれぞれ、密集環境下の銀河と平均的環境下の銀河の例となる。(c)Laishram et al./NAOJ/NASA/ESA/CSA(出所:国立天文台Webサイト)

同成果は、国立天文台 ハワイ観測所のロナルド・ライシュラム研究員、同・小山佑世准教授、東大大学院 総合文化研究科の日下部晴香助教、同・大学院 理学系研究科の菊田智史特任研究員(研究当時)、同・清水駿太大学院生(研究当時)らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国天文学会が刊行する、天体物理学の学術誌の速報版「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。

宇宙は等方かつ一様とされるが、これは極めて巨大な視点での話であり、10億光年以下のスケールで宇宙を見ると、大規模構造が存在するため、銀河が集まっている部分と空洞(ボイド)との間で密度差が存在している。ほかの銀河から離れた孤立銀河も存在するが、多くは、2桁の数の銀河が重力的に結びついた銀河群か、3~4桁に及ぶ銀河が集まった銀河団などに属している。

しかし、こうした巨大構造も最初から存在していたわけではない。宇宙誕生当初は、ビッグバン元素合成で大量の水素と全体の約4分の1のヘリウム、そして極めてわずかなリチウムが生成されたが、当初はほぼ一様な密度で漂っていた。ところが、時間経過と共に密度差が生じ、密度が濃いところは重力によってさらに周囲のガスを引き寄せ、それが星の誕生につながり、さらには銀河の、そして銀河群や銀河団の誕生へとつながっていった。なお、銀河団の種となった構造は「原始銀河団」と呼ばれている。

現在の宇宙では、銀河団内にある銀河は、孤立銀河と比べて重い銀河が多い。さらに星の形成が止まりやすい、形状が丸くなるなど、さまざまな違いが見られる。このように、周囲に銀河が多いか少ないかで成長の状況が変わる現象を「環境効果」と呼び、銀河団のような密集環境が、宇宙のごく初期から存在したのか、それとも銀河団が成熟してから現れたのかという点が注目されているが、これまで解明されていなかった。

そうした中で研究チームは今回、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam」(HSC)を用いた広域探査により、126億年前の宇宙に大規模な原始銀河団を発見。それを、さらにJWSTを用いて詳細に観測したという。

活発に星が生まれている銀河では、高温の若い星が周囲の水素ガスを光らせるため、特有の光「ライマンアルファ輝線」を放つ。この光を放つ銀河は、「ライマンアルファ輝線銀河」と呼ばれ、宇宙初期の銀河分布を調べる有力な手段である。研究チームは、ライマンアルファ輝線の波長に合わせた特殊なフィルターをHSCに装着した上で広大な天域を観測することで、宇宙初期の構造を描き出し、銀河が密集する領域を特定することに成功した。

今回発見された原始銀河団は、4つの銀河集中域が1つの大きな構造を形成している様子が、インド北東部マニプール州のロクタク湖に浮かぶ島々に似ていることから「ロクタク原始銀河団」と命名された。同原始銀河団の4つの銀河集中域のそれぞれが、将来、大規模な銀河団へ成長すると考えられている。明瞭な構造を持つ原始銀河団が見つかったことで、宇宙初期において環境が銀河成長へ与える影響を調べる貴重な機会が得られたという。

続いて、JWSTで得られた赤外線画像を用いて、この原始銀河団の銀河と、同じ時代の平均的な環境にある銀河の大きさの比較が行われた。その結果、現在進行形の星の形成領域であることを示す紫外線では、両者の銀河サイズに大きな差は認められなかったとした。

それに対し、これまでに誕生した星全体の分布を示す可視光では、原始銀河団の銀河の方が平均して約1.4倍大きいことが確認された。一般に重い銀河ほど大きい傾向があるが、今回見つかったサイズの違いは、質量の違いでは説明できないものだったという。要は、今まさに星が誕生している場所に差はなくても、これまで積み重なってきた銀河全体の成長には差が出ていたということである。これは、銀河の中心部で起きている星形成は同程度でも、密集環境にある銀河では、外側の星の構造がより早く成長していたことが示されているとした。

  • ロクタク原始銀河団中心部に分布する銀河と、同時代の平均的環境下の銀河のサイズ分布

    ロクタク原始銀河団中心部に分布する銀河(赤線)と、同時代の平均的環境下の銀河(青線)のサイズ分布。紫外線(左)、可視光(右)の測定結果。可視光では、密集した環境にある銀河の方が大きいことがわかる。横軸の1倍は、平均的な環境下での典型的な銀河サイズを表す。(c)Laishram et al./NAOJ(出所:すばる望遠鏡Webサイト)

今回の研究により、銀河団が完成するよりも前の段階で、すでに環境が銀河進化を左右していたことが明確に示された。宇宙誕生から12億年後という初期の時代に、銀河は「どこに存在するか」によって成長の仕方が変わっていたことになる。これは、銀河の進化が銀河自身の質量や内部条件だけで決まらず、周囲の環境も宇宙初期から重要な役割を果たしていたことを意味している。

現在、すばる望遠鏡は最新の観測装置である多天体分光装置「オーノヒウラPFS」が稼働を開始し、2020年代末には現在開発中の次世代広視野補償光学装置「ULTIMATE-Subaru」が稼働を開始する予定だ。「すばる2」アップグレード計画が完了したすばる望遠鏡と、JWSTによる追観測を組み合わせることで、このような環境効果が宇宙初期で一般的な現象なのか、それともロクタク原始銀河団に特有のものなのかが明らかになることが期待されるとしている。