早稲田大学(早大)は5月25日、ニュートリノが性質を変える「ニュートリノ集団振動」現象が、超新星爆発に与える影響をスーパーコンピュータ「富岳」によるシミュレーションで解明したと発表した。
同成果は、早大 理工学術院 総合研究所の赤穗龍一郎次席研究員、同・理工学術院の山田章一教授、国立天文台の長倉洋樹特任助教らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する旗艦学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。
超新星爆発は、太陽の8倍以上の質量を持つ大質量星の中心において、核融合で形成された鉄のコアが太陽質量の約1.4倍のチャンドラ・セカール限界を超え、重力崩壊を起こすことで始まる。強い圧力で陽子と電子が合体して中性子となり、その高密度化による「中性子縮退圧」によって重力崩壊が押しとどめられると、その反動で衝撃波が外側へ広がっていく。この衝撃波は途中で減衰してしまうが、ニュートリノが内部の熱を外に運び周囲の物質に受け渡す「ニュートリノ加熱」によって再び加速され、外層を激しく吹き飛ばすことで爆発に至ると考えられている。
ニュートリノには電子、ミュー、タウという3種類のフレーバーがあり、「ニュートリノ振動」によって、それぞれが相互に変身することが知られている。さらに近年、超新星内部のような超高密度環境では、ニュートリノ同士の相互作用による「集団振動」が起こるという点が理論的に指摘されている。
加熱メカニズムに貢献するのは主に電子型であるため、集団振動によるフレーバー組成が変化すると、物質へのエネルギー輸送が変化し、超新星のダイナミクスを左右することになる。特にニュートリノ同士の前方散乱による集団振動の中でも、極めて成長率の高い「高速フレーバー変換」(FCC)が超新星に及ぼす影響が注目されている。
この影響の解明には、ニュートリノの位置に関する情報だけでなく、どの方向にどれだけの量が飛んでいるかという運動量空間分布を解く「マルチアングル輸送」が不可欠だ。しかし、従来のシミュレーションでは運動量空間に近似が課されているため、FFCの影響を調べた先行研究では発生場所を手動パラメータとするしかなく、決定的な結論は導かれていなかった。
このような背景の下、研究チームはこれまで、完全な運動量空間分布を解くマルチアングル輸送である「ボルツマン輸送シミュレーション」を空間多次元で推進してきた。今回の研究では、そこにFFCの影響を実装し、超新星爆発への物理的な影響の解明を試みたという。
その結果、超新星爆発ダイナミクスへの影響を世界で初めて解明することに成功したとする。特に、FFCが発生する数学的条件「ELN-XLN角度クロッシング」を自己無撞着(じこむどうちゃく)的に判定し、その後の分布も「量子運動論的処方」によって与える手法の組み込みに成功した形だ。
なお、ELN-XLN角度クロッシングとは、電子型ニュートリノレプトン数(ELN)と重レプトン型(ミュー・タウ)ニュートリノレプトン数(XLN)の差で定義される物理量の運動量空間角度分布が、正と負両方の値を取る(0の値をクロスする)ことを指す。また量子運動論的処方とは、ニュートリノ集団振動を自己無撞着的に扱った量子運動論シミュレーションの知見を用い、FCCの影響を有効的に取り入れる手法のことだ。
これにより、質量の軽い星ではFFCによりさらに爆発が促進され、重い星では爆発がさらに抑制されるという、影響の二極化が明らかにされた。その理由は、軽い星と重い星における電子型と重レプトン型ニュートリノの放射のされ方の違いにある。
軽い星は物質が中心核へと降り積もる「質量降着率」が低く、それによって駆動される電子型ニュートリノの放出が弱い(光度・平均エネルギーが低い)。この状態でFFCが起きると、重レプトン型から電子型への変換が増加する。重レプトン型の方が電子型よりも平均エネルギーが高いため、FFCが起きると電子型の平均エネルギーが引き上げられ、ニュートリノ加熱率が増加して爆発が促進される。
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衝撃波を膨張させる勢いの指標「比エントロピー」の分布を、フレーバー変換なし(左)とフレーバー変換あり(右)で比較した結果。赤い領域がフレーバー変換発生領域であり、そこを通ったニュートリノの平均エネルギーが高まって加熱率が上昇し、衝撃波が広がっている様子が示されている。(出所:早大Webサイト)
一方、重い星では質量降着率が高い。これは重力エネルギーの解放を通じて中止部に形成された原始中性子星表面を加熱し、主に電子型ニュートリノの放出を増大させる。そのためにFFCが発生すると、電子型ニュートリノから重レプトン型ニュートリノへの変換が増加し、軽い星とは逆にニュートリノ加熱率が減少して爆発が抑制されるのである。
加えて、先行研究で用いられていた近似的取り扱いの妥当性も評価された。先行研究では、低次のモーメントから人為的に再現した運動量空間分布に基づいてFFCの影響が調べられていたが、今回の研究ではその手法と、直接運動量空間分布から求めた結果が比較された結果、先行研究の近似的手法では、FFC出現場所の大部分を見逃すだけでなく、本来発生しない場所で偽判定してしまうことが判明した。このことから、FFCの影響を性格に調べるには、ボルツマン輸送シミュレーションが必要であるということが示された。
ニュートリノ集団振動の成長モードは複数種類あると考えられており、今回の研究では最も成長率が高く卓越したFCCの影響が調べられた。研究チームは今後、「衝突フレーバー変換」など、他の成長モードについても調査を進める方針だ。また、超新星理論にはニュートリノ集団振動以外にも他の不定性も残されており、1つずつ解決していく必要があるとしている。
近年、電磁波・ニュートリノ・重力波観測を組み合わせたマルチメッセンジャー観測の機運が高まっており、近傍で超新星爆発が起きれば、全種類のシグナルが観測できる可能性があるという。特に、今回の主題であるニュートリノの検出に関しては、建設中のハイパーカミオカンデをはじめとして複数の国際プロジェクトが始動中だ。今回の研究のような精密なモデル作りは、将来の観測結果を解釈する上での重要な基盤となるとしている。
