国立天文台は4月9日(ハワイ現地時間)、すばる望遠鏡とその初代広視野カメラ「Suprime-Cam(シュプリームカム)」を用いた観測により、木星の軌道上前方と後方の宙域に存在する「木星トロヤ群小惑星」の色と大きさの関係に関する新たな特徴を発見し、大型小惑星で見られる色の違いが小型小惑星では異なる振る舞いを示すことを明らかにしたと発表した。

同成果は、産業医科大学 医学部の吉田二美准教授(千葉工業大学 惑星探査研究センター 客員上席研究員)を中心とする共同研究チームによるもの。詳細は、米国天文学会が刊行する、宇宙科学の学術誌「The Astronomical Journal」に掲載された。

Suprime-Camが最後の観測で大きな成果!

惑星の周囲には、惑星と太陽の重力が釣り合う「ラグランジュポイント」が理論上5つ存在する。中でも、各惑星の軌道上前後60度に位置するL4(前方)とL5(後方)は重力的に最も安定しており、小惑星が自然と集積しやすい宙域だ。その代表例が木星トロヤ群である。木星は重力が非常に強いためL4とL5が安定しており、長い年月をかけて小惑星が蓄積した。木星に先行するL4の天体は「ギリシア群」、追随するL5の天体は「トロヤ群」と呼ばれるが、一般的には両者を総称して木星トロヤ群と呼ぶ。

  • 木星トロヤ群小惑星のイメージ

    木星トロヤ群小惑星のイメージ。太陽-木星系のラグランジュポイントL4(木星軌道前方60度)の「ギリシア群」(奥)と、同L5(同後方60度)の「トロヤ群」(手前)で構成される。(c)NASA/JPL-Caltech(出所:すばる望遠鏡Webサイト)

従来の観測では、大型のトロヤ群小惑星は反射特性の違いから、赤みが強い「D型」と、それほど赤くない「P型/C型」に大別されてきた。小惑星の色は、その天体の構成物質や形成された宙域の太陽からの距離を反映していると考えられている。これは、太陽との距離によって温度が異なるため、取り込まれる物質の種類が変化するためだ。

トロヤ群には、本来異なる場所で誕生した可能性のある2種類が混在しているが、その理由は未解明だ。初期太陽系で木星と土星の軌道が大きく変動した際、遠方の小天体が木星付近へ運ばれたとする説などが提唱されている。この謎を解明するため、研究チームは今回、詳細が不明だった小型のトロヤ群小惑星に着目したという。

太陽系内では小惑星同士の衝突が頻発しており、小型天体の多くは大型天体が砕けた「破片」とされる。小惑星探査機「はやぶさ2」が調査した「リュウグウ」も、巨大な母天体が破壊された際の破片の一種と考えられている。大型小惑星の表面は長期間の宇宙風化で変質している可能性があるが、破片である小型天体は内部の物質組成を保持している可能性が高い。つまり、小型小惑星の色を調査することは、母天体の本来の構成を探る重要な手がかりとなる。

天体の色を調べる手法には、分光観測や複数のフィルターを用いた「多色測光」がある。小型のトロヤ群小惑星は極めて暗いため、すばる望遠鏡をもってしても分光観測を行うのは困難だ。そこで今回の研究では、すばる望遠鏡の初代広視野カメラSuprime-Camを用いた多色測光が実施された。

すばる望遠鏡は、2014年から2代目の超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam」(HSC)が共同利用観測を開始したことから、Suprime-Camは引退が決定。そうした中で今回の観測は、Suprime-Camのラストミッションとして2017年5月に行われた。Suprime-Camの約7倍の視野を持つHSCではなく、Suprime-Camを今回の観測で利用することにしたのは、HSCは装置が巨大でフィルター交換に時間を要するためだ。短時間で広範囲の多色測光観測を行うには、Suprime-Camの方が適していたのである。

L4領域のギリシア群を観測したところ、120個のトロヤ群小惑星が検出された。そのうち、直径数km規模の小天体についての色とサイズの関係が調査された。その結果、小型小惑星では、大型小惑星で見られた明確な色の二極化が確認されないことが判明。色は連続的に分布しており、全体としては赤くない天体が多い傾向が見られたという。

大型の小惑星は、色によるサイズ分布(どのサイズの小惑星がどれくらい存在するか)が異なることが知られていたが、小型小惑星では「赤いもの」と「赤くないもの」でサイズ分布に有意な差は見られなかった。この結果は、従来提唱されていた「赤い小惑星が衝突で砕けて赤くない破片になる」という仮説を否定するものだ。色の違いに関わらず、同様の破壊プロセスを経ていることが観測されたからである。

  • 今回の観測で得られた小惑星のサイズ分布

    今回の観測で得られた小惑星のサイズ分布。横軸(明るさ)は天体のサイズの指標で、13等は直径約16km、17等は直径約3kmに相当。縦軸は、ある明るさ以下の小惑星が全体のどれだけを占めるかという割合を表す。赤い小惑星(□)と赤くない小惑星(○)の間で、サイズ分布に違いが見られないことがわかる。(c)Yoshida et al. 2026(出所:すばる望遠鏡Webサイト)

今回の成果は、木星トロヤ群の起源と進化を探る上で不可欠な知見となるという。今後は、トロヤ群を史上初めて訪れる米国航空宇宙局(NASA)の「Lucy」や、木星圏を探査するNASAの「エウロパ・クリッパー」と欧州宇宙機関(ESA)の「JUICE」といった探査機による直接観測への期待も大きい。こうした近接観測の結果と、今回の研究成果や理論モデルを統合することで、トロヤ群小惑星の起源や進化の理解が大きく進む可能性があるとしている。