宇宙航空研究開発機構(JAXA)は5月25日、これまで宇宙機に搭載されて太陽系外惑星の検出に成功した光学望遠鏡の最小口径が60mmだったのに対し、小惑星探査機「はやぶさ2」の口径15mmの光学航法望遠カメラ「ONC-T」を用いて、2つのホットジュピターのトランジット観測に成功したと発表した。

  • トランジット現象の概念図と光学航法望遠カメラ「ONC-T」

    (左)公転する系外惑星が主星の前を横切るトランジット現象の概念図。(右)「はやぶさ2」搭載の口径15mmの光学航法望遠カメラ「ONC-T」。(c)JAXA(出所:ISAS Webサイト)

同成果は、JAXA 宇宙科学研究所(ISAS) 太陽系科学研究系の湯本航生日本学術振興会特別研究員(PD)兼パリ天文台 訪問研究員、ISAS はやぶさ2プロジェクトチームの三桝裕也宇宙科学プログラムディレクタ付、ISAS 太陽系科学研究系の早川雅彦助教、同・坂谷尚哉特任助教、ISAS 科学衛星運用・データ利用ユニットの下村純人プログラムディレクタ付、ISAS 太陽系科学研究系の田中智教授(総合研究大学院大学兼任)、同・塩谷圭吾准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国天文学会が刊行する、宇宙科学の学術誌「The Astronomical Journal」に掲載された。

世界最小口径の観測機による検出に成功

系外惑星は現在、米国航空宇宙局(NASA)の「Exoplanet Archive」によれば、2026年5月21日時点で6291個、パリ天文台などの研究者らが参加するexoplanet TEAMによる「Encyclopaedia of exoplanetary systems」によれば、同月27日時点で8225個に達している(両者の差は惑星の定義の差などに起因)。

発見されている系外惑星の多くは、同程度の質量を持つ太陽系の惑星と比べ、公転周期が短い傾向がある。例えば、木星と同程度の質量でありながら主星の至近距離をわずか10日以下で公転する「ホットジュピター」が数多く検出されている一方、太陽系の木星のように公転周期が10年以上の巨大ガス惑星はほとんど発見されていない。

これは、太陽系が特異な惑星系であることを意味するわけではなく、現在主流の「トランジット観測」手法に起因する観測バイアスが原因とされる。同手法は、恒星の前を系外惑星が横切る際のわずかな減光を捉える仕組みのため、大型で通過頻度の高い短周期惑星ほど発見されやすくなる。

こうしたバイアスを低減する手段として、超小型衛星を用いて特定の恒星を長期間にわたって継続的にトランジット観測する手法が提案されており、JAXAが構想中の将来計画「LOTUS」でも検討が進められている。これにより、公転周期の長い木星型惑星の検出も可能になると期待されている。

しかし、これまで宇宙でのトランジット観測に成功した最小の観測器は、NASAが2017年に打ち上げた6Uサイズ(約10×20×30cm)の超小型衛星「ASTERIA」に搭載された口径60mmの望遠鏡だった。これより小型の観測器でどこまで高精度な観測が可能なのかは未検証であったため、研究チームは今回、「はやぶさ2」の口径15mmの光学航法望遠カメラ「ONC-T」を用いて、系外惑星のトランジット観測に挑んだという。

「はやぶさ2」は現在、拡張ミッションとして、2031年到着予定の小惑星「1998 KY26」を目指して航行中であり、2026年7月5日には小惑星「トリフネ」のフライバイ観測を実施する計画だ。これまで、ONC-Tはリュウグウの科学観測での貢献に加え、惑星間ダストによる微弱な散乱光の検出にも成功しており、航法用途にとどまらず高精度な科学観測に耐え得ることが実証されていた。

さらに、「はやぶさ2」は打ち上げから10年以上が経過して宇宙線照射による機器の劣化も確認されていることから、小型観測器による長期運用時のトランジット観測能力を検証する上で好適な環境と判断された。

今回の研究では、公転周期が短くホットジュピターに分類される「WASP-189 b」と「MASCARA-1 b」を観測対象とし、2年かけて計14回のトランジット観測が実施された。各イベントでは約21時間の連続観測が行われ、合計約1万枚の画像が取得された。

観測の結果、トランジットに伴う約0.5%の恒星減光を捉えることに成功。WASP-189 bとMASCARA-1 bにおける減光量をノイズで割った「シグナル対雑音(S/N)比」は、それぞれ40および16を記録した。この結果は、約7倍の口径を持つ、NASAの系外惑星探査を目的とした衛星「TESS」による観測データとも整合的で、高い測定精度が確認された。具体的には、トランジット時刻は約2分、減光率から求めた惑星と恒星のサイズ比は約0.2%の精度で決定されたという。

  • 「WASP-189 b」および「MASCARA-1 b」の全トランジット観測データを重ね合わせた図

    ONC-Tによる「WASP-189 b」(左)および「MASCARA-1 b」(右)の全トランジット観測データを重ね合わせた図。ONC-Tによる結果(青線)は、TESSによるデータ(赤線)と極めてよく一致している。(出所:ISAS Webサイト)

これにより、口径15mmの極めて小型な光学系であっても、また10年以上にわたり宇宙線に暴露された後であっても、木星型惑星のトランジット観測には十分な性能を維持できることが示された。

また今回の観測により、MASCARA-1 bの公転周期が過去の観測結果と一致しない可能性が浮上した。その原因として、恒星や近傍惑星との重力相互作用により軌道が乱され、公転周期がわずかに変動している可能性が指摘された。同天体が今後も長期的な継続観測を要する重要対象であることが示された形だ。

今回の成果により、系外惑星の検出に必要な望遠鏡口径の要件を大幅に引き下げられることが実証され、将来的な超小型衛星による観測網の拡大に期待が寄せられている。ONC-Tと同程度の小口径望遠鏡であっても、同一の恒星を年単位で継続観測すれば、未発見の長周期木星型惑星を検出できる可能性が提示された。こうした観測の積み重ねにより、太陽系と類似した惑星配置を持つ惑星系の存在頻度が解明され、太陽系の普遍性や特異性の理解が進むことが期待されるとしている。