この半導体ニュースのまとめ

  • 「1nm半導体」以降の高速・低消費電力化を阻む最大のボトルネックは、半導体の微細化に伴うCu配線の抵抗率上昇(サイズ効果)にある
  • 慶應義塾大学などの研究グループが、新材料配線に関する4アプローチでポストCu配線の実現に向けた指針を提示。次世代配線材料の有望性を実証・予測
  • 材料・プロセス・計算を横断する統合的な研究基盤により、Cu配線の限界を突破する次世代BEOL配線技術の道筋を示す

次世代1nmノード以降の半導体に向けた配線材料について、4件の新たな技術や知見が得られたと、慶應義塾大学や物質・材料研究機構(NIMS)の研究グループが6月1日に発表。1nm世代以降の半導体集積回路において、配線抵抗を大幅に低減でき、高速動作や低消費電力化に寄与することが期待されている。

国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の 次世代エッジAI半導体研究開発事業における、慶應義塾大学理工学部の多田宗弘教授、田中貴久准教授らのグループと、NIMSの中谷友也主幹研究員らのグループによる研究成果。詳細は米サンノゼで開催中の、半導体配線技術の国際会議「IEEE International Interconnect Technology Conference 2026」(IITC2026、会期:現地時間6月1〜4日)において発表される。

研究背景

スマートフォンや自動車、AIデータセンターなど、現代社会を支える半導体デバイスの性能向上は、プロセスの微細化によって実現されてきた。半導体チップ内では、膨大な数のトランジスタを接続するきわめて細い金属配線(BEOL配線)が信号や電力を伝達しており、現在の主材料としては銅(Cu)が使われている。

しかし、配線寸法(配線幅)が電子の平均自由行程である約39nmに近づき、同程度以下になると、表面や結晶粒界での「電子散乱」と呼ばれる現象の急増によって、抵抗率が急上昇する“サイズ効果”が顕在化する。加えて、Cuの拡散を防ぐために欠かせない“バリア層”が相対的に厚くなり、実際に導電を担う実効金属断面積が減少する。

その結果、配線の電気抵抗が大きくなり、信号遅延や消費電力、発熱の増大を招くことから、1nm世代やさらにその先の世代の性能向上を阻む、最大のボトルネックとなっていた。

研究概要

こうした配線抵抗問題の解決には、「Cuに替わる新材料の探索」、「ルテニウム(Ru)などの既存候補材料におけるプロセス技術の極限制御」、「材料・界面の微視的理解に基づく設計指針の提示」を一体的に推進することが欠かせない。研究グループは、こうした統合的戦略のもとで、材料合成・薄膜プロセス・理論計算を有機的に結合した研究を進め、新材料配線に関する4つの多面的アプローチで、“ポストCu配線”の実現に向けた指針を提示。次世代配線材料の有望性を実証・予測した。

4アプローチの詳細は以下の通りで、研究グループでは「いずれもCu配線の限界を突破する高いポテンシャルがある」と説明。短期的にはRu・Niのプロセス最適化が実用化に結びつき、中長期的には異方性伝導体(CoSn・PtCoO2)が新世代配線を担う可能性がある、と見ている。

  • ルテニウム(Ru)配線の極薄Taライナーによる高配向化
  • ニッケル(Ni)配線の極薄Alキャップによる酸化抑制
  • 異方性伝導体であるカゴメ金属CoSnの単結晶薄膜の成長
  • 擬一次元導体PtCoO2の粒界散乱の密度汎関数強束縛法による原子論的モデル化

1. 極薄Taライナーによる高配向PVDRu薄膜(慶應義塾大学)

Ruは電子の平均自由行程が約6.6nmとCuの1/6と短く、微細配線でのサイズ効果が小さいため、1nm世代以降の最有力配線材料として注目されているが、層間絶縁膜SiO2との化学的結合が弱いため密着性に乏しく、これまでは密着層(ライナー)の挿入が必須だったという。

従来、このライナーは配線の実効体積を減らし、抵抗率を悪化させる「必要悪」とされてきた。今回の研究では、Ru/SiO2界面にタンタル(Ta)を0.1〜1.0nmの極薄レンジで精密挿入する手法を開発。その結果、Ta0.2〜0.3nmの挿入により、hcpRu(002)の結晶配向強度比が0.78から最大1.0まで向上することを見出した。

これにより、膜厚20nmにおいて13.0µΩ·cmの低抵抗率を達成すると共に、テープ剥離試験による密着性も確保。「従来の常識を覆し、密着層の挿入が逆にRuの結晶配向を改善し抵抗率低下に寄与する、1nmノード配線の実装に向けた大きな進展だ」としている。

2. 1nm Alキャップ付きNi薄膜による低抵抗配線(慶應義塾大学)

Niは、Cuに比べて「バルク抵抗率×平均自由行程」の積が小さく、極細配線での抵抗上昇が抑えられる有望材料と見られているが、極薄膜化すると大気中で容易に酸化し、抵抗率が劣化する課題があった。

今回の研究では、マグネトロンスパッタでNi薄膜を成膜した直後、真空を破らず厚さ1nmのAl(アルミニウム)キャップ層を連続堆積する手法を開発。このAlキャップは、大気暴露により一部が自己的にAl2O3不動態層を形成し、下地となるNiの酸化を効果的に抑制するほか、400度・30分のアニールによってNi粒径が約7nmから11nmへ成長し、電子の粒界による散乱を減少させることに成功したという。

これにより、膜厚7.9nmにおいて23µΩ·cmという、同等膜厚のCu薄膜を下回る抵抗率を達成し、BEOL工程の熱負荷(400度以下)の要件も解決。「酸化抑制」と「結晶成長」を極薄Alキャップひとつで同時に実現し、sub-10nm厚Ni配線の低抵抗化に向けた有力な手法としている。

3. カゴメ金属CoSn単結晶薄膜の擬一次元伝導(NIMS)

カゴメ格子(“カゴ目”と呼称される、三角形を基調とした幾何学的格子)を持つ金属CoSnは、結晶のc軸方向のみ低抵抗率(バルクで3〜7µΩ·cm)、面内では100µΩ·cm超という強い擬一次元的伝導異方性を示す。c軸を配線方向にそろえることで、表面散乱を原理的に回避し、サイズ効果を劇的に抑制できると期待される、新たなコンセプトだという。

今回の研究では、MgO(110)基板上にbccCoFe(211)/hcp-Co/hcp-Ruのバッファ層を介した独自のエピタキシャル成長手法を確立し、c軸が面内方向を向いたCoSn(10-10)単結晶薄膜の作製に成功。得られた薄膜は、c軸方向で約13µΩ·cm、a軸方向で約120µΩ·cmと、バルク単結晶に匹敵する約10倍の抵抗率異方性を再現した。

異方性伝導体を配線に用いるコンセプトを単結晶薄膜で実証し、300mmウェハスケールのエピタキシャル成長・ウェハ転写といった量産プロセスへの道筋を示している。

4. PtCoO2の双晶粒界散乱の原子論的モデル化(慶應義塾大学)

PtCoO2はデラフォサイト構造を持つ異方性伝導体で、面内方向に極めて低い抵抗率(ナノスケール膜で10µΩ·cm未満)を示す、CoSnと並ぶ次世代配線の有力候補材料とされる。しかし、粒界における電子散乱の寄与については、定量的評価が難しかった。

この研究では、計算コストの高い第一原理計算(DFT)に代わり、大規模な原子系にも適用可能な密度汎関数強束縛法(DFTB)を活用。ベイズ最適化を用いてPtCoO2専用のDFTBパラメータを独自に開発し、これを用いた非平衡グリーン関数(NEGF)計算により、180度回転双晶粒界における反射係数R=0.48を抽出、従来経験的に用いられてきた値(R=0.5)との一致を初めて原子論レベルで検証した。

開発パラメータは公開リポジトリで提供され、PtCoO2および関連異方性材料の高スループット原子論的設計の基盤を構築したとのこと。

今後の展開

研究グループは今後、ライナー挿入Ruと極薄キャップ付きNi技術の実配線構造への適用と、エレクトロマイグレーションなどの信頼性を検証。また、PtCoO2のDFTBパラメータを活用した粒界・表面構造の大規模原子論的スクリーニングを実施し、他のデラフォサイト材料へ展開していく。CoSn薄膜については、A面(0001面)利用による表面平坦化と、300mmウェハ対応プロセスとウェハ転写技術の開発を進める。

これらの成果を統合することで、1nm世代以降、さらには埋め込み電源配線(BPR)やCFET世代を見据えた半導体配線技術の基盤を、国内の産学官連携体制のもとで確立、「日本発の次世代半導体技術の国際競争力強化に寄与する」としている。