東京都立大学(都立大)、筑波大学、埼玉大学、東京大学(東大)の4者は4月21日、次世代の半導体材料として注目されている「遷移金属ダイカルコゲナイド」(TMDC)の多層結晶において、異なる2種類のTMDCが同一の面内で接合した構造の作製に成功したことを共同で発表した。

同成果は、都立大 理学研究科 物理学専攻の小倉宏斗大学院生(研究当時)、同・川崎盛矢学部生(研究当時)、同・遠藤尚彦研究員、同・中西勇介助教、同・柳和宏教授、同・宮田耕充准教授、産業技術総合研究所(産総研) 材料・化学領域 極限機能材料研究部門の劉崢上級主任研究員、産総研 デバイス技術研究部門の入沢寿史研究グループ付、筑波大 数理物理系の丸山実那助教、同・高燕林助教、同・岡田晋教授、埼玉大大学院 理工学研究科 物質科学部門・理学部基礎化学科のLim Hong En助教、同・上野啓司教授、東大大学院 工学系研究科 マテリアル工学専攻の長汐晃輔教授らの研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行するナノサイエンスとナノテクノロジーに関する全般を扱う学術誌「ACS Nano」に掲載された。

固体中のトンネル電流を利用した「トンネル電界効果トランジスタ」(TFET)は、従来の電界効果トランジスタ(FET)の限界を超える低電圧で電流をスイッチングでき、低消費電力な電子デバイスとして期待されている。このTFETに適した材料とされるのが、層状構造を持つ半導体のTMDCだ。同一面内で接合した構造のTMDCを利用したTFETは、高い性能が理論的に予測されている。ただし、そうしたTFETには、高濃度に電子やホールを含む半導体の接合(PN接合)が必要となるが、TMDCの電子やホールの濃度を十分に高くできないため、これまで実験的にはほとんど研究が進んでいなかったという。

そこで研究チームは今回、ホールを高濃度で含み、ニオブ(Nb)原子を不純物として含む二硫化モリブデン(MoS2)の多層結晶「NbxMo1-xS2」で、面内接合を実現することに着目したという。今回の研究では、研究チームの宮田准教授らがこれまでに挙げてきたTMDCに関するいくつもの成果を活用し、将来的な産業応用の点からも有用な化学気相成長(CVD)を利用した多層TMDCの面内接合の作製、そしてトンネル電流の観測が行われた。

この観測にあたっては、まず粘着テープを用いてTMDC結晶をへき開し、その後にシリコン基板上に多層のフレーク状結晶を張り付け、試料が作製された。張り付けた多層TMDCとして、界面の構造観察用に「二セレン化タングステン」(WSe2)、そして電子輸送特性の評価用にNbxMo1-xS2の2種類が用いられた。その基板を利用し、成長条件を最適化することで、CVDにより最初に張り付けた多層TMDCの結晶の端からMoS2結晶が成長させられた。

その後、作製された試料の構造について、複数の手法を用いた評価が行われた。試料断面の電子顕微鏡観察からは、多層WSe2の端から同じ結晶方位を持つMoS2が接合している様子が明瞭に確認されたという。これは、CVDを利用することで、多層WSe2の端にMoもしくはS原子が結合し、MoS2の成長が可能であることを意味するとした。