「台湾の半導体大手企業の内部で、米国での事業拡大が緊張をかき立てる - TSMCによるアリゾナ工場への400億ドルの投資について同社従業員の疑念が高まっている」といった内容を米The New York Times(NYT)が2月22日付で報じている

課題は生産コストと米国従業員の管理

同記事は、NYTが匿名を条件にTSMCの従業員11名にインタビューしたものであり、米国工場に対して従業員の多くは、TSMCが長い間進めてきた研究開発への注力が揺らぐ可能性があると考えているという。米国と台湾の文化の違いから、米国への移住をためらっているとする従業員もいるとされており、「米国での高コストによる生産」と「米国の従業員の管理上の課題」が、米国への製造プロセス移管を難しくしていると多くの従業員が指摘しているという。

一部のTSMCのエンジニアからは、アリゾナ工場にて米国で採用された従業員と台湾からの従業員をどのように融合させるかについての懸念を述べたという。台湾では、エンジニアは毎日長時間、しかも週末もシフト制のため働くことが当たり前となっているが、米国の従業員がそうした条件を受け入れなければ、アリゾナ工場で働くことになる台湾からの従業員の負担が増すことになる可能性が高いことが指摘されている。

実際、TSMCの最高財務責任者であるWendell Huang氏は、先般開催した決算説明会にて、米国の工場建設コストは台湾で建設する場合と比べて少なくとも4倍になる可能性があることを認め、その結果、TSMCの収益性を損なう可能性があることを述べている。

プライベートエクイティ会社であるKirkland Capitalの会長で元技術アナリストのKirk Yang氏は、ビジネス視点で見たTSMCの米国投資は、費用が高すぎて意味がないとコメントをNYTに寄せている。同氏はTSMCは政治的配慮のために米国に工場を設立することを余儀なくされた可能性があるが、「これまでのところ、TSMCや台湾にほとんど利益をもたらしていない」と述べたという。

TSMCの協力業者も高コストと労働力確保に課題

TSMCでは、自社のアリゾナ工場に原材料、設備、重要部品などを提供してもらうため、工場近くに協力業者も進出することを求めているという。しかし、そこに参加しようとしている協力会社も、労働力確保と高コストな設備投資の問題に直面しているという。熟練した労働力と建設機械の確保については、同じアリゾナ州内で新工場の建設を進めているIntelと激しく競合している模様である。

TSMCの広報担当者であるNina Kao氏は、NYTからの問い合わせには答えてはいないものの、「米国の工場建設に関する決定は、顧客の需要、市場機会、世界的な才能を活用する機会など、さまざまな要因に基づいている。TSMCは海外の人材を企業文化に統合するためのトレーニングを強化している」と述べたとしている。

TSMCアリゾナ工場が稼働するのはまだもう少し先の予定であるが、こうした高コストでの製造や従業員の管理など、従来のTSMCになかった課題をどのように克服して先端半導体の量産にたどり着けるか注目される。