東京工業大学(東工大)などは2月14日、次世代パワー半導体として期待されるβ-Ga2O3中での「擬水素」としてのミュオンの局所電子状態を詳細に調べたところ、ミュオンはそれ自身で電子のドナー・アクセプター役に対応する2つの準安定状態を取ることが判明したことを発表した。

同成果は、茨城大学理工学研究科の平石雅俊研究員、東北大学金属材料研究所の岡部博孝特任助教、高エネルギー加速器研究機構(KEK) 物質構造科学研究所ミュオン科学研究系の幸田章宏准教授、門野良典特別教授、物質・材料研究機構(NIMS)機能性材料研究拠点の大橋直樹拠点長、東工大 国際先駆研究機構元素戦略MDX研究センターの細野秀雄特命教授らの研究グループによるもの。詳細は米国科学雑誌「Physical Review B 」にオンライン公開された

電気エネルギーの効率的な活用に向け、シリコンパワー半導体の性能を上回る高性能パワー半導体の実用化が進められているが、そうした次世代のパワー半導体の候補物質の1つに酸化ガリウムがある。その応用上の課題として、キャリア密度などの電気特性を精密にコントロールすることが求められるが、そのためには電気特性に影響を与える主要因(不純物や、酸素および、ガリウムの欠陥など)を理解することに加え、合成やデバイスの作成法との関係などを詳しく調べる必要があるとされている。

中でも水素は、あらゆる物質に含まれうる普遍的な不純物であり、シリコン中に含まれる微量水素が導電性に影響を及ぼすことも知られており、シリコン以外の半導体や太陽電池材料物質などの機能性物質中での水素による影響などが検討されるようになってきたという。酸化ガリウムにおいても理論計算による研究から、水素がn型伝導に寄与しうることが指摘されており、電気特性などへの影響が懸念されているが、これまで微量水素を直接的に調べる手法が限られていたことから、実験的な知見は限られていたという。

そこで研究グループでは今回、酸化ガリウムの中でも安定した構造を持つβ型酸化ガリウム(β-Ga2O3)について、不純物としての水素の電子状態を解明することを目的として研究を行うことにしたという。