京都大学(京大)は1月18日、光吸収の少ない二酸化チタン(TiO2)からなる、指向性のある蛍光を放つことのできる「ナノアンテナ蛍光体」の作製に成功したことを発表した。

同成果は、京大 工学研究科の村井俊介助教、同・Feifei Zhangポスドク研究員(研究当時)、同・愛知広樹大学院生(研究当時)、同・田中勝久教授らの研究チームによるもの。詳細は、英国王立化学会が刊行する光・磁気・電子デバイス用材料に関する全般を扱う学術誌「Journal of Materials Chemistry C」に掲載された。

ナノサイズの粒子を基板上に周期的に並べた2次元構造は、光を平面内に強く閉じ込めたり、特定の方向へ集めたりする性質を持つ。このような構造は、光に対するアンテナとしてナノアンテナと呼ばれている。

そうした中、同研究チームは、ナノアンテナと蛍光体を組み合わせたナノアンテナ蛍光体を開発し、光源や照明応用を目指した研究を進めている。2018年には、黄色蛍光体基板の上にナノアンテナを作製して青色レーザと組み合わせた指向性白色光源を試作したことを発表済みだ。この試作品は、蛍光体から放たれる黄色光が基板表面に作製されたナノアンテナの作用を受けて前方方向に集められ、青色レーザ光と均一に混ざることで、前方方向へ指向性を持った白色光を生成する仕組みである。

  • ナノアンテナ蛍光体の模式図

    ナノアンテナ蛍光体の模式図(出所:京大プレスリリースPDF)

こういったこれまでの研究では、強く光を散乱し高い指向性が得られることから、金属アルミニウム(Al)ナノ粒子からなるナノアンテナが使用されていた。しかし、Alは可視光を吸収してしまうため、青色レーザ光および黄色蛍光が弱まってしまう点と、光の吸収に伴う試料過熱という点の2つの課題を抱えていたとする。そこで今回の研究では、光吸収の少ない材料でナノアンテナを作製することでこの欠点を克服することを目指すことにしたという。

そして、今回の研究でAlナノ粒子に替わる材料として選択されたのが、高屈折率かつ低光吸収材料であるTiO2だ。まず、Alナノ粒子と同じ大きさのTiO2ナノ粒子が作製され、同じ周期で並べたナノアンテナ蛍光体が試作された。すると、光の吸収は抑えられたものの、まったく蛍光の指向性が得られなかったという。これは、TiO2ナノ粒子の光散乱強度がAlナノ粒子に比べて劣ることに起因したものだ。

そこでシミュレーションを用いて最適構造が探索し、周期およびサイズともにAlを使用したものと比べて一回り大きなナノアンテナが設計・試作された。すると、Alのものに迫る高い蛍光指向性と低吸収を両立するナノアンテナ蛍光体の作製に成功したという。同蛍光体の正面方向への蛍光強度は、アンテナがない蛍光基板の10倍に迫る値に達し、また青色レーザ光から黄色蛍光への変換効率は蛍光基板と変わらなかったとした。

  • ナノアンテナ蛍光体からの蛍光放出挙動。(左)蛍光基板に青色レーザ光を照射すると、前方には青色透過光の色が見える。(右)蛍光強度の放出角度依存性。下図は蛍光強度を放出角度0°で規格化されており、ナノアンテナ蛍光体における蛍光指向性がわかる

    ナノアンテナ蛍光体からの蛍光放出挙動。(左)蛍光基板に青色レーザ光を照射すると、前方には青色透過光の色が見える。(右)蛍光強度の放出角度依存性。下図は蛍光強度を放出角度0°で規格化されており、ナノアンテナ蛍光体における蛍光指向性がわかる(出所:京大プレスリリースPDF)

研究チームによると、光吸収の少ないナノアンテナ蛍光体は、高強度青色レーザで照射した際の温度上昇が抑えられるため、高輝度が必要となる応用において有利だという。また今回の研究では、設計次第でさらに正面への蛍光強度が高いナノアンテナ蛍光体の作製が可能であることも示されたことから、今後、限界に迫る特性を持つアンテナの開発に取り組むとしている。