まもなく終盤に突入する春ドラマの中で最大の話題作は、『あなたがしてくれなくても』(フジテレビ系、毎週木曜22:00~)で間違いないだろう。特に見逃し配信の再生数は1話あたり300万回を優に超えるなどの熱狂的な支持を集めている。

もう1つの注目作は、今春に新設されたドラマ枠「金曜ドラマDEEP」で放送されている『夫婦が壊れるとき』(日本テレビ系、毎週金曜24:30~ ※一部地域除く)。深夜帯の作品ながら第7話までの見逃し配信再生数が累計1,500万回を突破するなど、こちらもオンラインでの人気が高い。

『あなたがしてくれなくても』はセックスレス、『夫婦が壊れるとき』は不倫や裏切りと、ともに夫婦のトラブルがテーマの作品。なぜ夫婦のトラブルを扱った作品は配信との相性がいいのか。テレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。

  • 『あなたがしてくれなくても』主演の奈緒 (C)フジテレビ

    『あなたがしてくれなくても』主演の奈緒 (C)フジテレビ

■セックスレスが悩みとして一般化

『あなたがしてくれなくても』のテーマであるセックスレスは、実はこの2年あまり深夜ドラマのトレンドだった。『それでも愛を誓いますか?』(ABCテレビ・テレビ朝日ほか)、『私のシてくれないフェロモン彼氏』(TBS)、『夫婦円満レシピ~交換しない?一晩だけ~』(テレビ東京系)、『わたしの夫は―あの娘の恋人―』(テレビ東京系)などが放送・配信され、さらに5月31日から『私と夫と夫の彼氏』(テレビ東京)がスタートしたばかりだ。

また、不倫やパートナーの裏切りがテーマの作品は、毎クール2~3本程度が放送・配信されている。これほど多く、コンスタントに放送・配信されているのだから、各局が明確な戦略のもとに制作しているのは間違いない。その大半が深夜帯に放送されていることから、放送と同等以上に配信で期待されたテーマであることがわかるだろう。

基本的に配信での視聴は、「好きなときに、好きな作品を、好きなデバイスで見る」ことができる使い勝手の良さが魅力。だからこそ「1人で見る」という人が多く、夫婦トラブルなどの刺激的な物語の視聴にも適している。たとえば、『あなたがしてくれなくても』のツイートを見ると、夫婦で見るのが気まずいような作品をこっそり見て楽しんでいる様子がうかがえた。

登場人物を自分に置き換えて共感しながら見る人もいれば、よその夫婦をのぞき見するように興味本位で見る人もいるが、共通しているのは、非日常のファンタジーとして楽しもうとしていること。現実的な不倫はしないし、夫婦のトラブルはないほうがいいに決まっている。だから「リアルだけど、遠い世界の話」として見られるドラマの中で楽しんでいるのだろう。

実際、『あなたがしてくれなくても』は、吉野みち(奈緒)と夫・陽一(永山瑛太)、新名誠(岩田剛典)と妻・楓(田中みな実)のセリフや心の声に、「わかる」「ありえない」「これはツライ」などとさまざまな距離感からのコメントが書き込まれている。

特にこのところ増えているセックスレスというテーマは、「夫婦の半数超が該当する」というデータ(※「ジャパンセックスサーベイ2020」調査ほか)があるなど、身近な悩みの1つとなってひさしい。悩みとして一般化したからこそ『あなたがしてくれなくても』は、深夜帯ではなく22時台のプライムタイムで放送されているのだろう。