芸人全体に話を広げると現在、脚本でトップを独走状態なのはバカリズムで間違いないだろう。
今冬も1月5日にスペシャルドラマ『ノンレムの窓2025・新春』(日本テレビ)を手がけたほか、12日には連ドラの『ホットスポット』(同)がスタート。もはや芸人という枠を超えて、時代を象徴する脚本家の1人と言っていいかもしれない。
その他では、劇団ひとり、かもめんたる・岩崎う大、シソンヌ・じろう、かが屋・賀屋壮也、空気階段・水川かたまり、ハナコ・秋山寛貴、吉住、ザ・マミィ・林田洋平、Aマッソ・加納、男性ブランコ・平井まさあきなど、幅広い芸風と世代の芸人がドラマの脚本を手がけてきた。
さらに「さまざまな芸人が脚本を手がけるドラマ」というコンセプトで、21年に『でっけぇ風呂場で待ってます』(日テレ)、22年に『脚本芸人』(フジ)、23年に『お笑いインスパイアドラマ ラフな生活のススメ』(NHK総合)が放送されたことからも、業界内の「それが当たり前」というムードがわかるだろう。
芸人が手がける脚本の良さは、主に「キャラクターとかけ合いの面白さ」「笑いの手数が多い」「オチにこだわる」ことの3点と言われている。その3点はいずれも専業脚本家とは異なる視点から描かれるため、「似た作品ばかり」と言われがちなドラマシーンの中で異彩を放つことが可能。ここで名前は出せないが、実際に「芸人としての活動をセーブして脚本に専念したほうがいい」と言われる芸人もいる。
前述した芸人はいずれもコントの名手であり、単独ライブの評価が高いほか、劇場で強みを発揮できるタイプが多い。しかも、単にコントをするだけでなく、作り手として笑いと感動を共存させた高品質な舞台を手がけていることがドラマ関係者からの評価を上げている。
特にドラマのスタッフには「笑いを取れる芸人」としてだけでなく、「感動も誘えるクリエイター」という見方の人が多い。バカリズムの脚本を見れば笑いや発想の面白さだけでなく、ほどよく感動させていることがわかるのではないか。
若手・中堅の中には「ドラマの脚本を書いてみたい」という芸人が多く、普段からドラマの脚本を意識して長尺コントを手がけている芸人もいる。ヒコロヒーもその1人だけに、連ドラデビュー作となる『トーキョーカモフラージュアワー』への期待感は高い。その才能を踏まえて、「バカリズムに匹敵する芸人脚本家になれる」という声があることは確かだ。
もちろん脚本と舞台では、構成、制約、評価基準などが大きく異なるだけに、「コントの名手であれば誰でもドラマの脚本を書ける」というわけではない。今作でヒコロヒーには「原作漫画を連ドラ仕様にまとめつつ、自分なりに脚色する」ことが求められているが、「器用なだけでなく、実は謙虚な努力家」と言われる彼女なら、高いハードルを越えられるかもしれない。