26日、ドラマ『海のはじまり』(フジテレビ)特別編「恋のおしまい」が放送された。

今回の特別編は、本編より3年前の夏を舞台に南雲水季(古川琴音)と津野晴明(池松壮亮)が軸となる完全新撮の物語。2人の切ないラブストーリーのほか、月岡夏(目黒蓮)と水季の子・海の4歳当時を泉谷星奈の実妹・月菜が演じたことなども話題となった。

放送中から終了後にかけてネット上には「このタイミングで見れて良かった」「話がつながった」「水季にも津野くんにも感情移入できるようになった」などの好意的な声が続出。物語が終盤に向かう大事なタイミングでの“1回休み”にもかかわらず、特別編はおおむね好意的に受け入れられたと言ってよさそうだ。

特別編の放送は目黒蓮の体調不良による活動休止を受け、第9話の代わりに放送されたものだったが、なぜここまで違和感なく受け入れられたのか。さらに、連続ドラマの特別編に求められるのはどんなものなのか。テレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。

  • 古川琴音(左)と池松壮亮=『海のはじまり 特別編「恋のおしまい」』より (C)フジテレビ

    古川琴音(左)と池松壮亮=『海のはじまり 特別編「恋のおしまい」』より (C)フジテレビ

すでにスピンオフは配信していた

連続ドラマにおける特別編やスピンオフは「もう1つの物語」という派生作品として本編の終了後に放送されるケースが多い。

その主な目的は視聴率の獲得とファンサービスだが、これまで最も多かったのは「全話のダイジェスト版に多少の新撮を加えた物語を放送する」というパターン。新撮のパート以外は、良く言えば「これまでの余韻を楽しめる」、悪く言えば「ほぼ再放送」というニュアンスがあり、好評とは言いづらいものも少なくなかった。それは今回の特別編「恋のおしまい」を“全編新撮”と大々的にPRしていたことからも分かるのではないか。

さらに近年では“動画配信サービスでの有料版”として制作するのが常とう手段。すなわち特別編は「人気作でさらに稼ぐ」という民放各局の営業戦略なのだが、『海のはじまり』はすでに無料のTVerで「兄とのはじまり」を配信している。これは夏の弟・大和がメインの物語であり、演じる木戸大聖の人気や脚本の生方美久など同じスタッフが手がけることを踏まえれば有料版でも十分需要があっただろう。

しかし、それをしなかったところに制作サイドの自信や確信がうかがえる。実際、プロデュース・村瀬健×脚本・生方美久×演出・風間太樹、高野舞の作品は『silent』『いちばんすきな花』と2作連続で大量の配信再生数を獲得してきた。

ちなみに『いちばんすきな花』のスピンオフ「みんなのほんね」は、第1話こそ無料のTVerだったが第2話~第6話は有料のFODで配信していた。その点、『海のはじまり』は「本編で築いた視聴者との信頼関係を損ねないために、すべて無料で見てもらおう」という方針変更の跡が見える。

話を特別編「恋のおしまい」に戻すと、本来は本編終了後の放送、あるいは「兄とのはじまり」と同じようにTVerでの配信がベターだろう。終盤に突入し、クライマックスに向けて盛り上がる第9話の前に放送する必然性は見当たらない。

これは目黒蓮の活動休止によるものだったが、他の作品なら唐突すぎてこれほど受け入れられなかったのではないか。『海のはじまり』は前述したように過去作によるスタッフへの信頼が厚く、なかでも生方美久の果たす役割は大きい。