• (左から)『有吉くんの正直さんぽ』有吉弘行、『タカトシ温水の路線バスで!』タカアンドトシ

    (左から)『有吉くんの正直さんぽ』有吉弘行、『タカトシ温水の路線バスで!』タカアンドトシ

『モヤモヤさまぁ~ず2』は、2007年4月に土曜深夜帯でスタート。2年後の2009年4月に金曜深夜へ移動したあと、翌2010年4月に日曜ゴールデンへ昇格し、11年半後の2021年9月まで放送された。『有吉くんの正直さんぽ』と『タカトシ温水の明日行ける!小さな旅』(『タカトシ温水の路線バスで!』の前身)が2012年にスタートしたことも含め、「2010年代は、いかに同番組のような“ゆるいおでかけ番組”が求められていたか」が分かるのではないか。

『モヤさま』はその後、2021年10月に土曜深夜へ、さらに半年後の2022年4月に火曜深夜へ移動したあと、1年半後の今秋から土曜昼へ。「現在“ゆるいおでかけ番組”が求められているのは、ゴールデンでも深夜帯でもなく、土曜昼ではないか」という編成意図なのだろう。

そもそも土曜は1990年代から朝の時間帯で、『朝だ!生です旅サラダ』(テレ朝=ABCテレビ制作、8:00~)や『ぶらり途中下車の旅』(日テレ、9:25~)が放送され続けてきた。その他でも現在、『土曜はナニする!?』(フジ=カンテレ制作、8:30~)が放送され、前番組の『にじいろジーン』(2020年3月終了)も含め、「街ぶら」や「旅」をベースにした“ゆるいおでかけ番組”の定番時間帯となっている。

これらはいずれも「休日の朝をのんびりと過ごしたい」という人に向けた番組であり、その流れが2010年代ごろから昼の時間帯に及びはじめ、「今秋さらにその流れが加速した」ということになる。つまり、土曜の朝から昼過ぎまでずっと“ゆるいおでかけ番組”が放送されているのだ。

しかし、これほど民放各局が“ゆるいおでかけ番組”に偏ってしまうのは、視聴者にとって必ずしも歓迎すべきこととは言えない。番組コンセプトの偏りは、「これはあの番組でも見たばかり」「テレビは似たような番組ばかり」などのネガティブな声につながりやすく、ひいては「土曜朝から昼すぎまでは配信コンテンツを見る時間帯にしよう」などの厳しい決断につながってしまうリスクがある。

  • (左から)『朝だ!生です旅サラダ』神田正輝、『ぶらり途中下車の旅』小日向文世、『土曜はナニする!?』山里亮太

    (左から)『朝だ!生です旅サラダ』神田正輝、『ぶらり途中下車の旅』小日向文世、『土曜はナニする!?』山里亮太

■制作サイドにとってのハードルは低い

では、なぜこれほど偏ってしまうのか。その理由は、「これなら視聴率が獲れるかもしれない」というマーケティングが同じベクトルだからだろう。

しかし、冒頭に挙げた2つの新番組は「意欲的に仕掛けた」というポジティブなムードとはほど遠い。逆に「これしかないだろう」という消去法で“ゆるいおでかけ番組”を選んだようなネガティブなムードを感じさせられる。

もちろん今後そんな懸念を覆してくれることを期待したいが、もし日テレとフジの編成サイドに「土曜昼は“ゆるいおでかけ番組”を好む人くらいしかリアルタイムで見てもらえない」という諦めがあるとしたら先行きは暗い。

さらに言えば、“ゆるいおでかけ番組”はタレントの依存度が高いコンセプトであり、制作サイドにとって「リサーチ、事前手配、台本の作り込みなどの時間・労力・コストが減らせる」というメリットがある。事実、情報や笑いの密度が薄く、グダグダのシーンが続いても「それはそれでアリ」というハードルを下げた番組も少なくない。やや厳しい見方になるかもしれないが、他の番組より楽ができるコンセプトなのではないか。

少なくとも今秋の傾向は、「コロナ禍の重苦しい時期が終わり、これからは思う存分ロケができる」というポジティブな意味ではないように見える。たとえば、『ラヴィット!』(TBS)のように「街ぶら」や「旅」を扱った番組でも、工夫次第で成功させられるだろう。いずれにしても偏っている分、明確な差別化が必要であり、やはりスタッフの奮闘が鍵を握っている。