テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。

今回は、IT企業経営者としての経験も持つ弁護士・中野秀俊氏が「スタートアップ・ベンチャー企業にとってのIPOとM&Aのメリットとデメリット」について解説します。

  • スタートアップ・ベンチャー企業にとってのIPOとM&Aのメリットとデメリット

出口戦略としてのM&AとIPO

スタートアップ・ベンチャー企業にとって、成長していった結果、出口戦略としては、M&A(バイアウト)とIPO(上場)があります。ひと昔前は、IPOを目指すことが当然みたいな空気もありましたが、資金調達手段が多様化している中、必ずしもIPOしなければならないといったことはなくなりました。

そこで、スタートアップ・ベンチャー企業としての、M&AとIPOのメリット・デメリットを解説します。

IPOとM&A による売却のメリット・デメリットの整理

このメリット・デメリットは、新規ビジネスの組成の経緯から、ビジネスの特徴、見据える資本政策等によって様々です。その会社よって状況が違うため、一概には言えません。しかし多くの場合、IPOとM&Aは以下のように整理できると思います。

IPOの場合

●金銭面
金銭面のメリットは、次のことが考えられます。

  • 既存株主による売却益が市場価値の付加にされることにより、大きく期待可能できる
  • ストックオプションにより、広く役職員に経済的な利益をもたらす

一方、デメリットは、次のことが考えられます。

  • IPO直後の保有株式の全売却は難しい。また、上場後はインサイダー規制等により売却時期が制限される

IPOをしても、株主はすぐには全部の株式を換金できるわけではありません。

●ガバナンス体制
グレーゾーンを突くビジネスモデルは上場審査で苦難する可能性があります。

法令遵守体制(ガバナンス・内部管理体制等)は、IPOに係る引受審査や上場審査に耐えうる組織設計を3年以上前から意識し、準備を進める必要があります。この管理体制構築に相当人的・物的リソースが割かれることになります。ただ、東京プロマーケットでは最短1年半ほどでの上場も可能です。

また、上場した後も、決算発表等の適時開示体制、インサイダー取引防止体制等の内部管理体制の維持・強化のコストや労力が継続的に求められます。

●組織面
IPOを目指す過程では、組織としての成長(一体感の醸成)が期待できることが挙げられます。また、役職員に対してストイックオプションを交付していた場合に、IPOに伴うキャピタルゲインの実現が見込めます。

M&Aの場合

●金銭面
資本政策との関係とは、創業株主は全株式の売却もできるため、手取額としてはIPOより多額となる場合もあります。ただし、相対取引で価格決定するため、売却益は、契約交渉力に左右される可能性があることに注意が必要です。

また、創業者・投資家には経済的な利益をもたらしますが、従業員に対しては経済的利益を与えにくいですし、売却先以外の他社との資本業務提携等は困難になります。

大手企業とのCVCなどの場合には、大企業のブランド力や資金力を活用できます。このような買収企業のリソースを活用できるのも、大きなメリットです。

●ガバナンス体制
法令遵守体制については、IPOに比べ「ビジネス優先(技術・営業)」で進められます。買収先企業のデューデリでOKが出れば、手続きが進むことになります。(ただし、デューデリジェンスに備えた最低限の管理体制構築は必要)

●組織面
組織面でいうと、大手企業とのCVCや買収などによって、創業時からのベンチャーマインドのあるコア人材が退職するといった事態はよくあります。また、持株比率の低下により、創業株主自らが経営を継続する場合の経営意欲がなくなってしまうこともあります。

目標地点を見据えた経営を

以上、IPOとM&Aを比較してみました。どちらが良い、悪いという話ではありません。ただスタートアップ・ベンチャー企業を経営するうえで、「会社の出口としてこういうものがあるのだ」と考えることは有意義であるはずです。