テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。

今回は、IT企業経営者としての経験も持つ弁護士・中野秀俊氏が、「MOU」を締結する際の注意点について語ります。

  • MOUとは? 締結の際の注意点を解説

MOU締結と効力について

新規取引や契約を行う場合に、MOUという書面を提示されることがあります。例えば、M&Aの場面では、初期的情報が売主から買主に提示され、質疑応答や協議を経たあと売買当事者間で一定の合意に達した場合、両者の間でMOUが締結されることがあります。このMOUは、日本語で「覚書」を意味しています。契約書締結の前段階で、お互いの約束ごとを決めておくといった位置づけです。

では、MOUについて、法的拘束力はあるのでしょうか? 「覚書」と聞くと、契約書より劣ったものと思われがちですが、「覚書」でも、お互いの合意事項が記載されていれば、契約書と同じ効力があります。 MOUでも断定的な条件を記載すると、後から裁判で、それは法的な拘束力があると判断される可能性があります。よって、MOUを締結する場合には、法的拘束力があるものなのか、ないものなのかを確認するようにしましょう。

仮に法的拘束力を発生させたくない場合には、冒頭部分で、「法的拘束力を発生させるものではない」旨の記載をする必要があるでしょう。また、各条項に「希望」、「暫定」といった文言を記載することが考えられます。

M&AのMOUにおいては、次のような項目が記載されます。
・譲渡希望日
・取引の対象範囲(例:売主の保有する対象会社株式100%の譲渡)
・DDの実施
・独占交渉期間
・秘密保持
・取引金額(暫定で、ここは記載されないことも多い)

MOUの取引金額(暫定)の記載方法

MOUにおいて記載するM&Aの取引金額(暫定)については、以下の2通りの方法があります。

1.特定金額を提示する方法

特定の金額を提示する場合、法的拘束力を発生させたくないのであれば、「暫定」・「法的拘束力がない」などの記載した方がよいでしょう。

また、法的拘束力がない場合であっても、特定の金額を記載するということは、この金額がベンチマークになることを意味します。譲渡金額について、一定の約束であるとの受け止め方をする可能性があることを十分理解しておきましょう。

もしその後のデューデリジェンスなどで、譲渡金額の減額をする事由が発生した場合には、そのことを十分に説明するなどの対応が必要になるのです。

2.金額の幅(レンジ)で示す方法

買主の立場から考えると、取引金額(暫定)を一定の幅で示すことによって、取引金額の交渉 上柔軟性がでるので、このような表現がされることが多いです。

一方、金額を示しても、売主側としてはレンジの下限を下回らないと期待される可能性もあります。そのため、きちんと説明をすることが必要となってきます。

とはいえ幅をもたせて提示すると、売主側が本当に買収する意思はあるのかと、不信感を持つ可能性もありますので注意しましょう。

しっかり判断することが大切

MOUについては、上記の通り記載方法によって契約書と同じ効力がある場合があります。MOUや覚書といったタイトルから簡単なものだと判断せず、しっかりチェックするようにしましょう。

執筆者プロフィール : 中野秀俊

グローウィル国際法律事務所 代表弁護士、グローウィル社会保険労務士事務所 代表社労士、みらいチャレンジ株式会社 代表取締役、SAMURAI INNOVATIONPTE.Ltd(シンガポール法人) CEO。
早稲田大学政治経済学部を卒業。大学時代、システム開発・ウェブサービス事業を起業するも、取引先との契約上のトラブルが原因で事業を閉じることに。そこから一念発起し、弁護士を目指して司法試験を受験。司法試験に合格し、自身のIT企業経営者としての経験を活かし、IT・インターネット企業の法律問題に特化した弁護士として活動。特に、AI・IOT・Fintechなどの最先端法務については、専門的に対応できる日本有数の法律事務所となっている。