テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。

今回は、中小ベンチャー企業などへの経営コンサルティングのかたわら、デジタルハリウッド大学院客員教授、グロービス・マネジメント・スクール講師、パートナーCFO養成塾頭等も務める高森厚太郎氏が、「コーチング」に必要なスキルやマインドについて語ります。

  • コンサルティングのスキル、マインドとプロセスについて

数字とロジックで経営と現場をExit(IPO、M&A、優良中堅)へナビゲートする。ベンチャーパートナーCFO、高森厚太郎です。

本連載の第47回では、具体的にCFOが会社の成長マネジメントをするにあたり、経営者とどう議論していけばいいのか、「中小ベンチャー経営者とのディスカッションスキル」について触れました。そして今回は、第52回に続く、より具体的なスキルの2つ目、「コーチングのスキル、マインドとプロセス」についてです。

コーチングの流れ

経営者に対するコーチングを進める際の手法として、「T-GROWモデル」を紹介しましょう。

  • 英国のJohn Whitmore(ジョン・ウィットモア)が開発したコーチングの基本モデルGROWモデルを参考に作成

コーチングでは、最初に「テーマ(Theme)」を設定します。コーチングの意義はクライアント自身に答えを出させるところにありますから、「テーマ」はクライアント自身が決めるべきです。

クライアントが「テーマ」を設定できたら、コーチはクライアントに「あるべき姿」を尋ねます。「あるべき姿」とはクライアントが思い描く理想的な結果、つまり"Goal"です。

その次にコーチは「現状」について尋ねます。今の"Real"を聞くわけです。ここでコーチはもうひとつのR、"Resource"についても尋ねます。Goalに向かうためのResource(資源)が、あなた自身やあなたの会社の中に存在しますか。なければ外部から調達することはできますかと聞くのです。

Goal(あるべき姿)とReal(現状)が客観視できれば、あとは両者の「ギャップを埋めるプロセス」になります。コーチはクライアントから具体的にどうやってそのギャップを埋めていくかという解決策の"Option"を引き出したり、ギャップを埋めていくための意思(Will)確認、すなわち"マインドセット"を行ったりします。

コーチングの4スキル

実際のコーチングでは、以下の4スキルを使って、セッションを進めていきます。

(1)認める

「認める」スキルの目的は、「相手に安心して話してもらう」ことにあります。人は認めてもらえないというのが一番不安になる要素であるため、まず認めることで安心して話してもらうのです。具体的方法として、相手の言葉をそのまま受け止める、相手の言葉に適切に反応する、同じ言葉を繰り返す、第三者の言葉をそのまま伝えるなどが挙げられます。

(2)聴く

「聴く」スキルの目的は、「相手に気持ちよく沢山会話してもらう」ことです。コーチングは、相手の中にある解決策を引き出し、相手にその気になってもらうもの。相手に気持ちよく色々アイデアを出してもらうために、聴くモードにならないといけません。具体的方法として、ペーシング、相槌をうつ、オウム返し、接続詞を使って聴く、沈黙する、要約する・言い換えるなどが挙げられます。

(3)質問する

「質問する」スキルの目的は、「相手の中にあるものを引き出す」ことにあります。コーチングは、相手の中にあるものを引き出すことが求められ、そのために質問のスキルが必須となります。具体的方法として、オープンクエスチョン、チャンクダウン・チャンクアップ、将来のありたい姿を尋ねる、視点を変えるなどが挙げられます。

(4)フィードバックする

最後のスキル「フィードバックする」の目的は、「相手の気づきを促す」こと。コーチングは、相手の気付きを引き出して、実行してもらうことがゴールですが、そのためには、相手に全てを委ねるのではなく、コーチからもちょっとした視点の提示なり、ヒントがあってもいい、あった方がいいということです。具体的方法としては、相手の許可を得て(予告して)行う、Iメッセージを使う、コーチが感じたことを確認するなどが挙げられます。

コーチングが成り立つ前提

コーチングは、クライアントが自力で目標達成・問題解決できるようになることをサポートする、すなわち相手の可能性を引き出すコミュニケーションのスキルです。単なる言葉のテクニックだけでは効果的なコーチングを行うことはできません。コーチングの土台(コーチングピラミッド)を備えてはじめて、相手の可能性を引き出すコーチングを行うことができるのです。

  • 銀座コーチングスクール テキストを参考に作成

上記のコーチング4つの「スキル」の前提には、相手、「クライアントとの信頼関係」が必要です。そしてそのまた前提として、相手の可能性を引き出すためには、相手の中に答えがあると信じる「コーチングマインド」が必要であり、さらなる前提としては、相手を信じ、100%味方と思うために、「自己基盤」として自分が理解・承認・開示できていないといけません。

決してこちらから押しつけるような答えの出し方ではなく、まだ言語化・数値化・ビジュアル化されていないクライアント自身の中にある漠然とした「思い」を信じましょう。なぜなら、それを引き出し、具現化して答えの形にしていく方がよほど喜ばれ、経営者自身のモチベーションが上がります。是非ともセッションの経験を重ねて、有意義なコーチングを行ってみてください。

次回は、「中小ベンチャー経営者とのディスカッションスキル」の3つ目、「ファシリテーションのスキル、マインドとプロセス」について考えていきます。

執筆者プロフィール : 高森厚太郎

一般社団法人日本パートナーCFO協会 代表理事。
東京大学法学部卒業。筑波大学大学院、デジタルハリウッド大学院修了。日本長期信用銀行(法人融資)、グロービス(eラーニング)、GAGA/USEN(邦画製作、動画配信、音楽出版)、Ed-Techベンチャー取締役(コンテンツ、管理)を歴任。現在は数字とロジックで経営と現場をナビゲートするプレセアコンサルティングの代表取締役パートナーCFOとしてベンチャー企業などへの経営コンサルティングのかたわら、デジタルハリウッド大学院客員教授、グロービス・マネジメント・スクール講師、パートナーCFO養成塾頭等も務める。著書に「中小・ベンチャー企業CFOの教科書」(中央経済社)がある。