テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。

今回は、コンサルティング会社と会計事務所の代表を務め、スタートアップを中心に会計面・資金調達面からサポートを行っている岡野貴幸氏が、フリー・キャッシュフローの最大化を行う際の重要な経営指標「CCC」について解説します。

  • Amazonに学ぶ「フリー・キャッシュフロー」の最大化


前回は、世界的なEコマースの会社であるAmazonがどのように「フリー・キャッシュフローの最大化」を行っているか記載しました。今回は、フリー・キャッシュフローの最大化を行う際の重要な経営指標について語りたいと思います。

その重要な経営指標は、「CCC」と呼ばれています。CCCとは、Cash Conversion Cycle(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)の略です。

一般的な企業では、まずお金を支払って商品を仕入れ、その商品を販売することで売上を獲得します。お金を支払って(キャッシュアウト)から、お金が入ってくる(キャッシュイン)までは手元のお金が減っている状態になります。この期間が長いほど資金繰りは苦しくなり、短いほど資金繰りは楽になります。

CCCはこの手元からお金が減っている期間を日数で表したものになります。CCCの日数が短いほど資金繰りは楽な状態となります。

前々回の連載で説明した通り、これは損益計算書の売上計上と仕入計上のタイミングとはずれるので、営業利益には現れてきません。

営業利益が同じ2社があったとしても、資金繰りが楽な会社と、苦しい会社という差が生じます。その資金繰りの違いを見る上でCCCは有効です。

下記がCCCの計算方法となります。

CCC=売上債権回転日数+棚卸資産回転日数-仕入債務回転期間

「売上債権回転日数」とは、売上が生じてから実際に代金を受け取るまでの期間です。商品を売ってから30日後に入金される場合、売上債権回転日数は30日となります。

また「棚卸資産回転日数」とは、仕入れた商品が販売されるまでの期間で、商品を在庫として保有している期間を言います。棚卸資産とは、商品(製品含む)、原材料、仕掛品等を全て合計した金額のこと。そのため、原材料を仕入れてから商品を作るまでに20日、商品を販売するまでに20日がかかる場合、棚卸資産回転日数は40日になります。

「仕入債務回転期間」とは、商品は原材料を仕入れてからその代金を支払うまでの期間のことです。原材料を仕入れてから支払いを行うのが30日後の場合、仕入債務回転期間は30日となります。

では、上記を例にCCCを算出してみましょう。

売上債権回転日数30日+棚卸資産回転日数40日―仕入債務回転期間30日=40日

結果、この40日間はお金が減っている状態になるということです。より想像しやすいよう日付をつけて時系列で見ていきましょう。

6月1日に原材料の仕入を行います。支払は30日後なので、6月30日です。仕入れた原材料から商品を作るまでは20日なので、商品完成は6月20日、商品を販売するまでも20日なので、販売開始は7月10日になります。そして、販売してから資金を回収するまで30日間なので、8月9日が資金の回収日となります。

このように、お金の支払いが生じたのが6月30日、お金の回収が出来たのが8月9日となりますので、40日間お金が手元から減っている状態になる訳です。

ではAmazonのCCCは何日でしょうか? なんと、2017年度ではマイナス34日となっています。マイナスということは、お金が先に入ってきているということになります。このやり方については前回に記載した通りです。

スタートアップの企業は、なかなか支払を後ろに延ばしてもらうことが難しいと思います。ただ、入金は出来るだけ早く、出金は出来るだけ遅くということを意識して最初から取り組むことでCCCを短くしていくことが可能となります。そしてその意識が、損益計算書では現れない効率的な資金繰りという形で経営に大きな影響を与えてきます。

自社のCCCは何日になっていますか? まずは現状を確認し、CCCを短くすることが何か出来ないか考えてみましょう。

執筆者プロフィール : 岡野貴幸

ゴージュ株式会社 代表取締役、ゴージュ会計事務所 代表公認会計士
立教大学経済学部卒業。大学在学時に公認会計士試験に合格。大学卒業後、あずさ監査法人国際部に入社。上場企業の法定監査、国際会計基準導入支援業務を経験。実家は埼玉県で3代続く税理士事務所を経営しているが、ゼロから立ち上げ新しい会計事務所の形を作りたいと一念発起し、2014年に独立。岡野公認会計士事務所(現、ゴージュ会計事務所)を設立。同時にコンサルティング会社であるゴージュ株式会社を設立。成長する企業を会計面・資金調達面からサポートしたい想いから、スタートアップを中心にサービスを行っている。クラウドを駆使し徹底した経理の効率化、事業計画の作成、資金調達を得意とする。