若手のビジネスパーソンの悩みの一つに、「上司との関係がうまくいかない」というものがあります。なんて他人事のように書き出しましたが、実は、かくいう私自身にも、正直、上司とうまくいかなかった経験があります。
キャリアを重ね、一人前と見なされている中堅やベテラン社員と比べて、仕事を始めたばかりの若手ビジネスパーソンにとって、「上司」の存在はとても大きいです。それだけに、その関係性が悪いと、仕事全般に大きな悪影響を及ぼしかねません。
今回は、私がやった「しなくていい努力」を中心に、上司との関係を考えていくことにします。
自分は上司に何を期待しているのか
私自身、「上司とうまくいかない」と感じた経験が多々あります。ところで、「うまくいく」とか、「うまくいかない」というのは、自分の判断です。うまくいくというのは、「自分の期待通りのことが起きた」ということであり、うまくいかないというのは、「自分の期待通りにはならなかった」ということです。
当時の私は上司に以下のことを期待していました。
・自分よりも専門性が高く知識も多い人
・自分が困っていたら導いてくれる人
・自分をマネジメントしてくれる人
あらためて書いてみると、ほとんど「学校の先生」に対する期待と同じです。ですから、仕事で迷ったときは、先生に尋ねるように上司に相談しました。
すると、上司は「堀田君はどうしたいのか?」と、なんと、答えを教えてくれるどころか、逆に私に質問し、私の期待は見事に裏切られたのです。
なぜこの人は答えを教えてくれないのか……。逆に質問なんておかしいだろ……。同じような出来事を何回か経験した私は「この上司とはうまくかない」と判断し、上司と関わるたびに、ストレスをためていったのです。
上司と学校の先生は違う
ストレスをためていった私は、30歳でどうにもならなくなり、会社を休職しました。そして復職した私は、「休職は2度とできない」と、ゼロからのやり直しに取り組み、いままで、自分が「当たり前」だと思っていたことも、全部、疑ってみたのです。
「上司への期待」についても疑い、「仕事ができる先輩」たち何人かに、上司への期待を聞いてみたのです。何人かに聞いた私は、呆然としました。なぜなら、皆が、「私と異なる、同じ上司像」を持っていたのです。
ある先輩は、「上司は政治の世界でいえば『大臣』で、部下は『官僚』」と例え話をしてくれました。そして、訝しげな私に「大臣と官僚、専門性が高くて知識が豊富なのは?」「大臣に教わる官僚なんている? 官僚が大臣に教えてるよね」と説明してくれました。
・上司より部下の方が、その分野の専門性が高く知識も豊富である
・各論がわからない上司が判断できるように、上司を部下が導く
・部下は上司“を”マネジメントする
という、私とはまったく違った期待を持って、上司と接していたのです。
上司をマネジメントする
ですから、「君はどうしたいのか?」と上司に聞かれても、私と違ってストレスは感じませんし、「上司とはうまくいっている」と日々感じて、楽しく仕事をしていたのです。
その先輩も、若手のころは、なにをどうしたらいいかさっぱりわからずに、上司に相談したこともあったといいます。私と同じように、上司に「君はどうしたいか」と聞かれて、何も答えられなかったこともあったそうです。
しかし、私と決定的に違うのは「受け止め方」で、私のように「この上司はおかしい」とは思わなかったのです。逆に、上司に答えを教えてもらったときには「これはおかしい。本来は自分が答えを提示すべきなのだ」と反省していたのです。
ちなみに、欧米のビジネススクールには、「ボスマネジメント」という学科があります。もちろん「上司にマネジメントしてもらう」ことなんかトレーニングしません。「上司"を"マネジメントする」ことを学ぶのです。
すべての上司が、全人格的に非の打ち所がない、なんてことはなく、上司も人間であり、我々と同じ、欠点の多い、ただのビジネスパーソンです。別な視点でいえば、上司とは、「10、15年後のみなさん」なのです。
執筆者プロフィール
堀田孝治(ほった・こうじ)
クリエイトJ株式会社代表取締役
1989年に味の素に入社。営業、マーケティング、"休職"、総務、人事、広告部マネージャーを経て2007年に企業研修講師として独立。2年目には170日/年の研修を行う人気講師になる。休職にまで至った20代の自分のような「しなくていい努力」を、これからの若手ビジネスパーソンがしないように、「7つの行動原則」を考案。オリジナルメソッドである「7つの行動原則」研修は大手企業を中心に多くの企業で採用され、現在ではのべ1万人以上が受講している。著書『入社3年目の心得』(総合法令出版)、『自分を仕事のプロフェッショナルに磨き上げる7つの行動原則』(総合法令出版)他。