――堀江さんの代表的な企画といえば、『¥マネーの虎』(日本テレビ)もあります。これはどのように発案されたのですか?
僕、ずっと画面に札束がいっぱい映り込んでるドギツい番組を作りたかったんですけど、ある本を読んでたら、中国の華僑のシステムで、成功者が若い才能に出資するというくだりがあって。独立して店を持ちたいという若い料理人が、その腕前を見て「私は500万円出す」「こんな不味い料理に出資できない」みたいなやりとりがあって、これを志願者にまず設定金額を言わせて、その額に達するまでのプレゼンショーにしたら、テレビ的になるんじゃないかと思って企画書にしました。ただ、各局に持ち込んだんですけど、全然通らなくて。
――何がネガティブに反応されたのですか?
「お金のやり取りが考査に引っかかる」と言われて、どこも通らなかったんです。でも、しつこく6年ぐらい出し続けたら、当時日本テレビの企画統括だった土屋敏男さんが「これ面白そうじゃん」って通してくださったんです。でも、放送枠は土曜の深夜24時50分で、「1クールで世帯視聴率7%超えなかったら打ち切り」っていう条件が課せられました。当時深夜の7%って、ゴールデンで言ったら18~20%くらいで、逆にその条件付きの枠っていうのも話題になって注目が集まったんです。
――対外的にも発表してたんですね。
「電波少年のT部長が条件を出して枠を与えた」という話題性も追い風になったのか、1カ月後に8.3%(ビデオリサーチ調べ・関東地区、世帯)とって、「これで続けられる」とホッとしました。そしたら、半年後に金曜20時にゴールデン進出という急展開で、正直、ゴールデンのソフトとしてはどうかなと不安でしたけど、案の定1年半で終わりました(笑)
――今でも記憶に残る個性的なキャラクターの方がどんどん生まれましたよね。結果として短期間で終了しましたが、今や日テレのフォーマット販売で海外に一番売れている大ヒット番組です。
TBSの『未来日記』が海外フォーマットで売れて、知り合いのディレクターが現地に演出のレクチャーで行ったんですけど、豪華なホテルが用意されて、海外のテレビマンに指導してきたって話を聞かされて、ものすごくうらやましく思えて。『¥マネーの虎』も絶対海外に売れるはずだと思って日本テレビに提案したら動いてくれて、この連載にも登場された清水星人さんが当時『¥マネーの虎』のディレクターだったんですけど、フランスのテレビ市に持っていったら「ものすごい反響だったよ」と。最初にイギリスの公共放送・BBCが買ってくれて、次に、アメリカ3大ネットワークのABCが続き、現在は世界45カ国とどんどん夢が広がっていきました。
――なぜ海外のほうがヒットしたのでしょうか?
海外の方のほうが、学校教育にもなってるくらいディベート文化が発達していて、視聴者も理詰めの細かい話に付き合ってくれる土壌があるような気がします。日本の場合は「マネー成立」の瞬間がピークですが、海外版はそこからさらに利益をどう分配するかなど、細々とした契約のやりとりでもう1回白熱するらしいです。
――独自の発展を遂げているんですね。
それとショーアップがケタ外れです、米国版を見ましたが、何億円もかけたセットで巨大な水槽に何匹ものサメが泳いでて、オープニングで水槽が2つに割れてMCが登場してました(笑)
――その話を聞いて、「ゴチ」も海外に通用するようなコンテンツじゃないかと思いました。
僕も知らなかったんですけど、日本テレビが同じくフランスのテレビ市に出展したらしいんです。でも、売れたというお話は聞いておりません。「ゴチ」のほうがどの国でも受けそうな気がするんですけど、分からないもんですね。
■蛭子能収と“亡くなった妻”の会話「すごく感情を揺さぶられた」
――ほかにも、ご自身の中で手応えのあった企画を挙げると何でしょうか?
『¥マネーの虎』が深夜からゴールデンに移って、その空いた枠で『マスクマン!~異人たちとの夏~』という企画をやらせていただきました。ゲストの亡くなった奥さんや両親がCGやモーションキャプチャーを使ってアバターみたいな状態で蘇り、懐かしい出来事や伝えきれなかった想いを会話するという番組なんですが、これは大林宣彦監督の映画『異人たちとの夏』へのオマージュで、個人的には一番気に入ってる企画です。
――TVerで配信されている佐久間宣行さんと伊集院光さんの『神回だけ見せます!』で紹介されている番組ですよね。蛭子能収さんが、まるで本当に亡くなった奥さんと会話しているような光景がすごかったです。これはどのように発想されたのですか?
昔、『浅草橋ヤング洋品店』(テレビ東京)という番組で、「整形して美しくなった女性がモニターの中の整形前の自分と会話する」っていうネタを担当しまして、事前にセリフを収録しておいて「あなた、きれいになったわね」「あなたには苦労かけたわね」とか本人同士の会話劇が面白くて、『マスクマン!』でその仕組みを生かしました。
――亡くなった方のことについて相当調べて収録に臨んでいますよね。
入念なリサーチをして、想定台本を作って、裏の声の人に亡くなった方になりきってしゃべってもらいますが、無機質なアバターにだんだん魂が宿ってくるというか、蛭子さんの回では本当に夫婦の日常の会話に見えてきました。20年以上前の技術なので、アバターの動きが少しカクカクしてますけど、蛭子さんは生身の奥さんに話しかけるようで、すごく感情を揺さぶられる収録になりました。
――収録をしてみて、想像を超える展開が起きたという感じですか。
毎回ゲストの方がモニター相手の会話なのに感情があらわになるのが驚きでした。当時公表してませんでしたが、裏の声を務めてたのは浅草キッドさんとくりぃむしちゅーさん(当時・海砂利水魚)です。モニター越しの掛け合いでリアルな感情を引き出すには相当の話術がないと成立しないと思うので、最強の2組がそろったのが大きかったですね
――現在は技術も進化してアバターがもっとリアルになるでしょうし、『神回だけ見せます!』で2度も紹介されていますし、もう1回番組としてできないかと期待してしまいます。
僕もそう思って、番組終了してからも毎年タイトルを変えて企画を出し続けてるんですが、なかなか通らないんです。『¥マネーの虎』のように、海外に売り込んだときもあるんですが、宗教的な考えで、亡くなった方をそのように扱うのは冒涜だって、ものすごい怒られて(笑)
――「AI美空ひばり」的なものはNGなんですね。
そうなんです。「死者を蘇らせるなんてとんでもない」と言われまして。ただ、他界した人じゃなくても、このシステムを使って「現在と過去と未来」の本人がモーションキャプチャーで会話させることも可能なので、形を変えてまたどこかで復活させたいと思ってます。