• ダウンタウンの松本人志(左)と浜田雅功

――実際にダウンタウンさんと一緒にお仕事をされるようになって、いかがですか?

最初は松本さんと『IPPONグランプリ』でお仕事をすることになったんですけど、月並みですが、発想のすごさと、この人は答えを全部持ってるなと思いました。先ほどの「説明できる」という話にも近いと思うんですけど、聞いたら全部答えを持ってるんです。例えば『IPPON』の大喜利の会議で「なんでこっちのお題のほうがいいんですか?」って聞くと、「こっちはこうだから…」って明快に説明してくれる。

あとは、それなりに手だれの芸人さんだと、トークの中だったり収録の中だったりで“フリとオチ”を自分で作るんですけど、ダウンタウンさんの場合、 “緊張と緩和”も自分で作ってるんじゃないかなと思うんですよ。要は、ご本人たちがある程度“怖い人”というキャラクターを持っているのを自覚しているので、その緊張をスタートにして絶対どこかで緩和をさせたりするんです。『ワイドナショー』もそうだと思うんですけど、ずっと真面目な話をしてたらどこかで緩和がほしいってたぶん感覚的に思われていて、僕らがハッとするような突拍子もないことをポーンと言ったりするじゃないですか。こういうふうに、緊張と緩和を自分でコントロールする芸人さんって、稀有(けう)ですし、すごいなと思いますね。

――吉本問題で緊急生放送したときの松本さんは、特にそうでしたよね。浜田さんはいかがですか?

今年の7月に『ダウンタウンなう』を担当することになって初めてお会いして、めっちゃ緊張しましたし、怖そうだな…と思ったんですけど、めちゃめちゃ優しかったんですよ! 僕は見た目が年齢より若く見られるんですけど、最初の収録で浜田さんが僕の履いてるエアマックスを見て「お前、ええの履いてんな」と言われて、「浜田さんが昔『Boon』とかの雑誌で履いてるのを見て、大人になったら欲しいなと思って買ったんです」と答えたら、当時の話を移動中にしてくれたり。収録が終わった後に「あそこのOKかけるタイミング、ワンテンポ遅いで」ってアドバイスを頂いたり。

そんなやり取りがうれしかったのと、浜田さんは台本の中身を全然知らないはずなのに、こっちが聞いてほしいと思ってたことをポーンと聞いてくれるんですよね。それは、他の番組でたくさんMCをやられていて、「おまえら、これほしいんやろ?」っていうのをちゃんと分かってくださっている方なので、やっぱりすごい人なんだなって思いました。

――『ダウンタウンなう』は坂上忍さんが進行するので、あの番組での浜田さんの立ち位置って特殊ですよね。

だからこそ浜田さんの違った一面が見られる番組だと思いますし、『ダウンタウンなう』のお2人ってすごくチャーミングじゃないですか?(笑)。年下の僕が言うのはアレなんですけど、すごくチャーミングで素敵だなと思うんですよ。それに、お互いに対してのリスペクトがすごくあるんだろうなって思いますね。だから「ここで浜田に振ったらおもろいやろな」って松本さんが思うし、「ここは松本に任せたら絶対笑いになる」って浜田さんも思ってるだろうし、お互いのリスペクトがあるからこの2人は長年一線で活躍されているんだろうなって思いますね。

■どう転がるか分からない状態で本番突入

――先ほど、浜田さんは台本の中身を知らないとおっしゃっていましたが、『ダウンタウンなう』は演者さんと事前にどういう打ち合わせをするんですか?

せっかくお酒を飲んでトークする番組なので、予定調和になってはいけないなというのがスタッフの総意です。「この人はここを掘ったら面白いと思うので、こういうフリップを用意します」っていう流れを坂上さんとは打ち合わせをしますけど、ダウンタウンさんにはほとんど情報を入れずに収録をさせていただいてます。これは前任の総合演出の田村優介のやり方を踏襲しています。

――そうなると、本番はどう転がるか分からない状態で突入するんですね。

全く分からないですし、こっちが想定していたのと全然違う方向にいくことも多々あって、「そっちに行ったほうが面白くなるんだ!」ってこともよくありますね。

―――1組でどれくらい収録するんですか?

意外と少なくて、30分から40分くらいなんです。

――そうなんですか! あんまり長く回すと飲みつぶれちゃうおそれもあるからですか?

それもありますけど、ダウンタウンさん、特に浜田さんは、この時間でプロとして形にできなきゃダメだと考えているんだと思います。でも、本番前に「お前の中で今日はここ長めに回したいのある?」って聞かれることがあります。つまり、深く聞いてほしい話題は何かを尋ねられて、こっちが「ここは長く行きたいですね」って言ったら、「うん、分かった」って言って本番が始まるんです。

――カッコいいですね…。てっきり酔っ払って放送で使えない部分が出てくるから、長めに時間をとって収録しているのかと思ってました。

下ネタも結構飛び交いますけどね(笑)。22時という時間帯もありますし、ダウンタウンさんが出てるという部分で、見ている視聴者の方も下ネタをある程度許容してくれていると信じて、そのまま使ってしまうことが多いですけど。

  • 『ダウンタウンなう』(毎週金曜21:55~)
    ダウンタウンと坂上忍がゲストを迎えてお酒を飲みながらトークを繰り広げる「本音でハシゴ酒」。11月29日の放送には、布川敏和&つちやかおり元夫妻、ファーストサマーウイカが登場する。
    (写真左から)つちやかおり、松本人志、浜田雅功、布川敏和 (C)フジテレビ

■常に進化を考えるダウンタウン

――『ダウンタウンなう』も『IPPONグランプリ』も『すべらない話』も、今ご担当されている番組は全部途中からの参加ですよね。それにあたって、ご自身ならではの『めちゃイケ』のノウハウを盛り込むということはあるんですか?

ダウンタウンさんの番組はやっぱり熱烈なファンが多いじゃないですか。なので、極力自分の色を出さないようにしようって決めたんです。「演出の人間が代わったから俺たちが好きなやつじゃなくなった」って視聴者の方に思われるのがすごく嫌だなと思ったので、僕に代わったことが分からないように作りたいっていうのは、どの番組でも最初にスタッフに必ず言いました。「皆さんは僕よりも長くやっているので、皆さんが今まで作っていたテイストに僕がそのまま染まるようにします」って。

この前『情熱大陸』で洋食屋さんの回があって、その人が3代目くらいのご主人なんですけど、味を変えたらお客さんにすごく怒られたって話をしてて「分かるわ~」って思いましたよ(笑)。ただ、「味は変えちゃダメなんだけど、隠し味をこっそり変えるんだよ」とも言っていたのを見て、僕もやっていくうちに無意識に微妙に隠し味を変えちゃっているところはあるかもしれないと思いました。ただ、大幅に何かを変えるということは極力したくないなと思います。

でも、僕が『ダウンタウンなう』に入ったとき、浜田さんも松本さんも「新しいことしたいなあ」とおっしゃってくれたんですよ。あのキャリアでまだ新しいことしたいんだ!と驚いたんですけど、マンネリみたいなものをすごく嫌っているんだなと思って。それはすごくうれしかったので、「ちょっと新しい企画を何個か持ってきます!」ってお話はしました。それは『IPPONグランプリ』に入ったときもそうだったんです。大喜利のお題に対して、松本さんは「これ普通やな。新しいことやりたいなあ」って言ってるし、『すべらない話』に入ったときも「俺が会ったことないような新しいやつ連れてきてほしいな」っておっしゃるんですよね。だからお2人とも、常に進化というのを考えられているんだろうなと思って、カッコいいですよね。

――『すべらない話』で、ほとんどのメンバーが初参戦の回(19年1月12日放送)がありましたよね。

あれは僕が最初に演出になった回です。「ゲスト全員初登場でやってみたいです」って言ったら、「ええやん」っておっしゃってくれました。でも、そこから全国オーディションをやり始めて、東京、大阪、広島、福岡、沖縄と回ってめちゃくちゃ大変でしたけど(笑)

そんな中でアインシュタインの稲田(直樹)さんと出会って、絶対この人は面白いと思ってオーディション枠でなく一般枠で出てもらいました。1回しかサイコロが当たってないのにMVS(Most Valuable すべらない話)を獲って、やっぱすごいなと。今、稲田さんがいろんな番組に出てるのを見て、あらためて番組のパワーを感じましたね。

――前回(19年7月27日)は、吉本問題の真っ最中での放送でしたよね。

あのときの収録は芸人さんの楽屋にもちょっといつもと違う重苦しい空気がありました。あそこで、(千原)ジュニアさんが「『逃走中』のDVDを見たら、司令官が高知東生さんで、こっちでは清原(和博)さんが逃げて、ピエール瀧さんが逃げて、(カラテカの)入江が隠れてて、エラいもんで全員捕まってました」っていう話をしてくれたんですよ。こんだけ吉本問題で揺れている中で、ジュニアさんがあんな球を放ってくれたんだから、僕らも何か返さなきゃいけないと思って、編集上で最初に持ってこさせていただきましたし、新聞のラテ欄の縦読み(左列を縦に読むと“がンばれお笑い芸人”)もやらせてもらったんです。結果、同じ業界の人や芸人さん、視聴者の方からもとてもいい放送だったと言ってもらえてうれしかったですね。