テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第29回は、22日に放送された『ワイドナショー』(フジテレビ系、毎週日曜10:00~)をピックアップする。
同番組は、MC・東野幸治、コメンテーター・松本人志、週替わりゲストが旬のニュースを徹底討論するエッジの効いたワイドショー。松本の発言を中心に、「今最もネットニュースになりやすい番組」と言われてひさしい。
ただ、中居正広、小倉智昭、安藤優子、坂上忍らが出演していたころと比べると、ゲストの人選が保守的な印象もあるが、番組としての姿勢は変わっていないのか。裏番組の『サンデージャポン』(TBS系)とも比較しながら見ていきたい。
松本人志にかかる期待と負担がアップ
今回のゲストコメンテーターは、大橋未歩、石原良純、土屋礼央。やはりかつてと比べるとインパクトに欠けるだけに、松本にかかる期待と負担は必然的に大きくなる。
冒頭に「この番組は普段スクープされる側の芸能人が個人の見解を話しに集まるワイドショー番組です」という断りを入れているが、そんな“保険”は現在の視聴者に通用しない。失言が続けば、タレント個人を超えて番組も批判されるのは間違いなく、あらためてリスク覚悟の番組であることに気づかされる。
トップの話題は、「日本列島 連日の酷暑」。気象予報士・石原がキレながらもしっかり解説し、土屋が暑さ対策に「冷やし伊達メガネ」でひと笑いを起こす。その流れで話題は、「東京五輪が暑さ対策で一部競技の開始時間前倒し」へ。ワイドナ高校生・安田愛音の目線を入れ、公立小中学校の冷房設置率を紹介したが、その内容は平日のワイドショーとほとんど変わらないものだった。
次の話題は、「ZOZO前澤社長がプロ野球球団を持ちたい」。松本が「そうなると剛力スタジアム……誰が嫁の苗字つけるか!」「生まれ変わったら剛力彩芽になりたいわ。自分で何もせんでエエんやもん」と攻めのボケで笑わせた。
さらに、山崎夕貴アナの「(恋人が金持ちだと)相手のことを『すごいね、すごいね』って言い続けなければいけない感じも……」というコメントに松本は「スゲー闇を抱えてるな。違う意味でゾゾタウンだわ」とオチをつけた。
その後、選ばれた話題は「カジノ解禁を含むIR実施法案が成立」。さらに、主婦が採り上げてほしいニュースとして「U.S.A.ゲーム」「奥さんが同窓会に参加することは心配?」をピップアップして番組は終了した。
『サンジャポ』との決定的な違い
ハッキリ言うと、話題としては「ハズレ」の回だった。松本自身、それを分かっているからなのか。いつも以上に発言が多く、ボケを連発し、トークショーとして盛り上げることに徹していた。
しかし、これといった大きな笑いは一度も起こらず。後輩芸人のチョコレートプラネット・松尾駿が見せたIKKOのモノマネも、出演者全員で挑戦したU.S.A.ゲームも、グダグダかつ冗長。楽屋トークを思わせるゆるいムードだった。
ただ、「話題が『ハズレ』の週は、これくらいのゆるさがちょうどいい」という感もある。日曜午前は必ずしもドカンと派手な笑いはいらない時間帯であり、大きな話題がないのもワイドショーのリアルかつ平和の証だからだ。
個人的には、こんな回が好きだ。ボケを連発する松本を見て1990年代の姿を思い出すし、ベッキーや乙武洋匡らを登場させて『サンデージャポン』化したときよりも、ずっと『ワイドナショー』らしさを感じさせる。
これまで両番組は話題が「ハズレ」のとき、対照的な構成と演出で臨んできた。1つ1つの話題が小粒でも手数を増やさず、その分トークを重視する『ワイドナショー』と、話題の手数をとことん増やそうとする『サンデージャポン』。両番組のハッキリとした違いは、視聴者にとって好みに応じた健全な選択肢となりえている。
そもそも『ワイドナショー』は、「タレントのトーク力を生かす」というテレビ的な演出であり、そこに現代的な本音をフィーチャーした番組。一方、『サンデージャポン』は、「タレント間のお約束や下世話なトークを押し出す」という別の意味でテレビ的な演出であり、そこに現代的なライブ感とスピード感にフィーチャーした番組だ。
まさに、静と動。そのイメージは、松本人志と東野幸治、爆笑問題とテリー伊藤という番組のシンボルにそのまま合致する。
平日ワイドショーの「カウンター」に
『ワイドナショー』は金曜の夜に、フジテレビの社内で収録している。つまり、ニュースを扱う番組としては約1日半のタイムラグがあり、これまで何度か、その是非が語られてきた。しかし、日曜の番組放送中、ネットメディアは「我先に」と松本らのコメントをニュース化している。
このタイムラグとスピード感の矛盾が、テレビとネットメディアの不健全な関係性を如実に表しているのではないか。事情や意図があるにしてもタイムラグを作るテレビと、タイムラグがあるコメントなのに食いつくネットメディア。見る人や読む人がいる以上いいのかもしれないが、批判する人が少なくないのも確かだ。
『ワイドナショー』に関しては、松本もゲストも「収録のほうが伸び伸びとコメントできる」という意図があるのは間違いないだろう。実際、私はスタジオをのぞかせてもらったことがあるが、タレントたちが生放送ではない安心感やスタッフへの信頼感を持っている様子がうかがえた。そんなムードを作るスタッフの努力は、むしろ称えられてしかるべきかもしれない。
出演者とスタッフの努力は伝わってくるから、約1日半のタイムラグは「仕方がないかな」と思える。しかし、当初の目玉だった「ふだんワイドショーで取り上げられることはあっても、コメンテーターとして出演することのない有名人たちが出演する」「独自の感性で、他の番組では決して聞けないコメントを披露する」というコンセプトが損なわれかけているのは残念だ。
石原良純、古市憲寿、三浦瑠麗、立川志らくなど、平日のワイドショーにコメンテーターとして出演している有名人がゲストでいいのか? 彼らを呼ぶにしても、『ワイドナショー』ならではのコメントを引き出せているのか?
朝から夕方まで横並び放送されている平日のワイドショーは、「どれも変わり映えしない」という声が多数派を占めている。それだけに『ワイドナショー』は、平日のワイドショーに対するカウンター的な立ち位置で踏ん張ってほしい。
次の“贔屓”は…日本最長寿のクイズ番組『アタック25』
今週後半放送の番組からピックアップする"贔屓"は、29日に放送される『パネルクイズ アタック25』(ABCテレビ・テレビ朝日系13:25~)。昭和のクイズ番組ブームによって生まれて以来、放送が続いている唯一の番組であり、存在しているだけで価値が高い。
なぜ『アタック25』は生き残っているのか? 視聴者参加のメリットは何なのか? あらためて偉大なクイズ番組の魅力を考えていきたい。
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。