テレビ解説者の木村隆志が、今週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第25回は、20日(19:00~21:57)に放送された『壮絶人生ドキュメント・プロ野球選手の妻たち』(TBS系)をピックアップする。

同番組は、「過酷なプロ野球界で戦う夫を支える妻」にスポットをあてたドキュメンタリー。2011年から毎年この時期に放送され、年に一度の風物詩となっている。

今年は、「総年俸63億円、猛バッシングに耐えた元メジャーリーガーの妻」「元フジ女子アナ妻と一流選手の夫が娘の教育方針で対立」「“ヤワラちゃん”と結婚したプロ野球選手の夫は幸せだったのか」「別居をしながら夫の成功を支える身重の妻の献身愛」「超一流選手、3階建6LDKの豪邸公開」を放送。3時間たっぷり使ってさまざまな人生模様が描かれた。

「予想通り」を楽しむ女性誌的エンタメ

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TBS放送センター=東京・赤坂

当番組は、主に「長い期間を追う」のではなく、「過去をひも解きながら現在の姿を見せる」タイプのドキュメンタリー。妻への丹念な取材を通して、過去から現在に至る悲喜こもごもを映し出している。

視聴者にとっての魅力は、「自分よりかなり上の生活を送る妻」と「自分よりかなり下の生活を送る妻」の姿を見られること。たとえば、最初に紹介された松井稼頭央の妻は、都内有数の高級住宅地にある高級リゾートのような豪邸に住み、毎日17品前後もの料理を食卓に並べるというセレブだった。一方、増田大輝の妻は金銭的な理由で夫から500㎞離れた徳島県の実家に住み、節約のために1週間の料理を冷凍して送り届けていた。そんな貧富の落差こそが、ドキュメンタリーでありながら、ゴールデンタイムにふさわしいエンタメ性をもたらしている。

エンタメ性を高めるために欠かせないのは、リアルな金銭事情を伝えるシーン。その意味で、推定ながら年俸を明かされているプロ野球選手は、制作サイドにとって最高の出演者と言える。今回の放送でも、松井稼頭央が総年俸63億円、松中信彦が総年俸42億円、石井琢朗が最高年俸2億4000万円、増田大輝が240万円というように、テロップつきで容赦なくさらしていた。

見ていて気づかされるのは、「視聴者のほぼ予想通りのエピソード」が続くこと。「高年俸のお金持ちはきっとこうだろう」「低年俸の無名選手はそうかな」という意外性のない展開が続いていく。しかし、これは決して悪い意味ではなく、「他人の家庭をチラッとのぞき見して楽しむ」女性週刊誌のような気軽さが魅力となっている。

当番組がプロ野球をモチーフにしながらも、そんな「ほぼ予想通りのエピソード」「他人の家庭をのぞき見して楽しむ」ことを好む主婦層を狙っているのは明らかだ。

実際、番組最後のナレーションでは、「プロ野球という夢の世界は選手だけが主役ではありません。大成功を収めた一流スター選手も、大成功を夢見る未来のスター候補生も、支えてくれる奥様があってこそ。彼女たちこそ感動ドラマを紡ぎ続けるもう一人の主人公なのです」と、誰に向けた番組なのかがストレートに語られている。

また、TBSが放送する当番組や『ドラフト緊急生特番! お母さんありがとう』が19時スタートであるのに対して、『プロ野球戦力外通告』は概ね夜深い時間帯の22時スタート。前者が主婦層向け、後者が男性層向けである様子が伝わってくる。

『GET SPORTS』との決定的な違い

しかし、当番組のような家族にクローズアップしたスポーツドキュメンタリーを定期放送しているのはTBSだけ。しかも当番組に限らず、その志は長年に渡って貫かれている。

1999年から2004年まで放送された『ZONE』と、その魂を引き継ぐように2005年から現在まで放送されている『バース・デイ』。毎年年末に放送される『プロ野球戦力外通告』、毎年秋に放送される『ドラフト緊急生特番! お母さんありがとう』、そして毎年初夏に放送されている当作。

すべての番組は、ほぼ同じコンセプトのもとに制作され、ほぼ同じトーンで放送されている。つまり、各番組の枠を越えて、“TBSのスポーツドキュメンタリー”そのものがブランド化しているのだ。

もともとTBSは、レギュラー放送されている『炎の体育会TV』に加えて、特番の『スポーツ男子頂上決戦』『SASUKE』『KUNOICHI』『KYOKUGEN』など、スポーツニュース以外の関連番組が他局より多い。視聴者から「スポーツを語るにふさわしいテレビ局」という一定以上の信頼を得ているのではないか。

私自身、これらの番組を手掛けるTBSのスタッフたちと何度か会話を交わしたことがある。彼らの取材姿勢は前向きかつキメ細やかであり、どんな競技のどんな選手に対してもリスペクトの心を持っているようだった。「無名選手だからこそ」「マイナー競技だからこそ」のドラマティックでハートフルな物語があることを知っているのだ。

ただ今回の放送は、松井稼頭央・美緒夫妻、石井琢朗・詩織夫妻、谷佳知・亮子夫妻、増田大輝・優香夫妻、松中信彦・恵子夫妻……5組中4組が「かなりのお金持ち夫婦」であり、内容に偏りが見られた。ネームバリューと華やかさがあった反面、例年よりドラマ性は欠けていたのではないか。

競技性に特化したストイックな『GET SPORTS』(テレビ朝日)もいいが、TBSが手がける間口が広く、エンタメ性の高いスポーツドキュメンタリーも素晴らしい。それだけに、来年はこれ以上「お金持ちの豪邸拝見」企画にならないことを祈っている。

来週の“贔屓”は…その目的は芸人発掘か? ゲストの深掘りか? 『ウチのガヤがすみません!』

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『ウチのガヤがすみません!』26日の放送より (C)NTV

来週の放送からピックアップする“贔屓”の番組は、26日(24:09~)に放送される『ウチのガヤがすみません!』 (日本テレビ系 通常放送は毎週火曜23:59~)。同番組は、ヒロミと後藤輝基のMCコンビと50名強のガヤ芸人が、週替わりのゲストをもてなすトークバラエティ。芸から食、歌まで、多彩なネタで、さまざまな角度から笑いを生み出している。

今回のゲストは、白石麻衣ら乃木坂46。ガヤ側にもメンバーを送り込むなど、波乱含みの展開が予想される。放送1年を超えた今でも、「この番組でしか見られない」超無名芸人をキャスティングし続けているのか? 内容に変化はあるのか? 独特なスタジオのムードも含め、探っていきたい。

■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。