テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第161回は、20日に放送されたテレビ東京系バラエティ番組『そろそろ にちようチャップリン』(毎週土曜23:55~)をピックアップする。
2015年6月に特番としてスタートしたネタ番組『チャップリン』シリーズも5年8か月が経過。現在の形になってからも2年あまりがすぎ、お笑いフリークの間にすっかり浸透したと言っていいだろう。
ただ、民放各局は昨年からコロナ禍と視聴率調査の変更でネタ番組を急増させているだけに、厳しい時期に笑いの火を灯し続けてきたこの番組の現在地点をチェックしておきたい。
■「使いものにならない芸人が集う」SMA
ハリセンボン・近藤春菜による「次世代ブームはオーバー40!? おじさんの時代2021」というテーマタイトルコールで番組スタート。春菜が「第7世代の次はおじさんの時代です。いろんなおじさんを堪能していただければ」と企画主旨を切り出すと、内村光良が「ブーム来たらウチ(の番組)発でいいんだよね」と返して笑いを誘った。ただ、決して視聴人数が多いとは言えない番組だけに「ブームを作る」というより、「ネタ番組を支え、ブームの火種を作る」という感がある。
続いてナレーションとテロップで「平均年齢44.4歳 イケおじ芸人大集合!」と紹介。昨年末の『M-1グランプリ2020』(ABCテレビ・テレビ朝日系)で4位になった錦鯉が、所属事務所のSMA(Sony Music Artists)からイチオシのおじさん芸人を選ぶという。
まずは、錦鯉・長谷川雅紀が「われわれの事務所・SMAはいろんな事務所でクビになったり使いものにならなくて辞めた人間が最後の駆け込み寺で集まってくる事務所なんです」と自虐。しかし、すかさず「2004年に芸人マネジメントがスタート。どの事務所にも属さない個性派芸人が集まった」というフォローのテロップが表示された。さすが25分間の短い番組だけにテンポと情報量にスキがない。
さらに、相方の渡辺隆が「でもチャンピオン3人出してますからね」と『R-1ぐらんぷり2016』(カンテレ・フジテレビ系)王者のハリウッドザコシショウ、『R-1ぐらんぷり2017』王者のアキラ100%、『キングオブコント2012』(TBS系)王者のバイきんぐを紹介してフォローをかぶせた……と思ったら、「基本的にハゲと裸しか売れてない」と自虐をかぶせて笑いを取りにいった。こんな鉄板のトークネタを持っているのも、おじさん芸人の強みか。
■「ソニーvs浅井企画」実現なるか
トップバッターは錦鯉(長谷川49歳、渡辺42歳)で、ネタは「深夜の通販番組」。今回のメンバーで最もメジャーなコンビのためか、ネタ後のスタジオトークは長く、長谷川がおバカトークをたっぷり披露した。
2番手は今年の『ぐるナイ』(日本テレビ系)「おもしろ荘」に史上最高年齢で出演した野田ちゃん(45歳)。「男、野田ちゃん45歳!」というネタを見たアンガールズ・田中卓志は「ここまで体重の乗った自虐は初めてでした」と、さすがのコメント力を見せる。さらに内村が「(同じ自虐系の)“明るいヒロシ”なんだよね」とイジり、野田ちゃんが「野田ちゃんです!」と返してオチをつけた。
3番手はこの日最年少のモダンタイムス(としみつ42歳、川崎誠42歳)で、ネタは「じじい、ばばあをチャリに乗せる」。ハリセンボン・箕輪はるかが「まさかの恋愛コントでビックリしてしまいました。若い子がやりそうな設定なんですけど、お2人がやるとキュンとしました」と称えると、内村も「20年後のかが屋みたい」と再び他の芸人にたとえて笑いを誘った。一方、モダンタイムス自身も「嫌がる」という野田ちゃんと同じパターンを避け、全力で喜ぶ姿を見せたところはベテランらしい。
4番手はロビンフット(おぐ44歳、マー坊45歳)で、ネタは「ファミレス」。ところがネタを受けるスタジオトークがカットされてしまうなど、淡泊に終わってしまった。「せっかくのチャンスに1組だけ“出じろ”が減らされてしまう」というシビアさに2人は落ち込んだのではないか。
トリを飾ったのはハリウッドザコシショウで、ネタは「ものまね大連発」(年齢の表記はなかったが、ホームページで47歳と公表)。ネタ後のスタジオトークでは、はるかの「本当に言葉はいらないですよね。『ただ笑って見てたい』っていう」という絶賛に、ザコシショウが「ええやん。ええこと言うやん」と上から目線で返して笑わせ、さらに田中の「(誇張しすぎた)五木ひろし、もう1回見たい」というコメントでCMへ入った。
CM明けのエンディングでは、ザコシショウがおかわりのネタを披露したあと、内村が「オレ今日何見たんだろう……」と苦笑いしながらも、「もう1回“ソニー大会”やろうよ。もしくは事務所対抗ネタ合戦」と提案すると、スタジオに「おお~!」という大拍手が響き渡る。内村は「1回戦はソニーvs浅井企画」とシュールな対戦を提案してオチをつけたが、この番組と内村光良なら本当に実現させそうな期待感がある。
■おじさんの自虐に見る哀愁と明るさ
この日の放送を振り返ると、漫才、漫談、コント、コント、モノマネ漫談とバランスのいいネタ構成だった一方で、共通していたのは哀愁と明るさを感じさせる自虐。誰も傷つけないタイプの笑いは、コロナ禍に苦しみ、癒やしを求める今の時代にピッタリではなかったか。その意味で、年齢は遠いが、「誰も傷つけない」という笑いのタイプが近い第7世代とおじさんを対比させる企画もアリかもしれない。
ともあれ、全体を見渡して徹底されていると感じたのは、ネタを披露する芸人への優しさ。それは内村光良が後輩芸人たちを見守る優しさのようにも見えるが、何より素晴らしかったのは、劇場公演のようにCMをはさまずノンストップで全ネタを見せたこと。
また、登場時に春菜が読み上げる紹介コメントも、温かみを感じさせるフレーズが並んだ。「中年の星としてM-1決勝で大健闘。本当におつかれさまでした。売れてもチャップリン出てくださいね、錦鯉」「スーパーポジティブなおじさん芸人。芸歴の長さはあきらめないという才能の証拠です、野田ちゃん」「第7世代には出せないであろう哀愁と奥深さを感じてください、モダンタイムス」「ソニーミュージック、おじさん芸人のリーダー。彼の生きざま、魂のこもったネタ、とくとご覧あれ、ハリウッドザコシショウ」、(ロビンフットのみ春菜ではなくナレーションで「『キングオブコント2018』ファイナリスト。クセ者ぞろいの事務所の中でキラリと光る実力派、ロビンフット」と紹介)。
ネタ中にはさまれる内村、田中、スピードワゴン・井戸田潤、はるかのリアクションも笑い顔のみ。スタジオセットや出囃子も含めて、随所に芸人へのリスペクトを感じさせたが、それはお笑いフリークたちへの優しさとも言えるかもしれない。
先輩や売れっ子が悪い意味でパワーを見せたり、手柄を取ろうとしたりというシーンは皆無。どんなにネタ番組が増えても、この優しさが芸人とお笑いフリークに伝わっている限り信頼は揺らがないだろう。ただ、「この芸人に優しい世界観がゴールデン・プライム帯では成立しないのか?」と、あらためて考えてしまった。
次回のテーマは「ピン芸人大集合SP!」という『R-1グランプリ』に引っかけた企画だが、昨年放送された「タイムマシーン3号厳選! 華はさておき、おもしろ芸人大集合SP」「チョコレートプラネットpresents欲しいものは作っちゃえ! 小道具DIY芸人」などのシュール系も得意であり、今春以降ネタ番組が増えても差別化の点で不安はない。
■次の“贔屓”は…旬の女優・森七菜をどう掘り下げる? 『おしゃれイズム』
今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、28日に放送される日本テレビ系トーク番組『おしゃれイズム』(毎週日曜22:00~)。
2005年4月のスタートからまもなく16年になるが、さらに日曜22時台のトーク番組としては、前番組の『おしゃれカンケイ』、前々番組の『オシャレ30・30』と併せて34年超の歴史を持つ。世代を問わず日曜夜の定番となっているが、現在プライム帯で希少なトーク番組であり、しかも30分番組であるなど、特筆すべきポイントは少なくない。
次回のゲストは森七菜。昨秋の主演ドラマに続いて主演映画が公開されるなど旬の女優をどう掘り下げていくのか。スタッフの腕が試され、番組の現在地点を探る意味では格好の機会となりそうだ。