テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第151回は、4日に放送されたフジテレビ系バラエティ特番『ものまね王座決定戦 年に一度の鉄板ネタガチンコバトルスペシャル』をピックアップする。

中断期間こそあるものの48年の歴史を持つフジテレビきってのバラエティ特番であり、近年は年末の風物詩となっている年に一度の真剣勝負。今回も28組が「負けたら終わり」のガチンコトーナメントに挑むという。

その顔ぶれは「ものまね四天王」の栗田貫一から、昨年王者・ダブルネームをはじめ、ミラクルひかる、ビューティーこくぶ、布施辰徳、エハラマサヒロ、ノブ&フッキーら常連、さらにYouTuber、ボーカルグループ、現役サラリーマンまで、多彩なメンバーが集結。ライバル番組である日本テレビの『ものまねグランプリ~ザ・トーナメント~』との比較も含め、掘り下げていきたい。

  • 今田耕司(左)と東野幸治

■「エール」「裸の心」でつかみはOK

オープニングでは、注目の出演者を紹介。まずは“ものまね新世代”として「前回ファイナリストの漸波・YOMA」「話題のYouTuber 虹色侍・ずま」「下克上を目指す杉野ひろしと小川美佳」「ボーカルグループaoiro・松浦航大」をピックアップ。

さらに、彼らを迎え撃つメンバーとして、「ものまね四天王・栗田貫一」「ものまね帝王・布施辰徳」「ものまね女王・ミラクルひかる」「前回王者・ダブルネーム」「ダークホースで田原俊彦の娘・田原可南子」「大人気コンビ・ANZEN漫才」が紹介された。正直なところ、よほど熱心なファンでなければ、「あんた誰やねん」な人が多く、パフォーマンスで覆すことができるか。

CMを挟んで登場したMCは、今田耕司、東野幸治の“Wコウジ”に加えて、西山喜久恵アナ、山崎夕貴アナという安定感あふれる顔ぶれ。パフォーマンス前後のトークパートをたっぷり取った番組だから、鉄板の芸人コンビとベテラン・中堅アナが選ばれているのだろうか。

28組の出場者を7ブロックに分けた上で1対1のトーナメントを行っていくのだが、最初の対戦は、前回王者・ダブルネームと鈴木麻由。しかも、ダブルネームは朝ドラ『エール』(NHK)の主題歌でGReeeeN「星影のエール」、鈴木はあいみょん「裸の心」と今年屈指のヒット曲を仕掛けてきた。4時間特番のスタートとしては申し分ないつかみの選曲と言えよう。

結局、1点差でダブルネームが勝ったのだが、2組が歌い終えた時点で画面右上に「NEXT CHAGE and ASKA vs さだまさし 中森明菜 vs ぴんから兄弟」の文字が表示されていた。今年のヒット曲から懐メロに一変する落差に戸惑うが、このようなごった煮ムードこそが『ものまね王座決定戦』の真骨頂だ。

■年齢と性別、新旧と緩急。計算された出順

2組目の対戦は、藤本匠のCHAGE and ASKA「LOVE SONG」vs栗田貫一のさだまさし「道化師のソネット」で栗田の勝ち。3組目は……と思ったら突然ミニコーナーの「ものまね王座決定戦 名場面!プレイバック」が始まり、五木ひろしがぴんから兄弟のモノマネをする1979年4月の放送が流された。

しかし、名場面は1組のみで終わり、すぐにトーナメントへ。以下、1回戦の対戦と演目をざっと挙げていこう。

みはるの中森明菜「ミ・アモーレ」vs ノブ&フッキ―のぴんから兄弟「女のみち」〇
暁月めぐみの小林幸子「雪椿」vs 布施辰徳の玉置浩二「ワインレッドの心」〇
春風みずほのtrf「BOY MEETS GIRL」vs ビューティーこくぶの稲垣潤一「クリスマスキャロルの頃には」〇
山本高広の浜田雅功「チキンライス」vs ななみななのDREAMS COME TRUE「YES AND NO」〇
〇杉野ひろしの星野源「恋」vs エハラマサヒロの影山ヒロノブ「WE GOTTA POWER」
NASUMIのB’z「LOVE PHANTOM」vs たぐちゆうきの大黒摩季「熱くなれ」〇
SOLIDEMO・シュネルのKing Gnu「白日」vs 虹色侍・ずまのONE OK ROCK「Wasted Night」〇
ほいけんたの郷ひろみ「哀愁のカサブランカ」vs 漸波・YOMAのDISH//「猫」〇
IchiのOfficial髭男dism「Laughter」vs 小川美佳の篠原涼子「もっともっと…」〇
フラチナリズム・モリナオフミのエレファントカシマシ「俺たちの明日」vs aoiro・松浦航大の米津玄師「馬と鹿」〇
田原可南子のWhiteberry「夏祭り」vs ANZEN漫才の藤井フミヤ「TRUE LOVE」〇
おばたのお兄さんの中孝介「花」vs ミラクルひかるの渡辺真知子「迷い道」〇

続く勝者14組による準決勝は、下記の通り。

ダブルネームの中条きよし「うそ」vs 栗田貫一の森進一「女のためいき」〇
ノブ&フッキーの内田裕也と安岡力也「ジョニー・B・グッド」vs 布施辰徳の五木ひろし「山河」〇
ビューティーこくぶの氷川きよし「限界突破×サバイバー」vs ななみななの中森明菜「十戒」〇
杉野ひろしの桐谷健太「海の声」vs たぐちゆうきのSuperfly「Beautiful」〇
虹色侍・ずまのEd Sheeran「Shape of You」vs 漸波・YOMAの雅夢「愛はかげろう」〇
小川美佳のglobe「FACE」vs aoiro・松浦航大のコブクロ「未来」〇
ANZEN漫才のBOOWY「ONLY YOU」vs ミラクルひかるの広瀬香美「promise」〇

出演者も演目も、年齢層と性別、新旧と緩急のバランスがよく、偏らないように計算ずくで出順が決められている様子が伝わってくる。

■ミニコーナーの笑いよりガチを優先

決勝は勝ち残った7組が「ここまでの点数下位から順にパフォーマンスし、1組ずつ得点が表示されていく」という形式。

ななみななのPRINCESS PRINCESS「M」が961点、栗田貫一の井上陽水「いっそセレナーデ」が970点、布施辰徳の福山雅治「Squall」が977点、たぐちゆうきのLiSA「紅蓮華」が971点、漸波・YOMAのback number「オールドファッション」が977点、ミラクルひかるの笠置シヅ子「買い物ブギー」が974点、aoiro・松浦航大の平井堅「ノンフィクション」が982点で、松浦が初出場初優勝を果たし、賞金100万円を獲得した。

結局ネタ数としては、1回戦が28、準決勝が14、決勝が7で計49ものモノマネが披露されたが、驚くべきは、曲はもちろんアーティストのかぶりもゼロであること。このあたりは出場者にとって「あのアーティストは誰がモノマネするのか」という分担の難しさがあるとともに、「1つ1つのモノマネを大切に扱っている」という姿勢が見える。「モノマネのかぶりなんて当たり前で気にしない」というスタンスの『ものまねグランプリ~ザ・トーナメント~』とは対照的だ。

さらに、それ以上の差別化は「笑いではなく歌とステージングにこだわっている」こと。モノマネをしながらビジュアルで笑わせにいっているのはミラクルひかるだけであり、ほとんどの出場者が歌マネ一本で勝負していた。また、それをサポートするべく、衣装とヘアメイク、バックの映像、ライティング、ダンサーなどのステージングに関する演出も充実。審査員のコメントも声が似ているだけでなく、歌唱力を加味するようなものが目立った。

かつては旬の芸人を呼んだコント仕立てのモノマネも多かったが、今や完全に消滅。今年のヒット曲を振り返り、懐メロを楽しむ音楽特番のようなラインナップで、シチュエーションコントでのモノマネが多い『ものまねグランプリ』とは真逆のスタンスだ。一般的に無名の出場者が多いのは、歌マネと歌唱力重視の人選によるところが大きく、その意味では笑いどころこそ少ないものの、正統派のモノマネ番組と言える。

そのため対戦以外のミニコーナーは、48年間に渡るアーカイブを生かした「ものまね王座決定戦 名場面!プレイバック」のみ。『ものまねグランプリ』のような一般人を集めた“顔だけモノマネ”の「トルネードそっくりSHOW!」、“瞬発系モノマネ”の「ものまねショートSHOW!」などのコーナーを挟まないのは、ガチバトルのムードを損ねないためだろうか。

■審査員の顔ぶれと採点に見えるゆるさ

その他にもガチバトルのムードを高める演出を散りばめた一方、唯一バラエティらしいゆるさを感じさせたのが、審査員の顔ぶれと採点。

堺正章(74歳)、小倉智昭(73歳)、片岡鶴太郎(65歳)、アンミカ(48歳)、相川七瀬(45歳)、青木源太(37歳)、鈴木ちなみ(31歳)、森崎ウィン(30歳)、足立梨花(28歳)、大友花恋(21歳)の10人で、男女各5人、40歳以上と以下が各5人とバランスは取れているものの、音楽に詳しそうな人は半数以下に留まっている。

しかし、大友花恋や足立梨花ら若手が知るはずのない懐メロに高得点をつける一方(彼女たちが低い得点をつけることはポジション上難しい)、高齢の審査員が最近のヒット曲にあまり高得点をつけないなど、審査に対する疑問の声はもう何年も前から挙がっていた。実際、「最新曲にチャレンジする人より、得意の懐メロで勝負する人のほうが勝ち上がりやすい」という傾向が中高年層以外の視聴者にストレスを与えている。

また、大御所の堺正章や小倉智昭の意見に若手が流されざるを得ないようなムードを感じるシーンがいくつかあり、ネット上にはそれを批判する声が少なくない。それら批判の声に対応するためには、「100点満点ではなく勝ち負けの判断のみにする」「審査員コメントの前に採点する」などと透明性を高めたほうが現在の視聴者感情に合うのではないか。

視聴率は4時間もの長尺であるにもかかわらず、個人6.3%、世帯10.4%と、なかなかの好結果を獲得(ビデオリサーチ調べ・関東地区)。これぞ48年の伝統であり、歌コンテンツの普遍性であり、モノマネの底力と言えるかもしれない。ともあれ、歌マネなら『ものまね王座決定戦』、コント仕立てのモノマネなら『ものまねグランプリ』と、明確にすみ分けできているため、少なくとも今後しばらくの間は安泰だろう。

■次の“贔屓”は…コロナ禍での12月移動でどんな変化が!?『高校生クイズ』

『第40回全国高等学校クイズ選手権』総合司会の桝太一アナウンサー (C)NTV

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、11日に放送される日本テレビ系特番『第40回全国高等学校クイズ選手権』(21:00~23:24)。

1983年から40回目を数える日テレきっての歴史を持つ特番だが、今年はコロナ禍の影響をモロに受けてしまった。放送日は例年の9月から12月に変わり、決勝まですべての戦いがリモートで開催されたという。

果たして、この形でも盛り上がったのか。今年は伊沢拓司が『東大王』(TBS系)の枠を超えてブレイクしたほか、「QuizKnock」の人気も勢いを増すなど、クイズを取り巻く環境が好転しているだけに、各局のテレビマンたちにとっても注目の放送となるだろう。