テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第112回は、6日に放送されたテレビ朝日系バラエティ番組『爆笑問題のシンパイ賞!!』(毎週金曜24:50~)をピックアップする。
「視聴者投稿を中心に、ちょっと心配なヒトやモノを掘り下げる」というコンセプトと同様に目を引くのは、爆笑問題チームvs霜降り明星チームという世代闘争の図式。前者はX-GUN、プリンプリン、三又又三、後者は宮下草薙、EXIT、かが屋らが週替わりでロケに挑んで番組を盛り上げている。たたずまいやテンション、ボケ方の違いだけでも笑えそうで楽しみだ。
■オープニングトークはたっぷりの下ネタ
オープニングは進行役の新井恵理那を含めた5人のトークから。新井恵理那の「霜降り明星さんと言えば、最近心配なのは面白いことを言わなくなって、どんどん俳優さんになっちゃうんじゃないかって」という振りを受けた粗品は「刑事役で『お前がやったんだろ!』というセリフのとき、ツッコミと同じ手の動きになってしまった」と笑わせた。
ここで、太田光が「“ホーケイデカ”とかやってほしいよね」と悪ノリをはじめると、せいやが「また取り調べのびてんのかよ。あいつホーケイデカなんすよね」と呼応。粗品の「皮のびへん!」というツッコミを誘った。太田が「(アソコのあまった)皮でぜんぶ証拠とか(持つんだろ?)」と続けると、粗品が「(アソコの皮じゃなくて)白いハンカチで持つねん!」とツッコミを入れる。さらに田中が立ち上がって「(身振りを入れながら)鑑識にまわしてくれ」とボケるなど、全員で下ネタを広げまくって盛り上げ、本編に入らずCMへ。
深夜らしいネタだが、今どきここまで長尺のオープニングトークを入れる番組は少ない。やはり「4人の新鮮な絡みを見せたい」という番組なのだろう。ちなみに画面右上には、「トークが止まらないけどロケVTRあり」というテロップが表示されていた。
まずは、霜降り明星チームの「マニアックすぎる雑誌の出版社 経営が成り立っているのかシンパイ」で、ロケ担当は四千頭身。すかさず相手チームの太田が「雑誌の出版社なんかどこも心配だよな」、田中も「メジャーどころの雑誌が廃刊とかニュースでよく見るしね」と、企画の正当性を裏づける、さすがの合いの手を入れた。
雑誌は創刊38年の「月刊愛石」で、石を求める旅や石好きの女性を紹介するなど、石のみをフィーチャー。書店に置けず定期購読の1,000部のみで、71歳の立畑編集長1人で社員はいない。飲み屋で知り合った先代編集長から誘われて跡を継いでから、14年も雑誌を守り続けているという。
「石の愛好家は高齢で毎月減っていて新規は増えない」という悩みを聞いた四千頭身は、読者獲得作戦をスタート。冷やした石の上でアイスクリームを作る『コールドストーン・クリーマリー』でPRし、断り続けられながらも、何とか若者に3部売ることができた。
その後、池袋の書店へ飛び込み依頼して見事OKをもらい、調査結果「愛石4月号(3/10発売)にシンパイ賞の記事も載るので池袋・東京天狼院書店で手に取ってみては!」のテロップが表示されて終了。雑誌や石のことも、読者獲得への奮闘も、もう少し見たかったが、深掘りしたら前番組の『タモリ倶楽部』と似たものになってしまう。それに“ディープなネタをあえて浅堀り”という構成は、頭を休めたい金曜深夜にちょうどいいのかもしれない。
■一番シンパイなのはボキャブラ芸人
次は爆笑問題チームの「終電を乗り過ごしてめちゃくちゃ遠い駅に来ちゃった人がシンパイ」で、ロケ担当はBOOMER。昨年11月の放送で中央線高尾駅を放送したところ視聴者から「もっとシャレにならない駅がある」という問い合わせが集まったという。
BOOMERの2人が向かったのは、埼玉県久喜市の南栗橋駅。半蔵門線から乗り換えなしで連結した東武日光線の終着駅だが、22時で無人かつ真っ暗になるほか、周辺施設はコンビニと、徒歩20分のラウンドワン程度しかない“静寂地獄”らしい。つまり、「渋谷や表参道で遊んでいた人が寝過ごて下車する最悪の駅」なのだろう。
23時18分に上り電車が終了して、南栗橋から出られない時間帯に突入。さっそく駅前にたたずむ“第1寝過ごし者”に声をかけると、渋谷から乗車して北越谷から11駅乗り越したが、「よくやっちゃう」「ラウンドワンのカラオケルームで朝まで過ごす」という。次の“第2寝過ごし者”は、日暮里から乗車して春日部から6駅乗り越したが、「奥さんが迎えに来てくれる」という勝ち組男だった。
“第3寝過ごし者”は、酔ってフラフラの外国人男性・ギンス。「イマドコデスカ? ゼンゼンワカラナイデス」と言うが、渋谷から川崎へ行くはずが逆向きの電車に乗ってしまったようで、ヤケクソなのか放送禁止用語を連発している。
深夜26時、河田キイチは番組主旨が変わることを承知で、「置いて帰るのはかわいそう(だから一緒に帰れたらと思う)。どうにかしてもらえないですかね」と優しげな顔でスタッフに懇願し、車で川崎へ送って行くことに。しかし、出発からわずか3分で3人とも寝てしまい、「優しさではなく、単に帰りたかっただけ」というオチをつけた。最後の調査結果は、「南栗橋駅まで寝過ごすとヤバイとわかった。他にもヤバイ駅があったらぜひ投稿を」。
スタジオに戻ると新井が「BOOMERのボケが0だった」ことを明かし、太田が「伊勢(浩二)はひと言もしゃべってねえ」と畳みかける。こんな年季の入ったポンコツぶりに、この日一番の笑いを誘われてしまった。
当番組最大の笑いどころは、「今はまったく売れていないボキャブラ芸人が一番シンパイ」というシュールなのかもしれない。この日、BOOMERが25年前の芸名入りジャンパーを着て笑わせていたように、30代以上の人は彼らの姿だけでニヤニヤしてしまうのではないか。
■楽しげな爆笑問題と堂々の霜降り明星
最後に、「どちらがよりシンパイか?」を5人の投票で決める“本日のシンパイ賞”を発表。今回は全員一致で爆笑問題チームだったが、その基準が何なのか、まったく分からなかった。また、どちらがウケたかを競うムードをかすかに感じられたが、「世代闘争の図式はほとんどない」と言っていいだろう。実際ロケに挑んだ芸人たちも、対決の意識を感じさせるコメントはなく、“におわせ”に終わった。
あらためて番組を見てみると、“爆笑問題×霜降り明星のタッグバラエティ”というコンセプトは魅力的だ。爆笑問題は終始楽しげで若さや勢いをもらっているような姿を見せ、霜降り明星はそんな2人をサラッといなしたり、強めのツッコミを入れたり、大先輩を相手にしても臆するところなく笑いを取っていった。
つまり「対等のタッグ」で十分魅力を発揮できるだけに、「第7世代vsベテランが激突」というテロップが表示されたとたん、よくあるチープな番組に見えてしまった。これは四千頭身やBOOMERも同じで、世代闘争の図式より、彼らを対等に並べたほうがシンプルに笑えるだろう。それにしても、世代闘争を見せるシーンはないのに、なぜこういう演出をしてしまうのだろうか。
当番組に限らずバラエティの制作陣は、世代闘争という図式にとらわれすぎているのかもしれない。もし制作陣が「芸人たちの魅力や笑いを引き出すためには世代闘争がベター」と考えているとしたら、彼らのスキルを信頼していないように見えてしまう。その点、当番組は「新旧の芸人たちをどう使い、どう笑いを取っていくか?」はブラッシュアップの余地がありそうだ。
当番組は、「全然客が止まらない路上ミュージシャンのメンタルがシンパイ」「スマホの画面がバキバキの女の子 私生活も乱れてそうでシンパイ」「滝行に来る人 相当嫌なことがあったんじゃないかシンパイ」「田舎のホストクラブの経営がシンパイ」「全く売れていないものまね芸人がシンパイ」「冬の怪談師がシンパイ」など、企画名だけで期待できそうなものも多い。
それだけに、芸人たちの魅力や笑いを引き出すことさえできれば、「ネオバラエティ第1部」(月~木曜の23時15分~)、あるいはゴールデンタイム昇格のポテンシャルを秘めているのではないか。
■次の“贔屓”は…一豪華芸人の“ベストワン”が見られる3時間『ザ・ベストワン』
今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、15日に放送されるTBS系バラエティ特番『ザ・ベストワン』(18:00~20:54)。
「今一番見たいベストな芸人が“ベストワン”なネタを披露する」という、ありそうでなかったスタイルのネタ特番。ミルクボーイの「オカンが思い出せなかったネタベストワン」、ハナコの「ハナコの原型を作ったネタベストワン」、博多華丸・大吉の「20代のころ頼りにしていたネタベストワン」、ロバートの「秋山のキャラが気持ち悪いネタベストワン」など、お笑い好きなら興味を引かれるものが目白押し。さらに、フレッシュな13組の若手芸人が1分ネタを披露するコーナーもあるという。
2月24日に日本テレビが『NETA FESTIVAL JAPAN』を放送し、3月28日には『ENGEIグランドスラム』(フジテレビ系)、4月1日にも『DREAM MATCH2020』(TBS系)が6年ぶりに復活するなど、ネタ特番をめぐる動きが活性化しているだけに、現在のトレンドと今後の可能性をチェックしていきたい。