2010年6月末、京浜急行電鉄の電車「1000形」が引退した。高度成長時代に誕生して356両が製造され、50年間にわたり活躍した電車だ。ところで、このニュースを耳にしたとき、「どうして1000"系"ではなく、1000"形"と呼ばれるのだろう」と疑問に思った人も多いのではないか。JRや私鉄の多くの電車は「○○系」と呼ぶ。しかし、京急電鉄や小田急電鉄では「○○形」と呼ぶ。さて、この違いは何だろう。
「形」と「系」は、鉄道に興味を持ち始めたときに誰もが感じる疑問の1つ。鉄道ファンの多くは、疑問には感じつつ「みんなが呼んでいる方法に合わせよう」と、習慣として使いこなしていく。機関車や貨車は「形」、電車は「系」。ただし、京急電鉄・小田急電鉄・京成電鉄・西日本鉄道は電車でも「形」である。
はじめはすべて「形」だった
実は、鉄道車両の呼び方は当初、すべて「形」だった。「系」が登場するのは、日本に鉄道が走り始めてからずっと後のことである。それを象徴する写真が、東急電車とバスの博物館(神奈川・川崎市)のアプローチ通路にある。ここは、入り口から奥へ向かって、東急の代表的な電車やバスの写真を展示している。そこでは、東急の創業当初の車両は「形」と呼ばれていた。しかし、1954年に登場した「5000系」から「系」に変わっている。
その違いを見てみると、車両の構造が変わっていると気づく。「形」の付く電車は両側に運転台があり、単体でも運行できた。後年、運転台が片側になったり、運転台のない車両も作られた。それでも車両単体で扱われ、適宜組み替えが行われた。
これに対して「系」の付く電車は、中間に運転台のない車両が多数あり、編成単位で運用する。編成の組み替えもほとんどなく、車両単体で扱う機会は少ない。こうした新しい電車について、ほとんどの鉄道会社で「系」を使い始めた。
このことから、車両1台を呼ぶときは「形」。同じ形の車両をつないだ編成を「系」と呼ぶらしい。この法則が分かりやすい例はJR(国鉄)だ。単体で扱われる機関車は「C62形」「EF200形」のように「形」を使う。一方、電車のように連結して使う車両は「E259系」のように「系」を使う。ディーゼルカーは、ローカル線を一両単位で運用する車両は「キハ120形」、特急のように長編成で使う車両は「キハ181系」である。
「系」で呼ばれる電車やディーゼルカーも、それぞれの車両単体は「形」となる。山手線の電車は編成だと「E231系」で先頭車は「クハE231形」だ。上の写真の東急5000系は、運転台付きの車両が「デハ5000形」、中間車は「デハ5100形」などとなっていた。
呼び方は鉄道会社の習慣で決まる
京急電鉄・小田急電鉄・京成電鉄・西日本鉄道では、編成単位でも「系」ではなく「形」と呼ぶ。この理由は、編成単位で運用する電車を導入したときに「系」という呼び方を使わなかったからだ。一台でも編成でも「形」で呼んで支障がない、という判断があったのだろう。「系」という呼び方について法的な定めはなく、行政からの通達もないという。呼び方を定めていない鉄道会社もあるようで、Webサイトやプレスリリース、パンフレットなどによって、「形」「系」「型」という表記が混在する場合もある。
結局「形」と「系」は、鉄道会社の裁量で呼び方が決まる。鉄道ファンもそれにならう、という習慣になっている。興味深い例としては、小田急ロマンスカー「10000形」。こちらは長野電鉄に譲渡されて、長野電鉄ではこの車両を「1000系」として運行している。鉄道会社の考え方の違いで、同じ電車でも「形」と「系」が変わるというわけだ。