県や市など地域を代表する駅の近くに新しい駅ができるとき、方角を被せた駅名になる事例は多い。典型的な例が浦和駅で、周囲に東浦和駅、西浦和駅、南浦和駅、北浦和駅と「東西南北」がそろい、中浦和駅や武蔵浦和駅もある。珍しいところでは北品川駅。旧品川宿の北側にある駅だけど、品川駅の南側にある不思議な駅名として定番のトリビアだ。

ただし、方角が付いているからといって、元となる名前の駅が近くにあると思ったら、とんでもなく離れている事例もある。そのひとつが北広島駅。「北」の付かない広島駅といえば、広島県広島市にある県を代表する駅だ。一方、北広島駅はJR北海道の千歳線にあり、札幌市の隣に位置する北広島市の中心駅となっている。Googleマップの距離計測機能を使ったら、北広島駅と広島駅は約1,236kmも離れていた。

  • 北広島駅と広島駅はこんなに離れている(国土地理院地図を加工)

ちなみに、西広島駅は広島市内にある山陽本線の駅で、広島駅から西側に3駅目、営業キロ2.5kmの位置にある。東広島駅はちょっと離れていて、山陽新幹線で広島駅から東側に1駅目、営業キロ31.8kmの位置にある東広島市の駅。南広島駅はないけれど、地名としては埼玉県吉川市にあるそうだ。広島県には南広島という地名はなく、広島市南区がある。そして北広島駅は津軽海峡を隔てた北海道にある。

北広島駅がある北広島市は、北海道日本ハムファイターズが2023年に札幌市から移転するというニュースで話題になった。「北海道の球団がなぜ広島県に?」と思った人もいるとかいないとか。安心してほしい。北広島市は北海道だ。札幌市の隣だ。

これだけ離れていると、北広島市は広島県・広島市とは関係ないと思うかもしれない。ちなみに埼玉県吉川市の南広島は「島のように盛り上がった土地の南側」という意味らしい。しかし、北広島市の南側に広島という地名はないし、島のように盛り上がった土地の北側という意味でもない。じつは北広島市の由来は広島県で合っている。ただし、北広島市になった直接の理由は、先にできた北広島駅にちなんでいる。

北海道の情報サイト「北海道ファンマガジン」の記事「市制施行で『広島町』はなぜ『北広島市』になったのか」の情報を整理すると、この土地はもともと月寒村といった。1884(明治17)年に広島県から農業開拓団が移住し、月寒村から分離して広島村となった。1926年に北海道鉄道が建設され、広島村に駅を設置しようとしたとき、広島県に広島駅があったため、区別するために北広島駅とした。

1968(昭和43)年、広島村は広島町となった。そして1996年に市へ昇格した。ここで手続き上、いったん広島市になるけれども、広島県広島市と混同すること、すでに駅名として定着していたことなどから北広島市となったという。広島県との縁は続いており、北広島市と東広島市は姉妹都市となっている。北広島市が発足するとき、広島市の平和記念公園の「平和の灯」が分火され、北広島市平和の灯公園で守られている。

  • 福岡駅は南福岡駅から遠く離れた富山県内にある

方角を冠しているけれど、実際は元の駅名より遠い場所の駅として、福岡駅と南福岡駅の事例もある。福岡駅は富山県高岡市福岡町、あいの風とやま鉄道の駅。南福岡駅は福岡県福岡市博多区にあるJR九州の鹿児島本線の駅だ。Googleマップによる直線距離は約686kmである。「福岡県のJR線に福岡駅がない」という話も面白い。南福岡駅も当初は雑餉隈駅という名前で、後に設置された南福岡電車区に合わせる形で改名した。富山県の福岡県との重複を考慮していたとしたら、それも奇特な経緯といえそうだ。