東武鉄道のSL「大樹」、JR西日本の「SLやまぐち号」客車リニューアル、夏に恒例となった大井川鐵道の「きかんしゃトーマス号」など、SLは日本で大人気。本誌連載「鉄道ニュース週報」第69回でも紹介したように、首都圏の日帰り圏内で4社がSL列車を運行する。SLは海外でも人気があり、「鉄道ニュース週報」第67回では、イギリスで大型蒸気機関車が新造されたことを紹介した。

じつは、アメリカでは2014年から世界最大級のSL「ユニオンパシフィック4000形」、愛称「ビッグボーイ」の復活プロジェクトが進行中だ。ビッグボーイは機関車本体に動軸が4本組で2組ある。つまり動軸が8本、動輪16個だ。日本国鉄最大級の蒸気機関車D51形(デゴイチ)を2両くっつけたような姿である。全長は40.47mで、デゴイチの約2倍、総重量は548.3トンで、デゴイチの4倍以上だ。まさにビッグな蒸気機関車だ。

ユニオンパシフィック4000形蒸気機関車 (撮影 Sheila in Moonducks 氏)

「ビッグボーイ」の車軸配置は、先輪が2軸4輪、動輪に4軸8輪を2組、従輪が2軸4輪だ。これをホワイト式という伝統的な表記法で示すと「4-8-8-4」となる。合計で24輪だ。これに炭水車を組み合わせる。ビッグボーイと組み合わせる炭水車も大型で7軸14輪。つまり、機関車本体と炭水車の合計で38個も車輪がある。ちなみにデゴイチは「2-8-2」で、炭水車は4軸8輪である。

なぜ、こんなにたくさんの動輪が必要かというと、機関車とレールの接地面積を増やすためだ。動輪が多いほどレールとの摩擦が増えて駆動力が増す。たとえばクルマの場合、エンジンのパワーが大きいと、2輪駆動では道路との摩擦面が足りず空転する。4輪駆動にすれば摩擦面が増えて、タイヤがしっかり路面を踏んでくれる。これと同じで、機関車も動輪が多いほど牽引力が増すというわけだ。

ユニオンパシフィック4000形とD51形の車軸配置比較(略図)

ビッグボーイを製造したユニオンパシフィックは、太平洋岸から中部にかけて広大な路線網を持つ米国最大の鉄道会社だ。最大の難所としてロッキー山脈があり、強力で高速な機関車が必要になった。この地域を走る蒸気機関車は輸送量の増加とともに年々大型化していく。その究極の大型機関車として、ビッグボーイは1941~1944年にかけて25両が製造された。最大約6,300馬力、最高時速130kmを誇った。

アメリカは何事につけてもサイズが大きい。峠越えといっても、日本の峠とは異なり長距離で通過する。カーブも勾配も緩い。そうはいっても、動輪4軸を2つも備えた長い車体でカーブを走れるのか? と疑問に思う。日本の蒸気機関車のほとんどは車両の台枠に車輪が固定されている。この構造では、カーブを曲がるために機関車の長さが制約を受ける。

じつはここにビッグボーイの工夫がある。動軸を台車に取り付けて、その上にボイラーを含む車体を載せている。電車と同じように、カーブに合わせて台車が動き、カーブを曲がれるように作られた。この構造は「関節式蒸気機関車」といって、海外の大型蒸気機関車や、急カーブが連続する森林鉄道で採用されている。

ワイオミング州の公園で保存展示されている4004号機(撮影 Purple Bullet 氏)

ビッグボーイの投入により、ロッキー山脈越えは1台の機関車で運行できるようになった。それまでは補助機関車を連結していたため、峠の前後で連結する時間がかかり、人員も必要だった。ビッグボーイを使用する貨物列車は、補機の連結時間をなくしただけではなく、戦争のための運転士不足対策にも貢献した。

アメリカの鉄道は、蒸気機関車からディーゼル機関車やガスタービン機関車への置換えが進んだ。しかし、ビッグボーイは強力で、巨体のわりに扱いやすく、蒸気機関車時代末期まで活躍したという。最終運行は1959年だった。

ビッグボーイは全25両のうち8両が保存されている。このうち4014号機が動態保存に復元されると決まった。2019年にアメリカ大陸間横断鉄道150年を記念して運行する計画だ。