電車やバスの回数券は、私たちの暮らしに根づいた割引きっぷだ。毎日は乗らないけれど、通院や買い物などで週に2~3回、電車やバスを利用するときに使われている。完全週休2日制の会社員は、通勤定期より回数券のほうがお得な場合がある。筆者も会社員時代、外回りの職種で直行直帰が多いため、回数券愛好者だった。最近はおまけ回数が多い平日の日中向け回数券、土曜休日向け回数券もある。出張では新幹線回数券もおなじみだ。
回数券は10回分の料金で11回、12回というように、余分のサービスを受けられる。そして鉄道やバスに限らない。航空券や駐車場、喫茶店のコーヒーなどにも回数券がある。銭湯の入浴券やガソリンスタンドの洗車券も回数券のようなサービスだ。
駅で売っている回数券といえば電車に乗るきっぷ。ところが、そんな常識を覆す回数券もある。駅の窓口ではなく、駅の売店で販売されている。新聞の回数券だ。
日本経済新聞の回数券が販売されている駅売店がある。これは新聞社と鉄道会社の契約ではなく、駅売店と最寄りの新聞販売店が個別に連携した施策のようだ。画像検索をしてみたところ、2014~2016年頃に都内の駅売店で目撃されている。春の新生活に向けたキャンペーンのようだから、この春も実施されるかもしれない。
駅売店の新聞回数券について調べていたら、もっと大規模に展開した新聞回数券が1960年代の東京で販売されていた。販売元は当時、国鉄の駅売店を運営していた鉄道弘済会だ。回数券の券面には路線図が示され、その区間の駅の売店で新聞と交換できた。個別店舗のサービスというより、きちんと制度として新聞回数券が存在していたようだ。
12円の新聞を10部分、120円で販売したという。……あれ、割引されていない。回数券を買うときに1部プレゼントのようなおまけがあったのだろうか。鈴木義徳氏の著書『時刻表マニア1983』(恒文社刊)では、「10円や2円のような小銭をやりとりする手間を省くためではないか」と推察していた。たしかに1960年代当時は高度成長期。通勤電車は殺人的な混雑だった。駅売店もかなり込み入っていたことだろう。
券面の路線図をよく見ると、現在の青梅線奥多摩駅は氷川駅と表記されている。氷川駅が奥多摩駅となった日は1971(昭和46)年2月1日。ちなみに高尾駅は1961(昭和36)年3月20日に浅川駅から改称されている。この間、つまり1960年代から1970年代初め頃に新聞回数券が販売されていたと思われる。
ひとつの売店しか使えない現在のキャンペーンより、広範囲で使える昔の新聞回数券のほうが便利だ。新聞がインターネットに押されている昨今、新聞の販促制度として復活しても良さそうではないか。駅売店ではICカード乗車券のポイント付与制度も始まっているから、連携してもいいかもしれない。