きっぷの自動券売機で「おとな」「こども」の組み合わせで同時に購入できる機種がある。筆者の友人が京王線で「おとな1枚、こども1枚」の130円区間のきっぷを買った。すると、おとな用は「130円区間」で発券され、こども用は「140円区間(小)マーク付き」で出てきた。おとなと同じ「130円区間」で「(小)マーク付き」になるかと思ったら、異なる金額表示になってびっくりしたという。
このびっくり具合は文章だとわかりづらいので、写真をご覧いただこう。まず、小田急線の初乗り運賃となる130円区間のきっぷを「おとな1枚、こども1枚」買う。なお、きっぷの写真はコピーして悪用されるといけないので白黒にする。
小田急線では、おとな用もこども用も同じ130円区間のきっぷが出てくる。ただし、こども用は「(小)マーク」が入り、その下にこども料金「70円」が表示される。こども料金はおとな料金の半額だし、目的地は同じだから理にかなっている。違和感はない。
ちなみに、きっぷのこどもの表示方法は時代とともに変わってきた。自動券売機がなかった頃、窓口では堅いきっぷ(硬券)を販売していた。硬券のこども表示は「斜めカット」。右端を斜めに切るとこども用になった。自動券売機の初期はスタンプ式の印刷だったため、こどものきっぷは赤く大きな「小」の字が上書きされた。現在はきっぷが感熱紙となって文字は黒色だけになり、小さく「小」マークが入る。改札口で見分ける必要がなくなり、自動改札機が磁気情報を読み取るから、「小」マークを目立たせる必要はない。
続いて、京王線の初乗り運賃となる130円区間のきっぷを「おとな1枚、こども1枚」買ってみよう。
なんと、130円区間のきっぷを買ったはずが、こども用だけ140円区間になっている。おとなよりもこどものほうが、ちょっと遠くへ行けるといえる。これは販売機の設定ミスか? いや、筆者の友人は調布駅で経験した。筆者は新宿駅で試している。これは正しい設定のはずだ。ミスならとっくにニュースになっているし、修正されたはず。
一体どうして、京王電鉄だけが「140円区間(小)マーク付き」になってしまうのか。京王電鉄に聞いてみた。
「この発券で間違いありません。おとなのきっぷからこどもの金額を判定する場合は半額になります。130円の半額は65円になります。ただし、きっぷを買う場合、10円未満の端数は切り上げとなります。それで運賃計算上は70円になります。しかし、こども用の70円から見ると、おとな料金はこども用の2倍です。そこで、こども用のきっぷの2倍の140円の乗車券で発券します」
それでは、なぜ小田急線は「140円区間(小)マーク付き」にならないのだろうか。その理由は、小田急線と京王線の運賃体系の違いだ。京王電鉄の場合、初乗り運賃の130円の次の段階が140円だ。小田急電鉄の場合、初乗り運賃の130円の次の段階は160円。140円に相当するきっぷが設定されていないため、額面は130円のまま(小)マーク付きになる。
これは京王電鉄でも同じこと。京王相模原線では加算運賃があるため、5~6kmの運賃が150円、7~8kmの運賃は170円になる。この場合、150円区間の「おとな1枚、こども1枚」を買うと、こども用のきっぷは「150円(小)マーク付き」となり、「160円(小)マーク付き」にはならない。
つまり、おとな用・こども用のきっぷの額面が異なる条件は「こども運賃で10円未満の端数がある区間」であり、さらに「1段階上の料金区分が10円だけ高い」となる。
JRも都営地下鉄も…、共通の法則があった
他の鉄道事業者でも確かめてみた。JR東日本の新宿駅では、160円区間のひとつ上が170円区間だ。そこで、160円区間のきっぷを「おとな1枚、こども1枚」買ってみた。
予想通り、こども用だけ170円区間になっている。しかし、160円の半額は80円で端数がないから、こども用も2倍の160円区間の表示でいいと思える。ただし、JRのきっぷのこども運賃は、10円未満の端数は切り捨て。170円のきっぷも80円になる。だからこども運賃で乗れる最大の区間を表示したといえそうだ。JR東日本にも聞いてみた。
「大人運賃で160円と170円のきっぷではどちらも小児運賃は80円ですが、乗車できる範囲は異なり、170円区間のほうが長くなります。小児のきっぷについては、誤って短い区間のきっぷを購入される可能性があることから、券売機は、同じ運賃の場合に長い距離を乗車できるきっぷを発券するように設計しております」
「同じ運賃の場合に長い距離を乗車できるきっぷ」を発券する。これはわかりやすい。他の事例も探してみようと、目黒駅で都営地下鉄の170円区間のきっぷを買ってみたところ、こども用は「180円区間(小)マーク付き」が出てきた。
つまり、京王電鉄だけが特別なわけではなく、どの鉄道会社も「同じ運賃の場合に長い距離を乗車できるきっぷを発券する」という原則がある。そこに前出の「1段階上の料金区分が10円だけ高い」という条件が重なると、おとな用とこども用で金額の異なるきっぷが出てきてびっくり、となるわけだ。小田急電鉄も同じルールだろうけれど、現在の料金体系は10円差の区分がないため、再現できなかったというわけだ。
ちなみに、こども用きっぷだけを買った場合も同じルールだ。京王線で130円区間のこども用きっぷを買うと「140円区間(小)マーク付き」になる。ただし、購入者がこどもでもあるし、自動券売機を信用しているから、実際の額面が変わっても気づきにくい。おとな用とこども用を買って、同時に発券されると、比較して「あれ? 違う?」となる。
最近はICカード乗車券が普及したため、きっぷを買う機会が減った。「同じ運賃の場合に長い距離を乗車できるきっぷ」というルールは昔から変わっていないはずだけど、ますます気づきにくくなったといえそうだ。