九段下駅では都営地下鉄新宿線と東京メトロ半蔵門線が接続する。3月16日から都営新宿線新宿方面のホームと半蔵門線押上方面のホームの壁が撤去されて同一ホームを往来可能に。これで乗換えが便利になった。
……というけれど、「本当に便利になったの?」「あんまり意味がないのでは?」という声もある。なぜかというと、同一ホームで乗り換えられる電車は、渋谷方面から来て、新宿方面へ乗り換えるパターンなどに限られるからだ。方面としてとらえると、東京の西側から都心に行って、また西側へ逆戻りしてしまう。
これがもし、渋谷方面から半蔵門線で来て、九段下駅にて同一ホームで乗り換えて都営新宿線の東側、秋葉原に近い岩本町駅や、都営大江戸線に接続する森下駅に行けるなら便利だった。新宿方面から大手町、押上方面へ行けても便利だったけど、そうじゃないのかとがっかり。この乗換えで便利になる人は、半蔵門線や乗入れ先の東急田園都市線から、都営新宿線の市ヶ谷駅や曙橋駅に行く人だけだよね……、と思ってしまう。渋谷の西側から新宿の西側に行くなら、九段下経由は遠回り。山手線や副都心線を使ったほうが早いし安い。
改革の本丸は「改札階」にあり!?
「九段下の壁」問題は、「都営地下鉄と東京メトロの運営を統合したい」という、歴代東京都知事の意向の一例として挙げられていた。とくに現都知事の猪瀬直樹氏は、副知事時代から「バカの壁」という辛らつな表現を用いていた。同一階にホームがあるのに、縄張り意識の象徴のように壁を作っているというわけだ。いわれてみるとたしかに、かつての「ベルリンの壁」のような、境界意識の現れのように見える。
この「バカの壁」ばかり報道されたためか、ホームの壁だけに関心が集中した印象もある。「あのホームの壁がなくても、実際には意味がない」との反響も目立ってしまった。
しかし、九段下駅で半蔵門線と都営新宿線を乗り換える人なら、「ホームの壁」よりも「改札階の壁」がなくなったことにメリットを感じると思う。
都営新宿線本八幡方面ホームから半蔵門線押上方面ホームへ、あるいは半蔵門線渋谷方面ホームから都営新宿線新宿方面ホームへ行く人も負担が減った。同じホームではなく、階段の上り下りがあるにしても、改札を2回も通るという面倒からは開放された。歩行距離も短縮されて、いままでより1本早い列車に乗れる場合もある。このルートも限定的かもしれないけれど、「改札階の壁撤去」のほうがメリットが大きい。
もっと大きな改革の第1歩に…
九段下駅の「改札階の壁」撤去は、東京メトロと東京都交通局という、ふたつの事業者の「壁」を壊すための第1歩かもしれない。東京都は東京の地下鉄の一元化を主張しており、国へはたらきかけているからだ。東京メトロの株は国と東京都が持っていて、国が53.42%、東京都が46.58%となっている。そして、東京メトロは将来上場する予定だ。都知事は東京メトロが上場し、国が株を手放した場合、その株を購入する考えだ。
これが実施されると、都営地下鉄と東京メトロの統合に向けた動きはさらに加速するだろう。乗り換えたときの合算運賃が解消され、他の都営地下鉄と東京メトロの乗換駅でも、改札階でスムーズな乗換えができるかもしれない。「九段下の壁」の撤去は、直接的には「一部の利用者を便利にしただけ」かもしれないけれど、これから始まる「もっと大きな便利」への第1歩ともいえそうだ。