蒸気機関車(SL)の動輪はかなり大きい。動輪を大きくするほどピストンの動きを拡大でき、スピードが上がるからだ。でもよく見ると、動輪以外にも小さな車輪が付いている。ただくっついているだけに見えるけれど、いったいどんなはたらきをするのだろうか?

8620形(写真左)とC56形(同右)。動輪の手前、連結器付近に小さめの車輪がある

公園に静態保存されている蒸気機関車を観察してみた。蒸気機関車は重いから、車輪を増やして重さを拡散しているのだろう……、と思ったが、この小さい車輪は車体を支えているわけではない。台車の枠を伸ばした先にくっついている。

カーブでも車体を安定させる役目を持つ

この小さな車輪の名前は「先輪」という。動輪より先(前)のほうにあるから「先輪」だ。ちなみに動輪の後ろにも小さな車輪があって、こちらは「従輪」という。動輪に従う位置だからである。このふたつの車輪のおもな役目は車体の向きを変えることにあり、車体を支えたり、走る力を伝えたりする役目はさほど強くないらしい。

先輪が"ガイド役"となって動輪を導く

大きな動輪だけの機関車は、スピードは速くできても、向きを変えにくく脱線しやすいという欠点がある。動輪は車体の台枠に固定されているため、左右のゆとりがほとんどない。動輪は大きな機関車の車体(台枠)に固定されている。このままでは、カーブにさしかかったときなど、動輪とレールが斜めに当たってしまう。巨大な動輪とレールの双方が擦れて削れてしまうし、最悪の場合は動輪がレールに乗り上げ、脱線してしまうかもしれない。

電車や客車の台車は、車体との間に回転軸を持っている。その回転によって左右にゆとりを持たせているのでスムーズに曲がれる。しかし蒸気機関車の場合はロッドで動力を伝える。動輪が左右に動いてしまってはロッドが折れてしまう。巨大な鉄の車体を支える必要もある。

そこで、左右に動かない動輪の向きをレールに沿わせるために先輪を使う。先輪は台枠に取り付けられているため、機関車がカーブにさしかかると、まず先輪がレールに沿って曲がる。すると台枠も線路に対して従う動きをする。これで動輪もレールに対して適切に接地できるというわけだ。

「あれ、それなら従輪は必要ないのでは?」と思うかもしれない。しかし、蒸気機関車はつねに前向きで走るわけではない。終点に転車台がなければ、帰りは逆向きになる。従輪の役目はいくつかあるが、バック走行においては従輪が先輪の役目を担うのだ。