秋は別れの季節と言うけれど、8月7日の立秋を過ぎてから、鉄道業界もお別れのニュースが続いた。最も大きな話題は寝台特急「北斗星」の廃止。国鉄型381系電車も近畿エリアから引退する。JR北海道は留萌本線の一部区間の廃止を発表。梅小路蒸気機関車館も終幕し、京都鉄道博物館へ生まれ変わる。サヨナラは新たな出会いを連れてくる。

今年4月から臨時列車で運行された寝台特急「北斗星」。8月22日の札幌発上野行の列車をもって運行終了となった

寝台特急「北斗星」廃止 - 昭和から続く旅情がまたひとつ消える

8月23日、上野駅に札幌発の寝台特急「北斗星」が到着した。今年3月に定期列車が運行終了した後、寝台特急「カシオペア」と同じダイヤで、「カシオペア」の運行日の隙間を埋めるかのような臨時列車となっていた。その臨時列車もこの日で終わり。1988年3月13日の運行開始から27年5カ月にわたる歴史が終わった。

そしてこれは、1958年10月の20系客車「あさかぜ」から始まる寝台特急"ブルートレイン"57年の終焉でもある。青い客車を使う夜行列車は現在、青森~札幌間の急行「はまなす」が残っているけれど、寝台客車と食堂車の固定編成という意味で、寝台特急「北斗星」は最もブルートレインらしい列車だった。『「北斗星」乗車456回の記録』の著者、鈴木周作さんは、「青いEF510形電気機関車と北斗星の組み合わせがブルートレインの完成形」と書いている。

「北斗星」は消え、「はまなす」も「カシオペア」も消えゆく運命にあるだろう。しかし、夜行列車がなくなるわけではなく、JR東日本・JR西日本ともに2017年からスイートベッドルーム付きのクルーズトレインを運行するという。それも楽しい旅だと思うけれど、そこに「北斗星」やかつての九州ブルートレイン、東北夜行のような情緒はない。これら「星の寝台特急」は旅行者の利用が多かったけれど、実用的に使う人も多かったからだ。

利用者にとって都合の良い夜間に移動できるし、目的地まで乗換えなしで行ける長距離列車として、出張で使う人もいれば、新婚旅行やグループ旅行で使う人もいた。楽しい旅だけではない。夢を追って都会へ行く人は車窓に不安を映し、夢破れて故郷に帰る人は、轍のリズムに心を落ち着かせた。危篤の家族の元へ行く人も、お葬式に行く人も……。

さまざまな目的の旅人をすべて受け入れて、夜明けとともに気持ちを切り替えさせてくれる。それが「星の寝台特急」だった。合理化は理解できるけれど、こうした旅を必要とし、心のよりどころにする人もたくさんいた。鉄道会社各位、どうかそれを忘れないでほしい。

留萌本線廃止 - いまや道路よりも脆弱な日本の鉄路

8月10日、JR北海道は留萌本線留萌~増毛間の鉄道事業廃止を表明した。すでに留萌市長と増毛町長に説明したという。読売新聞によると、8月26日に留萌市議会にJR北海道の要職が出席し、留萌本線の現状を報告したとのこと。JR北海道は2016年度の廃止に向けて協議していく意向だ。

留萌本線の終点、増毛駅

もし、直近で9月中に廃止届が国土交通大臣に提出された場合、廃止予定日は1年後の2016年秋。ただし、代替交通手段の確保など、沿線の同意が得られた場合は半年後に短縮できる。その場合は2016年春に廃止となる。毎年3月の全国ダイヤ改正と同時に廃止したい、という考えがあるかもしれない。

留萌本線は函館本線の深川駅から増毛駅までの66.8kmの路線。廃止対象となるのは留萌駅から増毛駅までの16.7kmだ。列車は平日に下り6本・上り7本。1本あたりの乗客は3名だという。採算面が良くない上に、土砂の流入や豪雨で運休しやすい路線だった。

筆者は2012年9月、増毛行の列車に乗車した。このときも大雨で留萌駅から先が運休になってしまった。しかし、鉄道が運休になっても代行バスは走った。路盤が老朽化した線路より、舗装を適時に修復する道路のほうが頼りになる地域でもある。この区間は並行する路線バスもあり、運行本数は列車より9本多い。シェアでいうと圧倒的にバスの勝利だ。

8月3日に亡くなった作家・阿川弘之氏はエッセイ『空旅・船旅・汽車の旅』(1960年刊)で、1950年代の日本の道路事情を嘆いていらした。当時は主要国道もデコボコ道路で、鉄道のほうが頼りになる交通手段だった。国鉄時代に全国の赤字ローカル線で廃止論議が起きたとき、道路事情が良くないとして廃止を逃れた路線もある。しかし時は流れ、立場は逆転した。もう「道路が弱い」は鉄道存続の理由にならない。留萌本線一部区間の廃止をきっかけに、JR北海道だけではなく、全国のローカル線で廃止論議が起きそうだ。

梅小路蒸気機関車館、前向きな理由での「閉館」

交通文化振興財団が保有する梅小路蒸気機関車館が、8月30日の営業を最後に閉館し、1972年の開館から43年の歴史にピリオドを打った。閉館し見学できなくなるとは寂しいけれど、こちらは前向きな理由の閉館だ。2016年春に京都鉄道博物館へリニューアルされる。同財団が運営し、2014年6月に閉館した旧交通科学博物館の収蔵品と、新幹線500系電車など新たな保存車両が加わる予定である。

梅小路蒸気機関車館では今年春以降、「トワイライトエクスプレス」車両や新幹線0系などの京都鉄道博物館への搬入作業も行われている

梅小路蒸気機関車館の名物といえば、転車台と組み合わせて建てられている扇形機関庫だ。1914年に鉄筋コンクリートで建設され、101年の歴史を持つ。この機関庫を使ったイベント「機関車の頭出し」も名物のひとつだった。じつはこの施設、単なる展示施設というだけではなく、現役の車両基地「梅小路運転区」でもある。蒸気機関車の多くは動態保存で、山口線などで活躍するSL列車の機関車も梅小路運転区に配置されている。

もうひとつの名物はデルタ線だ。これは梅小路蒸気機関車館というより。JR西日本の線路だ。東海道本線(JR京都線)西大路駅と山陰本線(嵯峨野線)丹波口駅を結ぶ短絡線があり、それぞれの駅から京都駅を結んで三角形の線路になる。短絡線は京都駅を介さずに東海道本線・山陰本線を結ぶ貨物列車や回送列車に使われていた。

京都鉄道博物館はJR東日本の鉄道博物館やJR東海のリニア・鉄道館を上回る規模になる。敷地も広く、山陰本線京都~丹波口間に新駅も設置予定だ。西大路駅から丹波口駅への短絡線は2016年中に廃止される予定。こちらは本当にお別れとなってしまう。列車が走る機会は少ないようだけど、この線路は見納めとなる。

なお、博物館のリニューアルとしては、東急電鉄「電車とバスの博物館」も9月で閉館し、2016年春に再オープンする予定となっている。「電車とバスの博物館」は、大手私鉄では初の自社博物館で、地下鉄博物館や東武博物館を建設する動きにもつながった。自社の歴史的価値ある車両を自社の手で保存展示する。集客効果もあるし、この動きが博物館未設置の鉄道会社にも広がってほしい。

ついに大手私鉄も! 東武鉄道がSL運行に参入

8月10日、東武鉄道は「蒸気機関車(SL)の復活を目指します(2017年度目途)」というプレスリリースを発表した。JR北海道の合理化で余剰となる蒸気機関車を借り受け、鬼怒川線下今市~鬼怒川温泉間で運行するという。これは非常に奇抜で、なおかつ奥深い戦略だ。思いついた人もすごいし、そのアイデアを会社として取り組もうとする東武鉄道もすごい。

下今市駅は東武日光線・鬼怒川線が分岐する駅だ。東武特急は東武日光行「けごん」「日光」・鬼怒川温泉行「きぬ」「きぬがわ」が運行されている。下今市駅を境に運行系統が別れるから、いままではなんとなく、日光と鬼怒川温泉は「別の目的地」の感があった。そこで下今市~鬼怒川温泉間にSL列車を投入すると、「東京~日光~鬼怒川温泉~東京」という回遊ルートが誕生する。この地域の旅行者の滞在時間が延びる。

さらに欲張ると、鬼怒川温泉駅から「AIZUマウントエクスプレス号」で野岩鉄道・会津鉄道を乗り継げば、JR東日本の「SLばんえつ物語」「フルーティアふくしま」にもつながる。北関東と南東北の大きな周遊ルートに、SLという大きな魅力が加わる。

SL列車単体としても、東武鉄道の路線網の中で、最も都心から遠い場所での運行は意味がある。SLが似合う風景というだけでなく、この区間は東武鉄道で往復するルートが最も便利。長距離乗車券が売れる。SL列車単体の収益だけではなく、東武鉄道にとって広範囲なメリットがある。

しかし、これによって、他のSL運行路線は苦戦を強いられるかもしれない。SL復活運転はローカル鉄道にとって重要な収益源だ。JR東日本が高崎地区で運行を開始したときも、真岡鐵道や秩父鉄道、大井川鐵道の乗客減に影響があったという。観光列車としてのSLは集客競争である。そこに大手私鉄の東武鉄道が参入する。

ただ走らせるだけではダメ。付加価値を高める必要がある。その結果、各社のSLが共存し、鉄道ファンや利用者の楽しみがますます増えると期待したい。

国鉄特急形電車381系の引退続く - 最期の任地は「やくも」

JR西日本は8月21日、289系の運行開始日を10月31日と発表した。対象となる列車は阪和線・紀勢本線を走る特急「くろしお」、福知山線を走る特急「こうのとり」、山陰本線を走る特急「きのさき」、山陰本線から京都丹後鉄道へ乗り入れる特急「はしだて」の4系統だ。289系は新形式だが新造車両ではない。北陸新幹線長野~金沢間開業などの影響で余剰となった「しらさぎ」用の交直流特急形電車683系をリフォームした車両である。

国鉄色381系の特急「こうのとり」

289系に置き換えられる381系は、国鉄時代に製造されてから30年以上も経過している。新形式の車両の投入は、利用客にとって良いニュースだ。だから本項は「289系デビュー」という明るい話題でもあるけれど、鉄道ファンとしては381系の活躍の場が減るという寂しいニュースでもある。

381系は、日本の鉄道車両史の中で画期的な「振り子機構」を、営業車両として初めて搭載した電車だ。振り子機構とは、カーブを走行するときに車体をカーブの内側に傾けて、遠心力を打ち消すしくみ。その結果、列車はカーブ区間の走行速度が上がり、乗客も外に放り出される感覚が軽減される。

自動車レースや競輪場のカーブ路は傾いてバンク構造になっている。鉄道も「カント」といって、カーブの線路では外側を少し高くしている場所がある。ただし、カントの角度が大きいと、低速な列車が傾いて危険だから最小限になっている。その角度だけでは高速走行は難しい。そこで振り子機構は、車両側で急角度状態を作り出している。

381系は当初、中央本線名古屋~長野間の特急「しなの」に採用され、続いて特急「くろしお」「やくも」に投入された。どれもカーブの多い路線を走るため、スピードアップに貢献した。ただし、振り子機構の振り幅が大きく、車酔いする乗客も目立った。各座席にエチケット袋が用意された時期もあり、現在も洗面台に備えられているという。

381系の特徴はスマートな外観だ。通常は屋根に設置する冷房装置を、振り子機構の低重心化のために床下に置いた。したがって屋根は低く、すっきりしている。乗り心地には賛否があったとはいえ、381系の外観は人気がある。

特急「やくも」に使われている381系はリニューアル工事で専用塗装となったため、国鉄色の381系は10月末で引退だ。紀勢本線や北近畿の各路線から381系が消えると、残る381系は「やくも」だけになる。こちらはいつまで走ってくれるだろう? いまや国鉄特急形電車のみ使用する最後の定期特急列車でもある。

新たな車両や試みも

東武鉄道のSL運行開始も、北海道の鉄道ファンから見るとSLとのお別れになる。なんだかお別ればかりになったけれど、他に注目するニュースとして、前回少しだけ触れたJR西日本「花嫁のれん」車両デビューもあった。東急電鉄が戸越銀座駅を多摩産の木材でリフォームするニュースも興味深い。JR東日本は東日本大震災で被災した常磐線富岡~浪江間で除染試験施工に着手するという。

前向きなニュースもあった一方、残念な事故として京浜東北線・根岸線の架線切断事故(8月4日)や石北本線の盛土流出(8月1日)も記しておきたい。架線切断事故は業務手順の誤りが原因。自然災害は窮地の地方鉄道をさらに追い込む。災害不通が長期にわたる路線も多く、早期復旧のための枠組みが必要だ……などなど、思うところの多い8月であった。