本連載の第92回では「問いを活用して問題解決の打ち手を出そう」と題し、問題を解決するための打ち手が出ないときによく見られる状況と、事態を打開するための「問い」についてお伝えしました。今回も引き続き「問い」に着目し、職場の部下や後輩を育てるための「問い」の使い方についてお話します。
「職場の部下や後輩がなかなか育たない。一体どうしたものか」
「最近の若手社員は自分の頭で考えようとしない」
このような悩みを抱えてはいるという方は少なくないのではないでしょうか。確かに自分で考えて行動に移せない人は一定数いるかもしれませんが、それは昔から同じなのではないでしょうか。ただし、一昔前は「上司や先輩の背中を見て学べ」というスタンスの職場が多かったため、当時の部下や後輩(以下、部下に統一します)の立場としては有無を言わさず自分で考えざるを得ない環境にあったかもしれません。
では当時と同じように部下を放置すればよいかというと、それはそれで部下のモチベーションが下がって離職にも繋がりかねません。ではモチベーションを下げずに部下の成長を促すにはどうすればよいのでしょうか。
その答えの一つがうまく「問い」を使うことです。部下とのコミュニケーションに「問い」を上手に取り入れることができれば、部下のモチベーションを上げながら成長させることができるでしょう。
では成長を促す「問い」とはどのようなものでしょうか。以下、シチュエーション別に見ていきましょう。
部下がミスをしたときは「なぜ」より「何によって」
部下が会議に遅刻したり、書類の記載を誤ったりするなどのミスを犯したときには「なぜ遅刻したのか?」とか「どうして記載を間違えたんだ?」と問い詰めたくなるものです。しかし、たとえミスをした原因を問うことを意図した問いであっても「なぜ」と聞かれれば「責められている」と感じるものです。理由が何であろうとミスをしたら謝るのは人として当然なのですが、既に謝罪した相手をさらに追い込んでしまうのは生産的とは言えません。
部下が既に謝った後に、しっかりとミスの原因を突き止めて対策を練るのであれば「何によって遅刻してしまったのですか」「何によって記載を誤ってしまったのでしょうか」などと、「何によって」と言い換えてみましょう。これらの問いの表現では「責められている」という感覚が薄れます。「何によって」という問いはミスを自分の人格と切り離して客観的に分析させるのに使えるので、同じ失敗を繰り返さないためにも活用してみるとよいでしょう。
部下が受け身なら「何をすべきか」より「何が必要か」
与えたタスクを終える度に「これが終わったら私は何をしたらいいですか?」と延々と聞いてくる部下に対して「何をすべきか少しは自分で考えなさい」と言っても上手くいかない場合にはどうしたらよいでしょうか。
もし「何をすべきか」と聞いても出てこないのだとしたら、ひょっとすると部下の頭の中では「それを考えるのが上司の仕事でしょう」と思っている可能性があります。「何をすべきか」というのは義務のニュアンスが強くなるので仕方がないかもしれません。
そこで「何をすべきか」の替わりに「この目標を期日までに達成するために必要なことは何だと思いますか?」という問いかけをしてみてはいかがでしょうか。同じことを別の表現で言い換えているだけなのですが、義務のニュアンスが薄れたと感じるのではないでしょうか。それによって客観的に考えることができるので、部下自身に何が必要かを自分で考え出させることができるでしょう。さらに副次効果としては、自分の頭で考えたことであれば「やらされ感」がなくなるので、その仕事に取り組むときのモチベーションを向上させる効果も期待できます。
部下のチャレンジは「本当にできるのか」より「どんな助けが必要か」
やる気を出した部下が一念発起して新しいサービス開発のプロジェクトへの参画や社内の改善アイディアコンテストへの応募などを相談してきたときは、つい本業への悪影響が気になって「今やっている業務を続けながらそんなことできるの?」と聞きたくなるのも無理はないでしょう。しかし、新しいことにチャレンジする以上は、それが100%上手くできるという保証などないのが当たり前です。
また、部下を成長させるという観点からは、新しいことにチャレンジした結果、たとえ失敗したとしてもそこから学ぶことは大いにあるはずです。そのため、長い目で見れば上司の立場からは「ここは任せて全力で挑戦しなさい」と背中を押してあげるのが得策です。
そこで使える問いは「本当にできるのか」ではなく「あなたが思い切ってチャレンジする上で、必要な協力は何でしょうか?」ということです。この問いへの答えが「特にありません」だったとしても、部下は安心してチャレンジすることができると感じるのではないでしょうか。
以上、見てきたように同じシチュエーションにおいても部下に投げかける「問い」によって受け手の印象は大きく変わります。部下にとって長期的な成長に繋がる「問い」とは何か、今一度考えるきっかけになれば幸いです。