本連載の第239回では「フレームワークを使って議論の幅や深さを広げよう」という話をお伝えしました。今回も引き続きフレームワークに注目し、フレームワークを使って議論を整理する方法についてお話します。

「職場の会議は効率的・効果的に実施されていますか?」

この問いに自信をもって「はい」と答えられる方は少数派ではないでしょうか。特に複数の部署から参加者が集まっていたり、複雑な議題であったりすると会議を効率的に運営するのは大変です。たとえ活発に意見が出たとしても、あまりにもバラバラの意見が出てきてしまうと、そこから一つの結論に導くのは一筋縄ではいかないものです。

ここで具体例を見てみましょう。とある会社の経営層が会議をしています。テーマは「営業利益減少の要因特定」です。

社長「ここ最近、営業利益が目に見えて減少しています。売上目標の達成が難しくなってきた営業担当が値引きしているのではないでしょうか。」

商品部長「確かに、一部の営業担当は値引きしていると聞いています。しかし、本当にそれだけでしょうか。原材料費と物流費の高騰による製造原価上昇の方がインパクトが大きいと考えますが、どうでしょう。」

営業推進部長「それはあるでしょうが、一方で販売数量の減少も気になります。特に関東支社の管轄エリアで業界内のシェアが他社に奪われているという報告が上がってきています。テコ入れのために大規模な販促キャンペーンを展開すべきではないでしょうか。」

経理部長「ちょっと待ってください。すでにインターネット広告を大規模に売っていて、販促費が利益を圧迫しています。ここでさらに販促キャンペーンに資金を投じるのは得策ではないですね。」

さて、いかがでしょうか。営業利益減少の要因として様々な意見が出たのはよいですが、それぞれバラバラでまとまりがありません。このまま続けても、お互いに意見を言い合うだけで議論が前に進みそうにありません。

こんなときに使えるのがロジックツリーです。ロジックツリーはフレームワークの一種で、問題解決や意思決定のプロセスを構造的に整理し、可視化するためのツールです。特定の問題や目標をより小さな要素や細かい問題に分解し、それらがどのように連携して全体に影響を与えるかを明確にするのに役立ちます。

そしてロジックツリーはビジネスの世界において、戦略立案、プロジェクト管理、業務プロセス改善など、様々なシーンで活用されています。特に経営上の複雑な課題に対してロジックツリーを用いることで、課題を構造的に理解し、明確な行動計画を立てることが可能になります。

このロジックツリーを作る際には以下の手順で行います。

  1. 要因を分析したい問題をツリーのトップに記述する。
  2. ツリーのトップに記述した問題の直接的な全ての要因をツリーの2階層目に記述する。
  3. 2階層目の全ての要因を3階層目に記述する。
  4. 可能なところまで要素分解を繰り返す。

それでは、先ほどのケースでロジックツリーを作成してみましょう。まずはツリーのトップに「営業利益減少」と記述します。この営業利益が減少する直接的な要因は何があるでしょうか。それには「売上高減少」と「売上原価増加」、そして「販管費増加」の3つがあるので、それをツリーの2階層に記述します。まずはここに着目し、3つの要素のいずれが発生しているのかを特定します。できればホワイトボードやプレゼンツールなどを用いて、その場でロジックツリーの2階層まで描き、「これら3つのどれが発生しているでしょうか」と参加者に確認するのがお勧めです。

ここから先は「売上高減少」、「売上原価増加」、「販管費増加」の3つのシナリオに分かれますが、ここでは「売上高減少」が発生していたとします。その場合には「売上高減少」の要因をさらに分解して、「販売数量の低下」か「平均販売単価の低下」を特定します。そして、この2つの内の「販売数量の低下」が起きていたとすると、さらに分解して「市場の縮小」か「自社商品のシェア低下」と記述します。このツリーは「営業利益減少」の要因を分析する唯一絶対の解ではなく、あくまでも例ですがツリー作成のイメージを掴んでいただければ幸いです。

そして、会議では参加者と一緒にロジックツリーを作りながら、「どのように要因を分解できるか」と「分解した要因の内、どれが当てはまるか」を話しながら問題の真因を特定していきます。それによって、参加者間での共通認識を醸成しながら議論を着実に前に進めることができます。

なお、ロジックツリーで問題の要因特定する際には、単に要因をツリー上に配置すればよいというわけではありません。たとえば先ほどの会議のケースにおいて、営業利益減少の要因として社長は「営業担当による値引き」、商品部長は「原材料費と物流費の向上による製造原価上昇」、営業推進部長は「関東支社のエリアでのシェア低下による販売数量減少」、そして経理部長は「インターネット広告の大規模な展開による販促費の上昇」をそれぞれ挙げています。

これをそのまま横並びにしてロジックツリーに記述してもうまくはいきません。その理由については、次回コラムにて説明しますので、ぜひそちらも併せてご覧いただけますと幸いです。