本連載の第208回では「ポジティブなフィードバックでスキルを向上させよう」という話をお伝えしました。今回は仕事の無駄を排除して最短距離でゴールを目指すために必要な「逆算思考」についてお話します。

「今日のあなたの仕事は何ですか」こう問いかけられたら、どのように答えますか。きっと、多くの方は「商品の売上データを集計すること」や「部署の週次会議に出席すること」、「報告書を作成すること」というように、目の前のタスクを挙げるのではないでしょうか。

もちろん、目の前のタスクを粛々とこなしていくことはとても重要です。目指すゴールに辿りつくために必要なことです。その一方で、それら目の前のタスクを遂行することはゴールに辿りつくための最適解なのでしょうか。この問いかけに自信を持ってYesと答えられる方はあまりいないのではないかとお察しします。

ひょっとすると今やっているタスク、或いはこれからやろうとしているタスクをこなすより、もっと効率よくゴールを目指す方法があるのではないか。一度、ご自身の仕事に置き換えて考えてみてください。

さて、とりあえず目の前のタスクをこなしていくというのは、地図を持たず目的地がどこにあるのか正確に把握しないままとりあえず前に進んでいるようなものです。それでも頑張って歩いている内に目的地に辿り着くかもしれませんが、ひょっとすると辿り着かないかもしれない。辿り着いたとしてもかなり遠回りをしてしまっているかもしれない。

このような事態に陥らないようにするのに逆算思考が役立ちます。逆算思考とは、ゴールを明確に定義して、そのゴールを達成するための条件は何か、その条件を満たすために何をすればよいのか、というのをゴールからスタート地点に向かって考える思考方法です。

冒頭で挙げた例で考えてみましょう。まずは「商品の売上データを集計する」というタスクですが、「どのようなゴールを達成するための集計なのか」が曖昧なまま集計作業をしていたとすると、今やっていることが本当に適切な集計方法なのか、そもそも集計する必要が本当にあるのか、といったところから疑問を持たざるを得ません。

そこでまずはゴールをしっかりと決めます。たとえば「前年比で自社の商品Aの売上が落ちているようだが、それは競合他社が関東地方で大規模にキャンペーンを展開したためではないか。」という仮説を持ち、それを検証することをゴールとして設定します。そうすると、競合他社がキャンペーンを展開している関東とそれ以外の地域に分けて集計し、キャンペーン前からキャンペーン後にかけての時系列での売上の推移を分析すればよい、ということになるでしょう。それは裏を返せば、それ以外の集計や分析をする必要はない、とも言えます。

次に、「部署の週次会議に出席すること」についても見ていきます。よく、会議に出席すること自体が目的化しているケースを見かけますが、本来は会議に出席することで何を達成するか、ということの方が重要なはずです。部署の週次会議は何のためにやっているのか、という疑問への回答が仮に「情報共有」だけであればメールやチャットなどで済むことなので、わざわざ事前に日程調整や会議室予約などを行ってまで会議の形式にする必要はないかもしれません。会議に出席して何を達成したいのか、そこから逆算で考えることで、今やっている方法より効率的な手段を取ることができる可能性があります。

冒頭に挙げた「報告書を作成すること」も同様です。「その報告書は何のために作成しているのか?」と自問自答してみましょう。その結果、報告書を提出する目的が「新卒向けの採用活動において、内定辞退の件数をゼロにすること」だったとします。そうであれば、そもそも「内定辞退がなぜ起きるのか」という原因を探り、辞退を減らすためにどのような手が有効化かという仮説を立て、それを検証するために必要な情報を集めるというのが筋になります。そこまで考えた上で、そもそも報告書が必要なのかどうか、報告書に盛り込むべき情報は何か、というのを逆算思考で考えて設計すべきということになります。

以上見てきたように、効率的にタスクを行う際には「そもそも何を達成したいのか」という目標をしっかり定義し、その目標を達成するには何をすべきなのか、という順番で考える「逆算思考」がとても有効です。ぜひご自身の仕事でも活用していただければ幸いです。