本連載の第132回では「論点の違いと変化を理解して考える力を研ぎ澄まそう」と題し、論点が立場や状況などによって異なったり変化したりすることをお伝えしました。今回はがらりとテーマを変えて、業務を変える際に現場から抵抗に遭った際の対応の仕方についてお話をします。
日本国内では現在落ち着きを見せている新型コロナウイルスの感染状況。しかし世界を見渡せばオミクロン株が猛威を振るっており、いつ日本も同様の状況に陥ってしまうか分かりません。ワクチンの接種人数が80%近くに達している上、ブースター接種もこれから本格化していくようですが予断を許しません。
そのため新型コロナウイルス感染の第5波が落ち着いて以降、徐々にオフィスに出勤する人が増えてきているものの、今後の状況次第では政府から再度、リモートワークの比率を高めるよう企業に要請が出ることも想定されます。
また、来年1月には改正電子帳簿保存法が施行されます。2年間の猶予期間が設けられたとはいえ、電子データで受け取った書類は紙ではなく電子データで保存しなければならなくなります。
このような環境の変化に合わせて私たちビジネスパーソンも働き方を迅速かつ柔軟に変えることが求められています。特に昨今では業務のペーパーレス化やリモートワーク化といった取り組みは規模の大小を問わず多くの企業に突き付けられています。
そこで、こうした取り組みを進めようと改革推進室などを設けているという企業の話を聞きますが、そこで出てくる愚痴の中でも「現場から無理だと言われて取組みが頓挫している」という話をよく聞きます。
その話をもう少し深堀りしてみると、改革推進室の担当者は現場の方から「他の支社でペーパーレス化できても、うちの支社は特殊だから難しいですね」とか「対面で話さないとお客様からの信頼を失ってしまうので、リモートでの対応なんてもってのほかですよと言われた」、というような話です。そして、担当者は「それならしょうがないですね」とすごすご帰ってきてしまうということがあります。
しかし、この例のように現場から「無理だ」と言われただけで狼狽えてしまっているようでは一歩も先に進めません。変化に抵抗されるのは当然のことと捉え、それでも前に進めようとする断固たる決意が必須です。
それでは、ペーパーレス化やリモートワーク化などの取り組みに対して現場から反発に遭った際にはどのように対応すればよいのでしょうか。それには断固たる決意をベースにしつつ、まずは「反発の理由」をとことん追究することが必要です。
たとえば先ほど挙げた、現場からの「他の支社でペーパーレス化できても、うちの支社は特殊だから難しいですね」という反発の理由に対しても、そこで引き下がらずに以下3点を追究します。
(1)何をもって自分の組織/地域/業界/環境が特殊だというのか。
(2)その特殊性を是とした場合、それによってペーパーレス化できない理由は何か。
(3)その特殊性を排除/回避することは可能か。
まずは(1)について。「うちは特殊だから無理」とか「この業界は特別だからね」などという話は頻繁に耳にしますが、そもそも「どこが特殊なのか」が実は明確になっていないということは往々にしてあります。
単に「特殊だから」というだけではペーパーレス化できない理由にはならないので、ここはまず「特殊」の中身を明らかにする必要があります。よくよく突っ込んで話を聞いてみると、本人が特殊だと思い込んでいるだけで、他と何も変わらないということは珍しくありません。それが分かれば相手が挙げた「ペーパーレス化できない理由」を潰せます。
次に(2)について。(1)を聞いた上で、本当に特殊な状況や事情などが存在するということが分かったとしても、すぐに引き下がってはなりません。特殊な事情があるからといってペーパーレス化できないとは限らないからです。そこで、さらに突っ込んで特殊な事情がペーパーレス化の阻害要因になっているというのはどのような理屈によるものか、と尋ねます。案外、しっかり考えてみると阻害要因としては不十分であったり、的外れなものであったりするものです。
そして最後の(3)は、(2)の理由が十分かつ妥当なものであった場合に考えます。特殊な事情によりペーパーレス化できない理由が妥当だったとしても、まだ引き下がるのは時期尚早です。今度は「その特殊性を排除、または回避することは可能か」を問いかけるのです。
たとえば、よくあるのが「うちにはこういう特殊な要求をするお客様がいるから対応が難しい」というものです。しかし、そのような特殊な要求をするお客様は全体のごく一部であるというようなことは往々にしてあります。そこで、今度は「その一部のお客様以外を対象として取り組みを適用しませんか」とか「その一部のお客様は一旦保留にして、他のお客様への対応から取り組みを始めてみませんか」などと交渉します。
加えて、これもまたよくあることですが「お客様が新しい対応を受け入れてくれない」という理由は事実ではなく現場の方の勝手な憶測であったりします。そのため、「それはお客様からそう言われたということでしょうか?」とか「アンケートか何かで確認を取られたのでしょうか?」などと確認するのをお勧めします。筆者の経験上、実は憶測にすぎずお客様に話したら新しい対応方法をすんなり受け入れてくれた、ということは度々あります。
ここで挙げたテーマや問いかけはあくまでも例ですが、現場から業務を変える取り組みに対して「無理だ」と反発されたとてもすぐにめげずに、しぶとく食らいつき熟考し、問いかけることで道が拓けるはずです。「なぜ無理なのか」ではなく「どうやったら可能になるのか」という姿勢を崩さずに取り組みを推進しましょう。